孤立・孤独死を防ぐ 東日本大震災の災害公営住宅で今起きていること 人のつながり再生のために〈宮城〉 (25/04/07 18:28)

東日本大震災で被災した人たちの暮らしを支える災害公営住宅で、誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」が深刻な課題となっています。住民と社会とのつながりをどう維持し、見守りの仕組みをどう支えていくのか、そのあり方が問われています。

東日本大震災後、宮城県内で最も多い4400戸余りの災害公営住宅が建てられた石巻市。鈴木明美さん(64)です。津波で自宅が流されて仮設住宅に入居し、2018年からは石巻市蛇田の災害公営住宅で暮らしています。

鈴木明美さん
「(仮設住宅にいた時は)明美ちゃんちょっと見ないねって調子悪いかもしれないねって誰かが訪問してくれた。こっちに来たら自分から外に出ていかないと、誰にも会わない生活になってしまう」

鈴木さんは44歳の時に多発性硬化症という神経の難病を発症しました。視野が欠けていたり、体調が悪い時は体を動かせなかったりと、不自由な暮らしをしています。現在は夫と2人暮らしですが、将来には常に不安を抱えているといいます。

鈴木明美さん
「一人になってしまって外にも出られない状態になったら、結局つながっているのって来てくれるヘルパーやケアマネージャーだったり、そういう方としかつながれないかなって思うと、すごく孤独を感じる。自分がもしここで何かアクシデントがあって倒れたりしたときに、誰かに発見してもらえるだろうかって一番心配でした」

宮城県によりますと、県内の災害公営住宅で一人暮らしをしていた人のうち、誰にもみとられず「孤独死」した人が、2014年から去年までに381人に上り、ここ数年は50人前後と高止まりの状態が続いています。今年は2月末の時点で、すでに14人の孤独死が確認されました。

村井知事
「14年経ちハード整備はほぼ順調に進み、見た目はきれいな町ができあがったが、被災者の皆さんが抱える課題がだんだん深刻になっているような気がする。災害公営住宅に入居されている方の孤独死も増えてきている」

集合住宅での居場所づくりなどを研究する東北工業大学の新井信幸教授はその要因について、次のように話します。

東北工業大学 新井信幸教授
「コミュニティー作りが高齢化も含めてうまくいっていない。それがひいては孤立とか孤独死が増えてきている」

新井教授は災害公営住宅などでのコミュニティー支援をするNPO法人の副代表も務めています。これまでに災害公営住宅の集会所を利用して、住民同士の交流会を100回以上企画。スマートフォンの使い方を教える「スマホサロン」なども開いてきました。

東北工業大学 新井信幸教授
「交流目的でないものも、活動として集会所を利用してもらえると、むしろそういうことの方が関わりやすい場合もあるのかな。自分が関われる選択肢、能動的に関われる選択肢が増えることが、しかもその選択肢が多様にあるということが、地域社会に求められている」

積極的に外に出てこられない入居者を見守る仕組みもあります。153世帯、約220人が入居する南三陸町の災害公営住宅。入居者の7割、約160人が60歳以上で、高齢化が進んでいます。町はこの災害公営住宅に、生活援助員=LSAを常駐させています。LSAは入居者を見守り、困りごとなどさまざまな相談に乗ります。

LSA 三浦美江さん
「(相談内容は)携帯電話の操作、封筒の代筆、文字を書けなくなっている人もいるので」

入居者を訪問し、その日の体調や安否を確認する役割も担います。

LSA 千葉幸恵さん
「なかなか人とは関わりたくないという方もいますので、そういう方たちには個人的にお話したりして時間をかけて話すことでだんだんと向こうからも話をしてくれるようになるので」

LSAは入居者の暮らしを支える、無くてはならない存在です。南三陸町は町内6カ所の災害公営住宅にLSAを配置。これまでは国の交付金で行なってきましたが、町が交付金を活用できる期間が昨年度で終了したため、今年度からは町の財源で事業を続けています。しかし、交付金に比べて町が出せる予算は限られるため、事業の委託を受けている社会福祉協議会は活動の継続に不安を漏らします。

南三陸町社会福祉協議会 高橋吏佳事務局長
「町単独の事業になってくると、小さい市町村だと継続性などに厳しさが出てくるのではないかと感じているので、しっかり国が後ろ盾になって今の市町村の現状を見ていただく必要があると思う」

復興が進んだ町の裏側で、なお続く孤立の問題。住民の暮らしに寄り添い続ける仕組みが求められています。

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