世界が認めるbeyerdynamic~“Made in Germany”の確かな品質 ドラム・マイキング編

自社工場での開発/生産にこだわり、2024年に創業100周年を迎えたドイツの音響機器ブランド、beyerdynamicに迫る当連載。第6回は“ドラム・マイキング編”と題して、同社のマイクを使ったドラムのレコーディングを敢行した。協力してくれたのは、東京都目黒区でいろはスタジオを運営するエンジニアの林田涼太と、菊地成孔が率いるDC/PRGやラディカルな意志のスタイルズといったバンドに参加する、ジャズ・ドラマーの秋元修。“Made in Germany”のマイクはその演奏をどう捉えたのか。演奏の模様は動画公開もしているが、ここでは使用した各マイクの印象を細かく聞いている。動画と併せてぜひご覧いただきたい。

【マイク・レビュー】秋元のドラム演奏やインタビューはサンレコYouTubeチャンネルにて公開!

Photo:Hiroki Obara

 レコーディングは林田が運営する“いろはスタジオ”で実施。ドラムの各パーツにbeyerdynamicのマイクを設置して録音した(使用したマイクは次ページから掲載)。またキック、ハイハット、タム、オーバーヘッドには、それぞれ計2種類のマイクを使った。DAWはAVID Pro Tools、オーディオI/OはPro Tools|HD I/Oを使用。マイクプリはスタジオ所有のものを用いた。

 なお、ドラムには秋元がミュートを施したり、持ち込みのシンバルが使用されるなどした。中でもBOSPHORUS Havanaシリーズのフラットライド・シンバルはこだわりの逸品。そのほか、パーカッションを組み合わせて使ったのもトピックだ。

 録音後、コントロール・ルームにてプレイバックを実施。パーツごとにマイクの印象を聞いていこう。

秋元修
林田涼太

秋元修(写真左)、林田涼太(同右)

 Drummer  秋元修
札幌市南区出身。2014年、洗足学園音楽大学ジャズ・コース首席卒業。菊地成孔、DC/PRG、スガダイロー/a new little oneなどでの活動のほか、2024年にはTHE FIRST TAKEの長谷川白紙「草木」に参加している

 Engineer  林田涼太
いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックやレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、Webサイト“proun.net”の運営や、9dwのサポート(syn)としても活動する

IROHA STUDIO

Control Room
Booth

林田が2009年に立ち上げたレコーディング・スタジオ。ブースではドラムだけでなく、ボーカル、ギターなども含めた各種パートの録音に対応。コントロール・ルームとブースはモニター画面でつながっており、それぞれの様子を確認できる。モニター・スピーカーはBOWERS & WILKINS Matrix 802 Series 3とYAMAHA NS-10M Studio。スタジオ所有のドラム・セットは、TAMA Crestarシリーズだ

Kick|自然な胴鳴りを拾うバウンダリー・マイク

 キックにはバウンダリー・マイクのTG D71をバスドラのホールから内部に入れて設置。併せてホールにM 88とTG D70をそれぞれ順番に立ててレコーディングを行った。まずTG D71について林田は「良い意味でバウンダリーらしくないマイクでしたね」と語る。

 「バウンダリー・マイクでキックを録るときは、基本的にホールのマイクと組み合わせるのですが、TG D71をソロで聴いてみたらバスドラの自然な胴鳴りを再現している印象でした。TG D71だけでも十分成立するように思いますよ」

 アウトとして組み合わせた2本についてはどうだろうか?

 「M 88はハイハットなどのかぶりも少なく、誇張が少なくてナチュラルでした。TG D71と好相性です。中域に特徴があるM 88と違い、TG D70は低域が強く、パワフルな音楽に合いそう。その分アタックはおとなしめだけど、そこはTG D71で補えます。2つを混ぜて音作りするのも良いですね。キックはEQでローミッドを少しカットすると“らしさ”が出るのですが、どのマイクも自然にかかってくれました」

 秋元も「TG D70は、風呂場で歌を歌うような気持ち良さというか……。演奏しているときに聴く音とはまた違う印象の低域が、心地良かったです」と、そのサウンドを評した。

Snare|微妙な強弱のニュアンスを表現

M 201(Top)

M 201(Bottom)

 スネアには、トップとボトムの両面にM 201をセット。今回は秋元がミュートを施したのに加え、金物のパーカッションをヘッドに乗せたため、いわゆるスネアらしいサウンドではなかったのだが、林田の耳にはどう聴こえたのだろうか。

 「パンチ感よりも、微妙なニュアンスを表現しやすい特性かなと。鈴や金物があるとそればかり気になってしまいがちですが、そういう感じもなかったです。近接効果が控えめなのか、オンマイクで録ったときの低域が“ガッ”と膨らむようなこともありません。これならスネアらしい音も奇麗に録れそう。ボトムで拾うスナッピーのザラザラ感も気にならないし、全体と混ぜたときの雰囲気が良かったです。スネアの強弱を聴かせたい音楽に向いている印象でした」

Hi-Hat/Ride|高域が耳に痛くなく扱いやすい

 ハイハットにはダブルリボン・マイクのM 160と、コンデンサー・マイクのMC 950を使用。林田は両機種に共通する特徴として、「ハイハットとして必要な高域以外まで出ると耳に痛くなってしまって扱いづらい。どちらともそこは抑えられています」と評し、続ける。

 「M 160はリボン・マイクだから、低域がどうしても出るのでローカットしてもいいかな。ただ高域が足りないということではなくて、EQで持ち上げると奇麗に出てくれると思います。スーパーカーディオイドのMC 950はハイハットらしいサウンドで録れて、僕は好きですね。ハイハットは特に回り込んでくる音とのかぶりで、位相が気になることが多いけど奇麗に混ざっているし、かなり音量を上げても平気かなと。扱いやすいマイクですよ」

 秋元もMC 950のサウンドを次のように話す。

 「耳元で聴いたときのハイハットの……普段演奏してるときには聴こえない、セッティング中に偶然耳元で鳴ったときとかの音に近いなって。面白いマイクだと感じましたね」

 ライドの下にはM 160を立てた。「リボン・マイク特有の、ライドの余分なごわつきが表に出ないまま、ちゃんとまとまってくれるのが素晴らしいです」と林田は語る。

Tom|利便性が高いクリップとタムらしい音質

TG D58(Hi/Lo)
TG D57(Floor)

TG D35(Hi/Lo)
TG I51(Floor)

 ハイ/ロータムにTG D58、フロア・タムにTG D57と、同じくそれぞれにTG D35、TG I51をマイキング。前者の2つはクリップ式(下部にXLR端子を装備)、後者の2つにはクリップのMKV 87を装着し、タムに直接セットした。林田は「クリップの振動を気にする人もいるけど、全然気にならなかった。むしろウチのような広さのブースだと利便性が高いです」と語る。サウンドについてはいかがだろうか。

 「TG D57/58は、全然誇張がない。かぶりも少なくて、ちゃんとタムをたたいたところだけ拾えるのが録り音の波形からも分かる。金物も奇麗に聴こえました。TG D35、TG I51のほうが強弱をうまくまとめてくれる印象で、個人的には後者が好きかな。でもどちらも、タムらしいサウンドです」

Overhead|楽器の音がきちんと出てくるマイク

M 160(L/R)
MC 950(L/R)

 オーバーヘッドは、ダブルリボン・マイクのM 160から。「オーバーヘッドが拾ったキックが、キックのマイクの音と混ざって気になる、ということは結構あるんですけど、M 160はむしろ補完してくれているかなと。ドラム全体の雰囲気をうまく捉えていますよね」と林田。スーパーカーディオイドのコンデンサー・マイク、MC 950はよりクリアな印象とのこと。

 「硬さがなく、ハイエンドまで伸びている。EQをがっつりかけなくても十分なサウンドです。コンデンサー・マイクを立てると、ハイが抜けすぎてトゥー・マッチだなと思うこともありますが、それが全くなかった。つんざくようなオーバーヘッドが求められていないJポップにも合っていると思います」

 さまざまなシンバルを愛用する秋元は、MC 950を「変わった音のシンバルも含めて、どれもちゃんと聴こえてきてありがたい。楽器の音が出るマイクですね」と表現した。

Room|ルーム・マイクに適したナチュラルなサウンド

M 90 PRO X

 ドラムに相対する部屋の端に、ルーム・マイクとしてM 90 PRO Xを立てた。林田は「ブースが狭くてデッドだから、ルーム・マイクのレンジが広すぎると扱いづらい。M 90 PRO Xは嫌みがなく、混ぜるのにはちょうど良かったです。また、すごくナチュラルさを感じました。コンプとローカットはかけましたが、自然な感じで録音できるマイクを作るのって意外と難しいと聞きますし、そういう意味でメーカーの技術を感じますね」と話した。

ドラムを演奏する秋元。今回はモニター・ヘッドホンもbeyerdynamic製品を活用した。写真は2つ目のマイク・セッティング時で、DT 1770 PRO Xを着用。秋元は「どこかを経由した音じゃなく、演奏している音がヘッドホンからも出ている。面白い体験でした」と語った

ドラムを演奏する秋元。今回はモニター・ヘッドホンもbeyerdynamic製品を活用した。写真は2つ目のマイク・セッティング時で、DT 1770 PRO Xを着用。秋元は「どこかを経由した音じゃなく、演奏している音がヘッドホンからも出ている。面白い体験でした」と語った

収録を終えて

秋元修(写真左)、林田涼太(同右)

表現したいことと録り音が合っていました(秋元)
どのマイクも共通してナチュラルです(林田)

林田 これまでは個性的な音を求めているドイツのブランドというイメージだったんですが、今回試してみて印象が変わりました。思っていたよりもナチュラルなマイクなんだなと。それぞれキャラクターは異なるけれど、共通して言えるのは、あまり誇張をしないこと。自然なサウンドで録りたいときに、すごく向いていると思います。ドラムは特に耳で聴いたときのイメージに近いんじゃないかな。ミックスもしやすそうです。

秋元 録音した音を聴いてみたら、たたいた音がそのまま、生音のように聴こえてきてすごいなと思いましたね。僕がやりたいことと、マイクの特性が良い具合にマッチしたことが、とても興味深かったです。

今回使用したマイク(登場順)

※価格はすべてオープン・プライス(市場予想価格)

TG D71

TG D71
タイプ:コンデンサー・マイク
指向性:ハーフカーディオイド
周波数特性:25Hz~20kHz
外形寸法:86(W)×27(H)×90(D)mm
重量:413g
価格:62,080円前後

M 88

M 88
タイプ:ダイナミック・マイク
指向性:ハイパーカーディオイド
周波数特性:30Hz~20kHz
外形寸法:48.5(φ)×181(H)mm
重量:320g
価格:87,750円前後

TG D70

TG D70
タイプ:ダイナミック・マイク
指向性:ハイパーカーディオイド
周波数特性:20Hz~14.1kHz
外形寸法:57(φ)×91(H)mm
重量:341g
価格:58,420円前後

TG D70

M 201
タイプ:ダイナミック・マイク
指向性:ハイパーカーディオイド
周波数特性:40Hz~18kHz
外形寸法:24(φ)×147(H)mm
重量:228g
価格:68,200円前後

M 160

M 160
タイプ:ダブルリボン・マイク
指向性:ハイパーカーディオイド
周波数特性:40Hz~18kHz
外形寸法:38(φ)×156(H)mm
重量:156g
価格:145,200円前後

MC 950

MC 950
タイプ:コンデンサー・マイク
指向性:スーパーカーディオイド
周波数特性:40Hz~20kHz
外形寸法:21(φ)×128(H)mm
重量:106g
価格:126,860円前後

TG D58

TG D58
タイプ:コンデンサー・マイク
指向性:カーディオイド
周波数特性:20Hz~20kHz
外形寸法:クリップ/85(φ)×118(H)mm、グースネック/20mm
重量:140g
価格:40,080円前後

TG D57

TG D57
タイプ:コンデンサー・マイク
指向性:カーディオイド
周波数特性:20Hz~20kHz
外形寸法:クリップ/85(φ)×118(H)mm、グースネック/72mm
重量:145g
価格:40,080円前後

TG D35

TG D35
タイプ:ダイナミック・マイク
指向性:スーパーカーディオイド
周波数特性:50Hz~14kHz
外形寸法:35(φ)×72(H)mm
重量:95g
価格:20,530円前後
※クリップのMKV 87が付属

TG I51

TG I51
タイプ:ダイナミック・マイク
指向性:カーディオイド
周波数特性:33Hz~19kHz
外形寸法:44(φ)×79.5(H)mm
重量:203g
価格:29,080円前後

M 90 PRO X

M 90 PRO X
タイプ:コンデンサー・マイク
指向性:カーディオイド
周波数特性:20Hz~20kHz
外形寸法:52(φ)×197(H)mm
重量:296g
価格:33,000円前後

※上記の一部マイクを含むドラム用マイク・セットとして、2種類の製品をラインナップ
●TG Drum Set Pro M:168,660円前後(TG D35×4本、TG I53×2本、TG D71×1本)
●TG Drum Set Pro L:268,880円前後(TG I53×2本、TG D71×1本、TG D57×2本、TG D58×2本)

製品情報

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