ところがこれは、ほかの多くの国にとっては、並行輸入車あるいは無許可のグレーマーケット車が出回るチャンスだ。米国では1988年、外国車の輸入を実質的に禁止する法律が議会で可決され、並行輸入車はほぼ見られなくなった。米国が定める安全基準や排ガス規制に適合していることを証明するために、長くて費用のかかる手続きを経ない限り、輸入できなくなったからだ。この「1988年輸入車安全基準適合法(IVSCA)」が制定されたのは、日本や欧州の自動車メーカーが、米国の自動車市場でシェアを大幅に拡大していた時期である。まさに現在の中国EV市場の優位性と酷似している。

例えば、同法では車種の輸入が認められる前に衝突試験に合格することが義務付けられている。この試験は、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が承認した登録輸入業者によって実施される必要があるため、個人が1台の車を米国に出荷することは、基本的には不可能だ。

ただし、この規則の適用には例外がある。25年以上経過した車両であれば対象外で、承認プロセスが免除されるのだ。「カリフォルニア州のように、さらなる制限を設けている州もありますが、ほとんどの場合、25年落ちの中古車であれば、なんの規制も受けません」と、中古車ビジネスを手がけるPacific Coast Autoのオーナーであるデレク・ウェルドンは言う。同社は、まさにこの例外に着目して、すでに成熟した米国の自動車市場に、日本製の中古車を投入してきた。通常、こうした中古車は保険加入や修理が難しいことが多いが、米国ではほぼなんの支障もなく登録できているという。

しかし、中国のEVブームはこの10年以内に起こっているため、この例外を利用した中国製EVの輸入はできていない。「中国でEVが製造される以前、つまり2000年よりも前に製造されたEVでない限り、新車であろうが中古車であろうが、中国から米国に輸入することは不可能なのです」とウェルドンは語る。

解決方法1:州の独自規制を利用する

それでも、妥協する覚悟さえあれば、一時的あるいは大幅な制限付きではあるが、中国車を合法的に米国に持ち込む方法はいくつかある。

まず、テキサス州やオクラホマ州など一部の州では、高速道路を走らない低速および中速車両に対して、個別の安全規制を設けている。このことに、カーリンは21年に気づいたという。従来、こうした車両として想定されていたのは、公道を走行できるゴルフカートや農作業用車両だった。しかしカーリンは、宏光MINI EVのマカロンモデルもこのカテゴリーに入る可能性があることを発見した。

Image may contain Car Sedan Transportation and Vehicle

中国のEVメーカーであるBYDの旗艦モデル、セダン「漢(ハン)」 は、メキシコで製造されている。

Photograph: Courtesy of BYD

「マカロンにはバックアップカメラが装備されています。そこにバックアップアラームも付いていて、物体に近づくと、ビープ音がより速く、少し大きくなります。ですから、普通の低速車や中速車よりもはるかに安全です」とカーリンは話す。

カーリンは、時速35マイル(約56.4km)を超えない(つまり、高速道路は利用しない)という条件で、マカロンを登録することができた。輸出業者に頼んで、車両に速度制限を実装してもらうことで、その要件を満たしたという。車の用途が、都心部での通勤や食料品の買い出しだけだったので、最高速度の制限は問題とは思わなかった、とカーリンは話す。

解決方法2:非米国民に依頼する

もうひとつ、規制の対象外になっているのが非米国民だ。米国民でなければ、米国のナンバープレートを取得せずに、外国車を一時的に国内に持ち込むことができる、とツァオ・ヤンは言う。ツァオはロサンゼルスを拠点に、中国車の輸入という黎明期市場を開拓しているCDM Importのオーナーで、大型の新型中国車を米国に一時的に輸送する手助けをしている。

WACOCA: People, Life, Style.