日本は従来より台湾への投資が盛んです。歴史的背景があるため、1952年の外国人投資解禁以来、日本は積極的に台湾に投資し、それ以降も安定的に投資を続けている傾向が見られます。バブル期の1980年代末期には、桁違いの投資件数(毎年、総投資件数の40%)を実現しました。2000年代に入ると、毎年平均200~300件の日本からの投資があり、2010年代に入ると、平均投資件数は400件に増え、ピークに達したのは2012年と2013年で、それぞれ619件と618件の投資を実行しました。この発展の勢いはコロナ禍で止められ、2020年以来、投資件数は200件台に戻り、投資件数・金額ともにかなりの衰退が窺えます。

コロナ禍が落ち着いた後、2022年に史上最多の年間約17億米ドル弱の投資金額を達成しましたが、その後、次第に縮小し、2024年はおよそ2022年の4分の1の約4億5000万米ドルの投資金額にとどまりました。

近年は衰退しているものの、質の良い労働力を提供できるため、早期から日本の製造業にとって海外工場の良い立地となり、最近では、工業用の電気料金と水道料金が比較的安価なことから、半導体等の先端科学技術の生産基地として最適だと言われています。また、歴史・風土的な要因もあり、和食・日本文化が台湾では比較的受け入れられやすいため、飲食、小売り、ホテル等のサービス業も台湾への進出を成功させています。

2024年の統計の数字から見ると、日本企業の台湾への投資について、件数が最も多い業種は卸売と小売業であり、88件です(約30%)。投資金額が最も大きいのは製造業で、約1億2600万米ドルです(約28%)。

台湾の外資による投資環境については、対中関係の緊張、米中貿易摩擦等の従来の要因のほかに、今はアメリカのトランプ政権の態度も大きく影響しています。

成熟かつ安定した投資規制
Albert Kao, Formosa Transnational Attorneys at LawAlbert Kao, Formosa Transnational Attorneys at Law高 志明
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上記の不確実な外部要因はあるものの、外資による投資に関する会社法制および投資法制について、台湾の成熟かつ安定した法規制は高く評価されています。

台湾の投資法制については、中国資本と外国資本に分けられて規制されています。中国資本が比較的、厳格な規制を受ける一方で、外国資本の場合、「原則許可・例外制限/禁止」という規制を適用しています。すなわち、農林水産業、武器製造業、輸送業等の「ネガティブリスト」に載せられている業種でなければ、原則として外国資本は投資することができます。

近年、台湾では洋上風力発電への投資が盛んで、このような「発電業」は、「ネガティブリスト」に載せられている業種ではないため、外国資本からの投資には特に問題はありません。ただし、外国人投資条例により、上場会社でない会社への新規投資には事前申請が必要です。その後の投資計画に関する修正(株数・投資金額の増減、定款変更等)は、場合により事前申請もしくは事後報告が必要となります。このため、投資を検討する際には、上記の手続きを念頭に法務専門家に問い合わせていただきたいと思います。

ちなみに、このような外国資本の事前許可制度は、日本の外為法の対内直接投資の事前届出制度に類似すると思います。ただ、「ネガティブリスト」はとても明確な基準(どの事業が禁止されるか、どの事業が制限されるか、制限の内容はいかなるものかが明記されている)なので、運用上は日本の事前届出制度より基準が明確だと言えるでしょう。

分かりやすい会社法制

日本企業にとって、台湾の会社法制は理解しやすいものです。会社の類型は従来の日本商法とほぼ一致しており、会社の機関も日本法と類似し、非公開の株式会社の場合、株主総会、取締役会(または取締役1名もしくは2名)、監査役(条件により設置しなくてもよい)により構成されます。日本人にとって台湾の会社法制は理解しやすいとよく言われいてます。

Wen-Chih Chen, Formosa Transnational Attorneys at LawWen-Chih Chen, Formosa Transnational Attorneys at Law陳 文智
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実際、台湾では会社法改正後、会社の機関設計に、より柔軟性を与えており、日本の会社法にさらに接近していると言われています。特に、日本企業が台湾でよく採用してきた法人株主一人の株式会社については、取締役会と監査役を設置せず、取締役1名を置くだけでよく、日本の取締役会非設置会社に相当します。これによって、会社の維持コストを削減できます。

また、株主総会および取締役会の開催方法については、現在は、非公開会社の場合、定款にその旨の定めがあるという前提で、実体の取締役会を開催せず、書面決議で議案を採択することができ、会社運営の利便性が向上しています。また、株主総会についても、従来はテレビ会議による開催が認められていませんでしたが、現在は、非公開会社の場合、定款にその旨の定めがあるという前提で、テレビ会議による開催が可能となっています。さらに、新型コロナ感染急拡大の時期にテレビ会議による開催が上場会社で適用されず、上場会社の定時株主総会の開催に大混乱がもたらされたことに鑑み、会社法が改正された結果、天災、事変もしくはその他の不可抗力な事情のある場合、上場会社でもテレビ会議またはその他主務官庁が許可する方式による開催が可能となっています。

台湾における取締役の役割は日本法に類似しますが、選任方法については特徴があります。一般に累積投票制という制度で選任されますが、法人株主は複数の代表者(自然人)を指名し、取締役選挙に参加させることができます。当該代表者が当選した場合、会社の取締役である一方、法人株主が指名した代表者という一面もあるので、法人株主はその任期中に理由なく、別の選任手続なしで、当該代表者の取締役を更迭することができます。台湾投資先に対するコントロールという観点から、この制度は非常に便利だと評価されることが多いのです。

多元的な組織再編等の方式
Pang-Heng Hung, Formosa Transnational Attorneys at LawPang-Heng Hung, Formosa Transnational Attorneys at Law洪 邦桓
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また、組織再編で台湾への投資を実施する場合、ほとんどの再編手法は日本と一致しています。再編に関する法規制について、会社法とは別に企業M&A法という特別法が設けられています。同法は特別法としてM&A事務を包括的に定めており、優先的に適用されます。その中では、組織再編の対価についてもかなり緩和されており、現金でも株式でも対価とすることが可能です。2022年に同法の改正があり、情報開示の強化、株式買取請求権の適用範囲拡大等により、少数株主に対する保護を強化したことがよく強調されていますが、そのほかにも同改正においては、非対称式買収(一定条件のもとで、株主総会の決議が不要、取締役会での議決で足りる)の適用範囲の拡大、税金の優遇措置等の、組織再編を促進できる措置が講じられています。

他方、上場会社への公開買付制度も台湾では成熟しています。以前、公開買付成立後の買付中止があり、市場への影響が大きかったため、買付資金に関する証明の提出が義務化された点以外には、他国の制度と大きな相違はありません。外国企業による公開買付の事例も多くあります。

新規起業・合弁企業に優しい法規と実務

台湾の会社法には以前、譲渡制限のかかった特別株の制度はあったものの、このような特別株を発行しない場合、会社は定款で株式の譲渡を制限することができず、日本のような「株式譲渡制限会社」は存在しませんでした。ですが、株式会社においても、株主人数が少なく、資本的な結び付きより人的な結び付きが強調されるものがあるという点に鑑み、2015年の改正で、閉鎖的会社という組織形態を創設しました。この会社においては、企業自治に委ねる事項が多く、新規起業・合弁企業においては、従来の規制に束縛されず、自らの意思による会社運営を実現できます。また、特別株の内容もはるかに充実しており、全部取得条項(日本会社法108条1項7号)、取得条項(日本会社法108条1項6号)等の規定はありませんが、新規起業・合弁企業にとっては、会社の内部経営、リスク分散と利益分配をより柔軟に取り決めることができます。

なお、台湾の会社法では、非公開会社における議決権拘束契約の効力が認められています。裁判例には、議決権拘束契約をはじめとする株主間契約に対して、その効力を認容した判例もしくは判断基準を提示した判例がいくつかあります。これにより、従来効力が問題視された株主間契約について、その効力が一層予測可能となり、合弁企業において事前の取り決めがさらに容易となります。

結び

上述の説明の通り、完全子会社による新規起業、台湾現地他社との合弁会社の設立、組織再編方式による台湾会社の買収等、台湾上場会社に対する公開買付のいずれも、台湾の法制度において対応でき、日本企業のさまざまなニーズを満足させることができるはずです。近年、関連法制度の改正がほとんどなく、割と安定している投資法制および会社法制だと言えます。すなわち、経験のある弁護士はよりスムーズに日本企業の台湾への投資を指南することができると言えるでしょう。

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