「資金は十分にあって、政治的意思も十分ある。それなのに、こうした技術を開発することができない」。アレンは言う。「問題は土地がないことと、規制が多すぎることなのです」
だが、元政治コンサルタントで、現在はSubstackでニュースレター「Nerd Reich」を配信するギル・デュランは、何もないところに新たな町を建設すれば好ましくない結果を引き起こす恐れがあると警告する。「法の外にあり、法を超える存在があるなら、国全体にとってそれは何を意味するでしょうか? あたかも、特定の人には法の手が及ばない場所をつくりだすために、それ以外の土地を抉って空っぽにするようなものです」
ゴフはこれに反論する。ホンジュラス全土とは異なる税制が敷かれたプロスペラと違い、米国内につくられるフリーダムシティの人々は国内のほかの町と同じような州税や連邦税を払うことになるだろうという。大きな違いは規制のあり方だと付け加えた。
規制緩和は誰のためか
フリーダムシティの勃興によって明らかに恩恵に与る企業がある。長寿を専門とするバイオテック会社Minicircleは、人間の寿命を延ばすための遺伝子治療を開発している。テキサス州オースティンとプロスペラに拠点をもつこの会社の創業資金を出したのは、ピーター・ティールとOpenAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマンだ。Minicircleの共同設立者であるマック・デイビスはフロンティア財団にも席を置いている。
デイビスによると、たんぱく質フォリスタチンに関するMinicircleの遺伝子治療臨床試験は、プロスペラでしか実施できなかった。彼はこの状況を変えたいと言う。この遺伝子治療は、副作用なしに筋肉量を増やすことができ、寿命を延ばす効果がネズミで確認されたのだとデイビスは続ける。
「みんなが愛犬と一緒に遺伝子治療を受けられる『長生きシティ』を作りたいのです」
フリーダムシティはきっとほかの多くの企業にもメリットがあるとデイビスは言う。例えば、スペースX、防衛関係のハードとソフトを開発するAnduril、アルトマンが会長を務める核分裂関連スタートアップOkloなどだ。
原子力、半導体、防衛技術などアレンがフリーダムシティで成長させたいとして挙げる産業の多くが、SaaS、デジタル、インターネット消費者ブランドから離れつつあるベンチャーキャピタルが注目する分野と一致しているのは、偶然ではない。
「テーマは米国のダイナミズムです」。ベンチャーキャピタル会社であるアンドリーセン・ホロウィッツが2022年に出した宣言を踏まえながら、アレンは言う。その宣言は「もがき苦しむ政府機構の欠点を埋めてきたのは、偉大なテック企業の科学的・経営的な優秀さである」と主張していた。2021年以降、ベンチャーキャピタリストたちは防衛テック分野のスタートアップだけに絞っても1,000億ドル以上を注ぎ込んできた。
莫大なエネルギーを必要とするAIデータセンターを維持していくため、原子力を見直し始めたテック企業もある。アマゾンは昨年、複数の原子力契約を結び、グーグルは2024年10月に原子力会社と契約を結び、メタ・プラットフォームズは原子力の活用方法に関する提案を募集している。
フリーダムシティは、製造業のハブや造船基地としても活用できるとゴフは語る。規制の緩い特区ならば、環境アセスメントをしなくて済むからだ。メイソンによると、フロンティア財団とチャーター・シティ研究所と連携するアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所は、住宅供給を増やすため、何とかしてフリーダムシティを活用したいと考えている。
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