3月26日、中国の習近平国家主席は1月、華為技術(ファーウェイ)の創業者である任正非氏やアリババの共同創業者の馬雲氏ら国内最有力の企業トップを集めた会議を大々的に開催した。写真は済南市2月、ロボット犬による元宵節のパフォーマンスを見学する人々(2025年 ロイター/cnsphoto)
[香港 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 中国の習近平国家主席は1月、華為技術(ファーウェイ)の創業者である任正非氏やアリババ(9988.HK), opens new tabの共同創業者の馬雲氏ら国内最有力の企業トップを集めた会議を大々的に開催した。その中に、あまり知られていないロボットの新興企業、宇樹科技(ユニトリー・ロボティクス)の35歳の最高経営責任者(CEO)、王興興氏もいた。王氏が産業界のトップに上り詰めたことは、中国経済においてロボット産業の重要性が高まっていることを裏付ける。
各国がロボットに注目する主な原動力の1つに、人口動態の変化がある。中国では、急速な高齢化と若者の工場労働離れが相まって労働力不足が生じており、2021年の公式予想では25年までに製造業労働者が3000万人近く不足するとみられている。
状況はさらに悪化しそうだ。中国の労働人口は45年までに約6億4500万人に減少し、総人口の半分以下になる見通し。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの推計によると、ピークの13年の労働人口は7億9400万人だった。中国経済は輸出に依存しているだけに、この傾向が続けば、35年までに1人当たり国内総生産(GDP)を20年の水準から倍増するという習近平氏の目標達成が阻まれかねない。
Line chart showing China’s working age population is declining電気自動車(EV)の比亜迪(BYD)(002594.SZ), opens new tab(1211.HK), opens new tabやスマートフォンの小米科技(シャオミ)(1810.HK), opens new tabといった中国の有力企業が生産ラインの自動化に躍起になっているのも無理はない。ただ、中国は産業用ロボットの設置台数で世界最大のシェアを誇っているものの、その大半は溶接、塗装、組み立て、その他の反復作業で使用される固定アームであり、比較的ローテクだ。この市場は日本、ドイツ、スイスの一握りのメーカーが支配している。
これらの機械が高度化するにつれ、状況は変化するだろう。人工知能(AI)、半導体、ハードウエアの進歩を背景に、米国と中国は現在、工場やレストラン、病院、さらには家庭で使用できる人型ロボットの開発競争を繰り広げている。
米半導体大手エヌビディア(NVDA.O), opens new tabのジェンスン・フアンCEOは最近、5年以内に人型ロボットが製造業で広く使用されるようになると宣言した。テスラ(TSLA.O), opens new tabのイーロン・マスクCEOは人型ロボットを「史上最大の製品」と呼び、間もなく人型ロボットの数が人間を上回ると予測している。もっともマスク氏による技術普及トレンドの予測はこれまであまり当たっていない。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストらは、30年までにロボットの世界出荷台数が年間100万台に達すると予測している。主な要因は産業需要と、教育およびサービス分野における初期の採用だ。BofAグローバル・リサーチの中国自動車・産業調査部門の責任者、ミン・リー氏は30年時点の平均販売価格を1台当たり2万ドル前後と予想しており、市場規模は200億ドルになる計算だ。さらに30年先まで見据えると、BofAは人型ロボットの数が実に30億台に達し、サービス業の労働力の半分を置き換えると予測している。
つまり、人型ロボットがスマホやEVの軌跡に似た飛躍を遂げるというシナリオだ。23年までの10年間に、中国でのEV販売台数は年率90%のペースで成長した。部品コストの低下と政府の積極的な支援が中国でのEV普及を後押しした。政府は製造業の大幅な強化を推進している。
しかし、さまざまな環境に適応し、人間ができる大半の作業を行え、人間とリアルタイムでやりとりできる、いわゆる汎用ロボットには大幅な技術的進歩が必要になる。現在の機械学習や生成AIモデルは、まだそのレベルにはほど遠い。例えば、テキストベースの大規模言語モデルでは、視覚データも処理する必要がある機械の訓練はできないだろう。
Bar chart showing rising forecast robotic units sold by Tesla to 2034.
それでも、米国ではテスラが23年に第2世代の人型ロボット「オプティマス」のプロトタイプを発表し、今年中の量産化を目指している。エヌビディアも複数のプロジェクトを進行中だ。
しかし、両社に比べて知名度の低い中国の宇樹科技(アリババが出資)や深セン市優必選科技(UBテック・ロボティクス)(9880.HK), opens new tabなどは既に商業販売用の製品を備えている。前者は昨年、2万ドル未満の低価格の人型ロボットを発表し、今年初めには大勢のロボットが踊る映像がテレビ放映されて中国全土を驚嘆させた。宇樹科技のロボット「ウォーカー」は既に中国高級EVメーカー、Zeeker(ジーカー)(ZK.N), opens new tabとBYDの自動車工場に導入され、人間と協力しながらより高度な作業を行っている。中国が初期の成功を収められたのは、洗練されたサプライチェーン(供給網)が確立されていたおかげだ。中国はEV分野で世界をリードしており、ビジョンシステム、センサー、電池など多くの分野がロボット産業と重複する。人型ロボットを真っ先に採用したEVブランドは現在、自らそうしたロボットの製造に取り組んでおり、小鵬汽車(シャオペン)(9868.HK), opens new tabは来年の大量生産開始を目指している。
しかし、中国は依然として多くの部品を外国企業に依存している。特に、モーターの回転数を落としながらトルク(負荷)を高めるのに不可欠な減速機で、その傾向が顕著だ。しかし緑的楷波(リーダー・ハーモニアス・ドライブ・システムズ=リーダードライブ)などの地元サプライヤーは着実に追い上げている。政府もまた、手厚い補助金でこの分野を支援する。
Bar chart showing forecast revenue of China’s Leaderdrive to grow quickly through to 2030
それでもなお、中国のロボット工学は間もなく壁にぶつかる可能性がある。米国はソフトウェア、AI、半導体の分野で依然として世界をリードしており、これらはすべて人型ロボットの訓練に不可欠だ。例えば、宇樹科技はエヌビディアの半導体に依存している。ロボット犬が軍で採用されているゆえに、中国の新興企業やサプライチェーンは米国から制裁や技術規制を課されるリスクがある。米国の議員らは既に、中国のロボットが「次の脅威」だと警告している。ロボット競争における中国の初期のリードは、薄氷の上に立っているようだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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