「何かが起きていることを確かに感じています」とサリックは語る。同社の3月1日から18日までの純経常収益の伸びは、1月と2月に記録した伸び率を既に「上回っている」という。「これは季節性や自社の営業努力では説明できない、オーガニックグロースです」

このように、EU代替品への乗り換えの動きの兆しはある。だがその影響は、少なくとも現段階では小さそうだ。世界中の政府や企業は、クラウド及び技術サービスプロバイダー大手3社のクラウド・サービスを複数利用している。その内容は、認証手段、ホスティング、データストレージ、そして最近ではAIデータセンターなど多岐にわたる。

(クラウドを)移行するとなると、大企業の場合、何を移行すべきか、そしてその移行に伴うリスクを検討したり、実際にシステム変更したりするには何カ月、いやそれ以上かかる可能性がある、とコットルフーバーは指摘する。「ストレージが100ペタバイトもあれば、インターネット経由での移行には何年もかかるでしょう」

欧州企業は長年、毎年のように巨額の利益を生むグーグルやマイクロソフト、アマゾンなどが提供するクラウドサービスや技術インフラに対抗するのに腐心してきた。しかし、同じ規模の類似サービスを、欧州の代替クラウド企業が提供するサービスのなかに見つけるのは難しそうだ。

「ハイパースケーラのクラウドエコシステムに深く入り込んでしまっていると、同等のサービスをほかで見つけるのは困難でしょう」と、起業家でオランダ政府の規制当局員を務めたこともあるベルト・ヒューバートは話す。ヒューバートによると、米国企業のクラウドに新たに移行する予定だった複数のケースが保留、あるいは再検討中だという。

欧州政府が米国のクラウドに移行するのは、もはや「安全」ではないものの、欧州の代替クラウドの競争力は不十分だと、ヒューバートは指摘する。「ここ欧州では、たくさんの高級木材を販売しています。それなのに、家具販売はそれほど多くありません」とヒューバートは語る。しかし、それも変わる可能性があるだろう。

欧州議会の元議員であるシャーカは、(政府が)新規投資、公共サービス購入方法の多様化、欧州第一主義的アプローチ、そして欧州のテック・スタックへの投資などを組み合わせて実施することで、欧州大陸における、広範な活動を活発化させられるだろうと語る。

「トランプ政権の劇的な変化は非常に明白です」とシャーカは警告する。「何が起きてもおかしくありません。欧州が自力で何とか対処すべきなのは、明らかです。実際に意味のある行動に移すためには、国防費増額で見られたのと同じようなスピードとリーダーシップが必要でしょう」

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるセキュリティの関連記事はこちら。クラウドの関連記事はこちら。

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