アングル:景気悪化のNZ、就職機会求め国外移住者が急増

 大工をしているコリー・ヌガルさんはパートナーのエリアン・レリモさんとともに景気後退に陥ったニュージーランドを離れ、オーストラリアのゴールドコースト地区へ渡った。写真は、夕方の景色。2023年8月、ニュージーランドのオークランドで撮影(2025年 ロイター/Molly Darlington)

[ウェリントン 4日 ロイター] – 大工をしているコリー・ヌガルさんはパートナーのエリアン・レリモさんとともに景気後退に陥ったニュージーランドを離れ、オーストラリアのゴールドコースト地区へ渡った。家族や友人と泣く泣く分かれたのは、より多くの雇用と賃金が得られる機会を求めたためだ。

「ゴールドコーストの方が選択肢やチャンスが豊富にある」と語るヌガルさんは、ニュージーランドに比べ、建設業で働けば3倍稼げると見積もる。

ヌガルさんやレリモさんのように、ニュージーランドから国外に移住した人は2024年に12万8700人と過去最多を記録した。

背景には、ニュージーランド経済がコロナ禍を除けば1991年以降で最悪の落ち込みに見舞われているという事情がある。アナリストはその原因として生産性の低さと、信頼できないデータなどによるさまざまな政策の失敗を挙げている。

失業率は4年余りぶりの高さに達し、就業者数の年間減少幅は09年以来の大きさ。企業倒産は過去10年で最速のペースで増えている。

HSBCによると、24年のニュージーランド経済は先進国で最も低調に推移した。

ところがタスマン海を挟むオーストラリア経済はずっと好調で、失業率は記録的な低水準にとどまり、職を探すニュージーランド国民にとって人気の候補地になっている。

1973年以降、オーストラリアとニュージーランドの国民は互いに何の制限も受けずにいずれかの国で生活し、仕事をすることができる。

これまで両国間で人の出入りは繰り返されてきたが、特に鉱業と建設の分野でオーストラリアの方が働き口の確保について見通しが良いことから、差し引きではオーストラリアに向かう人が多い。

実際ニュージーランド出身の50万人余りの人が、オーストラリアに定住している。

ニュージーランドはなお流出人口を流入人口が上回っているとはいえ、同国への純移民の数は、23年の12万8300人から24年に2万7100人まで激減した。

<刺激策巻き戻しが打撃>

ニュージーランドは新型コロナウイルスのパンデミックに、国境閉鎖と景気刺激策を通じていち早く対応した。これらの措置がインフレ圧力を生み、住宅価格を歴史的高水準に押し上げてしまった。

その結果、ニュージーランド準備銀行(RBNZ、中央銀行)は過去最速ペースでの利上げを強いられ、政府も財政の紐を急激に引き締めざるを得なくなり、景気後退に突入した。

年金関連サービスを提供するシンプリシティのチーフエコノミスト、シャムビール・イーカブ氏は「非常に強力な景気刺激措置が極めて素早く巻き戻される影響をダブルパンチで被ってきた」と指摘した。

イーカブ氏の説明では、オーストラリアはそこまで金利が上昇せず、オーストラリア準備銀行(中央銀行)は先月まで利下げを開始する必要もなかった。

対照的にRBNZは22年11月時点で、インフレ抑制のために「意図的に景気後退を作り出そうとしている」と認め、24年5月までにその目標を達成した後、8月に利下げ政策に転換したものの、それまでのタカ派的な警告がすでに企業や家計に打撃を与えていた。

こうしたRBNZの判断を曇らせたのはデータの正確性やタイミングに関する問題だった。ニュージーランド統計局は公表データの大幅な見直しに着手し、23年は当初の想定より成長が急速だったが、24年半ばはより激しく収縮したことが判明。RBNZのチーフエコノミスト、ポール・コンウェイ氏は「完璧で正確なリアルタイムデータが手元にあれば、情報発信の方法は変えられただろう」と嘆いた。

中道右派の国民党が主導する政権が編成した24年予算も、債務圧縮を目指し、景気下支えの新規支出はほとんど盛り込んでいない。そして支出を減らしたにもかかわらず、税収の落ち込みによって、政府は向こう5年で財政を黒字化する目標を断念せざるを得なかった。

<帰国は当分先>

コンウェイ氏は、一部の企業は業況改善を見込むが、家計が安心を感じるのは年の後半以降だろうと予想する。

問題を複雑にしているのは、ニュージーランド経済は生産性が大半の先進国を下回り、高水準の住宅関連債務を抱えている点だ。

政府は、現在総選挙があれば勝利は難しいとの世論調査を踏まえ、規制緩和や鉱業支援、観光業への投資などの成長押し上げ策を推進している。

ウィリス財務相は先月、さまざまな課題は全て早急に対処する必要があると明言した。

ヌガルさんとレリモさんは、金銭面でもっと安心できるようになったらニュージューランドに帰国するつもりだが、当面は戻るつもりはない。

レリモさんは「我々はニュージーランドを愛しているが、経済的にはそれほど魅力的ではない」と打ち明けた。

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