ステランティスの危機感
しかしながら欧州メディアが最も注目した中国系ブランドといえば、EVメーカーのリープモーター(零跑汽車)である。同社は2015年に杭州で創立。2023年にはステランティスが20%出資した。さらに同年、両社はステランティス:リープモーター=51:49の出資比率でオランダにリープモーター・インターナショナルを設立。同社は中国以外でのリープモーター車の販売権を有する。
リープモーターは中国系でありながら、前述のパビリオンではなく、ステランティス系であるアルファ・ロメオ、プジョー、シトロエンと同じパビリオンにブースを構えた。ここからも――公式には定義されていないものの――ステランティスにおいて15番目のブランドに限りなく近い位置づけにしようという意図が伝わってくる。
プレスカンファレンスでは、リープモーターの創業者兼CEOである朱 江明氏に続き、ステランティスのカルロス・タバレスCEOも登壇。製品の高い技術と品質を強調するとともに、世界各地で手ごろな電気モビリティーソリューションを提供できると説明した。
ところでイタリアの経済紙『イル・ソーレ24オーレ』は2024年9月末、「ステランティスがルノーと合併するうわさがある」と報道した。それに関して後日ロイターは、ステランティスのタバレスCEOが「臆測にすぎない」、ルノーのデメオCEOも「ただのうわさだ」としてコメントを控えたと報じた。ただし、ステランティスが2024年前半に続き、第3四半期も業績不振が明らかになったことを考えると、ただのうわさとして一蹴できないのもたしかだ。さらにショー開幕前の2024年10月4日、欧州連合(EU)が中国製EVに対する最大35.3%の追加関税案を成立させた。リープモーター車にどのような影響があるか、注意深く見守りたい。
ステランティスとリープモーターの提携は、欧州メーカーにとって中国ブランドに対する白旗すなわち降伏なのか? それとも新時代の狼煙(のろし)か? 答えは2年後の、ここパリでわかるだろう。
イタリアに戻った翌々日、フィレンツェ郊外のシトロエン/プジョー/オペル販売店の前を通りかかって驚いた。各ブランドのロゴとともに、「Leapmotor」の文字が掲げられ、ショールームにはパリで見た車両が早くも並んでいた。前述のリープモーター・インターナショナルの報道資料を読み返せば、すでに2024年9月にヨーロッパで事業を開始。第4四半期からはインド、アジア太平洋、中東、アフリカ、南米に拡大する予定となっている。資本提携から1年後にディーラー販売を開始し、それも国際ショーでのお披露目よりも早いとは、タバレスCEOが抱く危機感が伝わってきた。自動車業界における意思決定のスピードは、もはや過去とは比べ物にならないほど加速しているのである。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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リープモーターの記者発表より。同社に出資し、かつ合弁で販社を設立したステランティスの、カルロス・タバレスCEO(右から2番目)も登壇した。
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