コラム:欧州企業、極めて高いロシア市場復帰の障壁

 3月10日、欧州の巨大企業は、想定外の事態を想定する必要に迫られつつある。モスクワのショッピングセンターで2月撮影(2025年 ロイター/Maxim Shemetov)

[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 欧州の巨大企業は、想定外の事態を想定する必要に迫られつつある。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後にロシア事業から撤退したこれらの企業は、ウクライナ和平という手柄を欲するトランプ米大統領の姿勢によって、ロシアに復帰する可能性が見えてきたのだ。ただ復帰のハードルは途方もなく高い。

ロシアから撤退した企業はファッションブランド「ザラ」を展開するスペインのアパレル大手インディテックス(ITX.MC), opens new tabやデンマークのビール大手カールスバーグ(CARLb.CO), opens new tab、仏自動車大手ルノー(RENA.PA), opens new tab、米マクドナルド(MCD.N), opens new tabなど数百社に上る。これらの企業にとってロシア撤退は痛手だった。猛スピードで複雑な契約の解消や、製造拠点の売却を迫られた。仏食品大手ダノンc(DANO.PA), opens new tabがロシア国内の乳製品事業の支配権を委譲した際には、世界売上高の5%を失った。英石油大手シェル(SHEL.L), opens new tabはロシアの天然ガス大手ガスプロムとの合弁事業から撤退したことで、四半期の税引き後利益が最大50億ドル失われたと説明している。

理論上、企業には2兆ドル規模のロシア経済に復帰できる道筋がある。ロシア事業を国内企業に売却した際の契約に、買い戻し条項を盛り込んだ企業もある。

例えばルノーはロシアの主要自動車メーカー、アフトヴァースの過半数株式を割安な価格でロシア大統領府に売却したが、6年以内に買い戻すオプションを付けた。独メルセデスベンツも、ロシア資産を国内自動車ディーラーチェーンに売却することで合意した際、同様の規定を設けている。インディテックスはロシア事業をアラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置くダヘルグループに売却したが、同社との間で将来フランチャイズ契約を結ぶオプションを付けた。

もっとも、これらのオプションが実行に移されたら驚きだ。ルノーが買い戻しオプションを発動するには、売却以降にアフトヴァースが行った投資をカバーするために少なくとも13億ドルを払う必要があるとロイターは報じている。LSEGの推計では、これは同社で今年予想される全世界の純利益の約半分に相当する。

その上、Breakingviewsが取材した欧州大企業は、ロシア復帰を阻む2つの現実的な障壁を挙げている。継続的な和平の必要性と、欧米による対ロシア制裁の打ち切りだ。いずれも問題が多い。

米国は制裁を撤回する可能性がある。実際、そのプロセスはすでに進行中かもしれない。しかし欧州連合(EU)や英国では市民がウクライナを支持しており、米国に追随する可能性は低い。企業は、仏エネルギー大手トタルエナジーがイランで経験したことの二の舞を警戒している。米国とイランの関係改善後、同社は2017年に西側諸国として初めてイランとの契約を締結したが、トランプ氏が制裁に関して異なるアプローチを取ったことで1年後に撤退した。

ロシア情勢が急激に巻き戻されるリスクはさらに大きそうだ。ウクライナが停戦に同意したとしても、EU加盟国へのロシアの侵攻という脅威に対処するために、欧州は急速に再軍備を進めている。一方、米国では2028年に民主党の大統領、あるいはトランプ氏と異なる見解を持つ大統領が選出される可能性がある。それでもなお飛び込もうとする欧州企業があるなら、これらのリスクをなぜ受け入れられるのか説明する必要があるだろう。

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●背景となるニュース

*3日付のロイター報道によると、米国は対ロシア制裁を緩和する計画を立てている。トランプ大統領がロシアとの関係修復とウクライナでの停戦を目指しているためだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Aimee joined Breakingviews in 2017 and writes about pharmaceuticals, consumer goods groups, retail and insurance. She is also co-host of the Breakingviews podcast The Viewsroom. Based in Ireland, she previously spent three years at The Sunday Times as banking correspondent. Prior to that, she was a senior reporter covering the bond market at IFR, a financial trade publication published by Thomson Reuters. She holds a degree in English and History from the National University of Ireland, Galway, and a diploma in journalism from the London School of Journalism.

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