国賓として来日したブラジルのルーラ大統領夫妻を歓迎する宮中晩さん会が、あす、皇居・宮殿で開かれます。
国内最高のもてなしの場。
6年ぶりに開かれる宮中晩さん会について、詳しくご紹介します。
(社会部記者 橋本佳名美・山下哲平)
「国賓」とは
そもそも、国賓とはどのような「お客さま」なのか。
日本を訪れる外国の要人の接遇は、閣議決定などに基づいて行われています。
国王や大統領は「国賓」、皇太子や王族、首相、副大統領は「公賓」などと5段階のステータスが設けられ、それに応じてもてなしの内容が決められています。
このうち、国賓と公賓は「政府が儀礼を尽くし公式に接遇する」とされ、公式実務訪問賓客までは皇室が接遇することになっていますが、宮中晩さん会が行われるのは、基本的に、最高のもてなしを受ける国賓の場合だけです。
当日の流れは?
天皇皇后両陛下の主催で開かれる宮中晩さん会。両陛下は、国賓が宮殿に到着すると「南車寄」で出迎えられます。
そして、「松風の間」に案内され、ここで出席される皇族方が国賓とあいさつを交わされます。晩さん会には、三権の長や閣僚なども出席するほか、両国の交流に力を尽くした人や相手国とゆかりが深い人たちも招かれます。
今回は、ブラジルでプロのキャリアをスタートさせた“キングカズ”こと三浦知良選手やブラジル出身の解説者セルジオ越後さんといった、両国のかけ橋となってきたサッカー関係者も招待されています。
服装は、通常、男性はタキシードや紋付き羽織はかまなど、女性はロングドレスや白襟紋付きなどで臨むこととされていますが、今回はブラジル側の希望で初めて双方男女とも「平服」とされました。
続いて、両陛下は国賓とともに「石橋の間」に入り、招待者から順番にあいさつを受けられます。
食事会場は、宮殿で最も広い「豊明殿」。あいさつを終えた招待者たちが着席すると、続いて皇族方も会場に入られます。
そして、招待者たちが起立して迎える中、宮内庁の楽部による入場曲の演奏にあわせて、両陛下が国賓とともに入られます。
天皇陛下は、歓迎のおことばを述べたあと、相手国の国歌の演奏に続いて乾杯を行われます。
さらに、国賓も答辞のスピーチしたあと「君が代」の演奏に続いて乾杯を行って、食事が始まります。
テーブルには、相手国の国旗にちなんだ色の花などが飾られ、その国ゆかりの曲などが演奏されます。
どんな料理が出るの?
宮中晩さん会では、伝統的に宮内庁大膳課が手がけるフランス料理のフルコースがふるまわれてきました。
メニューは、国賓の好みや宗教上の理由で食べられないものなどを考慮して決められ、基本的に、スープ、魚料理、肉料理、サラダ、冷菓、果物の順に出されてきました。
こちらは、宮中晩さん会のテーブルセッティング。
そして、こちらの写真は、晩さん会で出される料理のイメージです。
食材は、栃木県にある皇室専用の御料牧場で生産されたものを中心とした極上のもの。アメリカのトランプ大統領夫妻を歓迎する前回・6年前の晩さん会では、コンソメスープやヒラメのムニエル、牛肉のステーキなどが出されました。
こちらは、宮中晩さん会の定番となっている富士山型のアイスクリーム。大正時代に考案されました。
飲み物は、食前にはドライ・シェリーやトマトジュースなどが、食事の際には宮内庁のワインセラーで長期熟成したフランスボルドー産の最高級ワインや、シャンパン、それに日本酒などが提供されます。
出席した人は
宮中晩さん会はどんな雰囲気なのか。前回招かれた「世界の青木」が語ってくれました。
青木功さん
「宮中晩さん会は、行きたいと思っても行けない場所で、会場は別世界。私も人の子なので、さすがに緊張した。豊明殿の中は、もの珍しいものばかりだったけど、キョロキョロとよそ見をするわけにはいかなかった。マナーなどもよくわからないから周りの人の動きを見ながら食べ始めたけど、緊張していたからどんな料理だったかは覚えていないよ(笑)。これほど幸せな瞬間はなかったし、長年ゴルフをやってきた自分にとって、忘れられない人生の1ページになった。宮中晩さん会に招かれたことを誇りに思っています」
今回の注目点1 配膳方式
新型コロナウイルスの感染拡大で飲食を伴う行事の開催見送りが続いたあと初めて開かれる今回の宮中晩さん会は、これまでとは少し違った形になるのではないかと注目されています。
1つ目は、料理の配膳方式。
宮中で行われる昼食会や晩さん会では、明治以来、給仕する人が数人分の料理を盛りつけた銀製の大皿を持って会場を回り、出席した人たちに各自で取り分けてもらう形で配膳が行われてきました。
晩さん会では、メイン料理を担当する大皿係、ソース係、酒係の3人1組で配膳を担当してきました。
一般のレストランでみられる厨房(ちゅうぼう)で1人分ずつ皿に盛りつけて運ぶ方式は、美しく盛りつけて速やかに提供できますが、大皿から各自でとりわけてもらう方式は、好きな料理を好きなだけ食べてもらえる利点があり、伝統的にこの方式をとってきたということです。
しかし、コロナ禍のあと、昼食会は感染防止の観点からそれぞれの皿に盛りつけて個別に配膳する方式に変更されていて、今回の晩さん会で明治時代以来の提供方式が変わるか注目されます。
今回の注目点2 和食が出るか
2つ目は、和食が提供されるかどうか。
外国からの賓客をもてなす宮中での昼食会や晩さん会では、明治以来、国際儀礼にのっとって、フランス料理のコースが提供されていますが、昼食会では、近年、日本の文化を知ってもらいたいという両陛下の発案で和食の前菜が提供されるようになっています。
最初は、魚介の手まりずし。
その後の昼食会でも、押しずしやホタテ貝や豆の天ぷら、蒸した伊勢エビ、帆立貝柚庵焼、芝海老と青アスパラガスの胡桃和え菜の花添えなど季節に応じた和食の前菜が出され、伝統工芸品の「江戸切子」のグラスを用いて日本酒による乾杯が行われたこともありました。
メニューや会場のしつらえは、主催される両陛下と相談して決めるということです。
和の要素を取り入れた「令和流」のおもてなしが定着してきた中、6年ぶりの開催となる今回の晩さん会がどのような形になるか、当日を楽しみにしたいと思います。
(3月25日 おはよう日本・ニュース7などで放送予定)
社会部記者
橋本佳名美
2010年入局
司法担当などを経て2021年から皇室担当
社会部記者
山下哲平
2013年入局
国交省担当などを経て2024年から皇室担当
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