「歴史上AIはいなかった」歴史学者ハラリ氏が語るAIの危険性 人類のための“処方箋”【報道ステーション】(2025年3月21日)

「トランプ大統領のような存在は歴史上何度も登場してきた」そう語ったのは、2500万部を売り上げた大ベストセラー『サピエンス全史』などで知られる、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ教授です。今月、6年ぶりとなる新刊『NEXUS 情報の人類史』を発表したハラリさんが“トランプ大統領よりも恐るべき存在”として挙げたのは【AI】でした。

■トランプ時代「秩序崩壊」危機

人類の歴史を読み解き、未来への視座を与えてきたユヴァル・ノア・ハラリ氏。

徳永有美キャスター
「『NEXUS』の大部分は2021~2022年の間に書かれたということですが、今の世界とのリンクを感じました。特にトランプ政権です。ハラリさんは今の世界情勢をどんなふうにご覧になっていますか」

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「非常に厳しい状況です。人と人との間にある信頼が失われ、国内・国家間の秩序が崩壊しつつある。トランプ氏の世界観は古くからあります。『ウクライナがロシアの攻撃を招いた』という発言に疑問を持つことでしょう。彼には弱肉強食こそが世界の秩序で、強者の要求を拒んで争いになれば、拒んだ弱者の責任になる」

■歴史上比類なき“AIの脅威”

徳永有美キャスター
「歴史学者のハラリさんから見て、今の時代は過去の歴史のどんな時と似ていると考えますか」

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「数千年の間に、混乱した秩序の崩壊と新しい秩序の創生が繰り返されてきた。しかし、過去との最大の違いはAIの台頭です」

ハラリ氏が最新刊でひも解くのは人と人とを結びつける媒介としての情報の歴史。そしてAIです。情報テクノロジーの進化は科学の発展や近代国家の形成に道を開き、20世紀、自由な情報の流れが民主主義を世界に広げました。それと同時に負の副産物も生んできたとハラリ氏は指摘します。

『NEXUS 情報の人類史』(抜粋)
「印刷革命の直接の結果には魔女狩りや宗教戦争があるし、新聞やラジオは民主主義体制だけではなく全体主義体制によっても利用された。産業革命はどうかと言えば、この革命に適応する過程で帝国主義やナチズムといった壊滅的な実験も行なわれた」

そんな情報テクノロジーの行きついた先がインターネット。さらに今、人間と会話でき、自ら判断を下すことが可能となったAIが世界を席巻しています。

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「この歴史的瞬間の最大の疑問は、様々な面で人間よりも賢い無数のAIを世に放ち、経済・軍事・メディアの管理統制を任せるようにしたらどうなるかです。すでにメディアにおいては人間からAIに権力が移行中です。今、最も力のある編集者はもはや人間ではなく、SNSのニュースを管理するAIのアルゴリズムです」

これまで、何をニュースとして伝えるかを決めていたのは、新聞やテレビなどの編集者でした。SNSではその役目をAIが担いつつあるというのです。

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「アルゴリズムが特定の情報を選んで広めようとしますが、偽情報や陰謀論、ヘイトを意図的に頻繁に拡散しています」

■AIが奪う“信頼”民主主義の危機

ヘイトとフェイクが充満するSNS空間。その親玉であり、AIを手掛ける大富豪が今、ホワイトハウスに出入りしています。“政府効率化”の名のもと狙うのは官僚機構の解体です。

イーロン・マスク氏
「官僚機構を切り刻むチェーンソーだ」

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「マスク氏らは行政官や官僚を攻撃して官僚制反対を訴えながら、AIなど“デジタル官僚制”に権限を与えています。官僚制は悪いどころか不可欠で、体の各部位をつなぐ神経細胞と同じなのです。病院なら医師や看護師が患者の面倒をみて命を救いますが、治療費を回収し、給料を支払う官僚がいなければ病院が成り立ちません。これまで官僚は人間でしたが、その役目をAIが担い始めています」

トランプ政権では予算削減のターゲットを定めるのにAIが利用され、イスラエルへの抗議の声を封じるのにもAIでSNSを洗い出すという手段が取られようとしています。不眠不休で大量のデータを取り込み、感情もなく反省もしないAI。そんな存在に人間が担ってきた仕事を譲り渡した時、いったい何が起きるのか。

『NEXUS 情報の人類史』(抜粋)
「政府あるいはどこかの企業が私たちの行動や思考を細かく管理することができるようになったら、社会に対する全体主義的支配権を獲得するだろう」

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「人間同士の信頼が崩壊し、民主主義が危機を迎えているのは、会話の流れを作る力をAIに渡してしまったからです。民主主義とは人間同士の会話で、独裁とは1人の人間による命令です。大勢が話し合い、意見をぶつけ、皆で決めるのが民主主義です。しかし今、AIが人間の会話を管理し始めています」

■「人間の偽装を禁止せよ」

人類の未来を切り拓く存在であるはずのAI。同時に、人の心を操作し、国家をも支配し得るこのテクノロジーとどう向き合えばいいのでしょうか。

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「問題はAI開発をどう止めるかではなく、どう安全に進めるかです。そのなかで最も大事なのが、AIに人間のフリをさせないことです。通貨の偽造を禁止するように“人間の偽造”も禁止すべきなのです。AIを高度化させるより先に、人間同士の信頼関係を回復することに労力を費やしてほしいのです」

徳永有美キャスター
「人間同士の信頼を構築するというのはすごく難しい。アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が口論をしました。強いものが弱いものを面前なじるような姿を見ると、そういう世の中でいいのかって。人は信じられないような気持ちになると思います。その不安というのは今、世界が深刻に抱えていると思います。そこは」

歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏
「誰かに裏切られることもありますが、人間はほとんどの場合、約束を守り、法と規則を守ることを歴史が証明しているのです。実際に人類史を読み解くと、犯罪や不公正より、人と人との協力関係や信頼を築く能力に驚かされます。10万年前は数十人単位で暮らし、部外者を信頼することができなかった。数千年後、人類は数十億人が対話し、事実を共有し、法律を受け入れるメカニズムを発達させてきました。私たちが口にする食べ物や着る服、命を守る薬の多くは、遠い異国に住む人たちが生み出したものです。信頼は恐怖を凌駕(りょうが)します。外部のものを取り込むことは、この世界へのささやかな信頼の証しです」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

2 Comments

  1. 昔見たターミネーター2がだんだん現実になっているようで怖いです

  2. ヘイトとフェイクの主体がオールドメディアからSNSに移行しているだけでは?SNSは真実に辿り着けるだけましなんだろう。反省もしないのはオールドメディア(テレ朝)と同じだね。