米経済を巡る展望は過去数週間に暗転してきた。パウエル連邦準制度理事会(FRB)議長が警鐘を鳴らすとすれば、19日の記者会見は良い機会だった。だが、議長はきっぱりとそれを見送った。
パウエル議長は金利据え置きを決めた連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の会見で、経済成長鈍化の懸念と、トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争に伴う物価上昇の可能性について、いずれも深刻視しない姿勢を表明した。
このうちトランプ氏が推進する関税措置のインフレ率押し上げ効果に関しては、「一過性」のものとなりそうだとの認識を示した。
議長は「米金融当局が何もせずに急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」と発言。こうしたシナリオを「基本ケース」とする一方で、一時的なものとなるかどうか当局として「実際のところ分からない」と、予防線を張ることも忘れなかった。
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記者会見したパウエルFRB議長
Source: Bloomberg
米国では、関税措置に起因するインフレ圧力により、景気が大幅に悪化しても利下げが妨げられるのではないかとの懸念が浮上。しかし、パウエル議長の19日の発言に加え、当局者が最新の四半期経済予測で引き続き年内2回の利下げ予想を中央値で示したのを受け、こうした心配は緩和されることになりそうだ。
パウエル議長は、企業や消費者のセンチメント低下に関する質問に、「信頼できるデータ」は経済が依然、堅調であることを示していると返答。また、予想インフレ率の上昇を示したミシガン大学発表のデータについても、長期的なインフレ期待は引き続き十分に安定していると自信を示した。
「一過性」
パウエル議長の会見での発言は金融市場に安心感をもたらし、S&P500種株価指数は上昇して、米国債利回りは低下した。ただ、発言内容にはリスクもある。
「一過性」という表現は、新型コロナウイルス禍を受けた物価上昇を巡り、米金融当局が過去にも一時期用いていた。その後、インフレ高進が持続的なものであることが判明し、物価抑制で後手に回った当局は急ピッチの利上げを余儀なくされた経緯がある。
このため、パウエル議長らが同じ表現を使って、再び判断が間違いだったことが後々示されれば、米金融当局の信頼性に打撃となる恐れがある。
FRB元上級政策顧問で、現在はデューク大学で経済学の研究教授を務めるエレン・ミード氏は「問題は関税が一段と広範なインフレ・プロセスにどれだけ影響を及ぼすかだ」と話す。
その上で、「パウエル議長は関税から生じる一時的な上昇という、物価水準の最初の変化に注目し、関税がインフレ率の持続的上昇をもたらす可能性には注目していないように見受けられた」と解説した。
ウィリアム・ダドリー前NY連銀総裁は、米金融当局が高度の不確実性の下で「手探り」で政策運営に当たっていると指摘
仮に当局の判断にミスがあったことが分かり、インフレ期待のコントロール喪失につながれば、米国民にとって特に大きな痛手となる可能性がある。エコノミストは総じて安定した期待が物価抑制の重要な前提条件だと考えている。インフレ期待が揺らげば、物価抑制は一層難しくなり、労働市場へのダメージも大きくなる。
調査会社LHマイヤー/マネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミスト、デレク・タン氏はパウエル議長について、「金融当局がホワイトハウスの逆鱗(げきりん)に触れないようにしたいのだろう。これはある意味、微妙な時期だ。FOMCは今のところ、最初の計100ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げで時間を稼いでおり、パウエル議長はしばらく様子を見ることができると述べている」とコメントした。
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原題:Powell Downplays Growing Risks, Sees Tariff Impact as Transitory、Powell Revives ‘Transitory’ With Remarks on Tariff Inflation(抜粋)
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