焦点:米政府職員が出勤再開命令で大混乱、狙いは「人減らし促進」との声も

 3月16日、 トランプ米大統領が連邦政府職員に対して発した出勤再開命令が、現場に大混乱を引き起こしている。写真はワシントンのIRS本部。2月撮影(2025年 ロイター/Kent Nishimura)

[ワシントン 16日 ロイター] – トランプ米大統領が連邦政府職員に対して発した出勤再開命令が、現場に大混乱を引き起こしている。コロナ禍以降、リモートワークを続けてきた職員らが久しぶりに足を踏み入れた航空宇宙局(NASA)本部には多くのゴキブリが走り回り、机がなく椅子だけで仕事をせざるを得ないオフィスもあった。

移民帰化局(USCIS)の職員らは私用チャットで自虐的に、幾つかのオフィスで繰り広げられる机の取り合いを人気小説で映画化もされた「ハンガー・ゲーム」になぞられている。これは架空都市でくじによって選ばれた人々が最後の1人になるまで殺し合うゲームに参加させられる話だ。

テネシー州にある内国歳入庁(IRS)のオフィスでは、課税額査定部門の職員が研修室を共用しているため、プライバシー保護の観点から担当先の相手と電話することもままならない。

ロイターは8つの連邦政府機関で働く計10人の職員に話を聞いた。数年ぶりの出勤再開をいざ命令されても、肝心の職場の受け入れ態勢が整っていない事態が浮き彫りになった。

ガバナンスの専門家や政府職員労組などは、こうした準備不足は偶然に起きたことでないと主張する。職員を意図的に不快な労働環境に追いやり、トランプ氏に起用された実業家イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省」が進める人員削減をさらに促進しようとしているのだという。

ミシガン大学のパム・ハード教授(社会政策)は、自分たちが手がけるさまざまな選択肢が及ぼす影響について真剣に考えようとせず、とにかく即断し、何かをぶち壊せというやり方だと批判。「政権側は全員を受け入れるスペースがないという事実を考慮に入れないまま、職員らに出勤再開を命じている」と指摘した。

政府人事管理局(OPM)の広報担当者は、トランプ氏の命令は国民のために効率的に最善の奉仕を行うのが目的だと述べた上で「職員全般の協力の強化や説明責任、サービス提供を進めるために対面での勤務を優先している」と付け加えた。

ホワイトハウス高官の1人はロイターの質問に対して、連邦政府の不動産を管理する一般調達局(GSA)が、「報告された問題」について満足いく結果が得られるよう全身全霊で取り組んでいると語った。

<劣悪な環境>

職場に復帰した政府職員を悩ませているのは机や椅子の争奪戦だけでなく、インターネット回線の接続切れ、駐車場不足などもある。一部職員は床に座って仕事をしたり、データにアクセスするために私用スマートフォンのWi─Fi接続を利用したりと不便を強いられている。

ロイターが確認した3通の出勤再開命令の中には、職場に戻っても働くスペースないしネット接続環境は用意されないと通知されているケースもあった。食品医薬品局(FDA)は仕事場への復帰が想定される約1万8000人の職員に、人数分の机や駐車場は保証できないと伝えた。

ワシントンにあるIRS本部のある管理職は同僚に、自分の机を確保できなかったので床に座り、ひざの上にコンピューターを乗せて作業していると電話会議で語った。

カリフォルニア州のIRSのオフィスの人事部門で働く職員は、備品倉庫で業務を行うよう命じられたという。

<効率化とは正反対>

トランプ政権のデータやロイターの集計に基づくと、これまでに解雇されたか、早期退職した政府職員は10万人を超えるが、さらに大規模な削減が進行中だ。

労組側は、混乱をもたらす出勤再開命令は、ストレスのかかる職場を無理強いしてより多くの職員を退職させる「陰謀」だと憤る。

11万人の政府職員を代表する全米連邦職員連盟のエグゼクティブディレクター、スティーブ・ランカート氏は「出勤再開命令は職員を混乱させ、辞めさせるための企てにほかならない」と言い切った。

マスク氏と政府効率化省の目的は、連邦政府組織をより効率化させることだが、ロイターが取材した職員は、出勤再開命令によって効率化とは正反対の影響が広がっていると口をそろえる。

NASA職員8000人を代表する専門・技術労働者国際連盟を率いるマット・ビッグス氏は「NASA本部は混乱一色だ。机やコンピューターがなければ仕事はできない。職員は以前よりはるかに非生産的になっている」と明かした。

ビッグス氏や複数のNASA職員の話では、先月職員が本部ビルに戻ったところ、床にはゴキブリが走り回り、水道の蛇口から虫が這い出していた。

一方NASAの広報担当者は、本部ビルはハイブリッド勤務期間を通じて利用頻度が減ったものの、管理態勢は維持されていたと説明。全面的な出勤再開命令が出た後、ヘルプ窓口に寄せられた施設関係の苦情は5件だけだったと述べた。

一方、メリーランド州のゴダード宇宙飛行センターへの出勤再開を命じられた職員の中には、遠距離通勤で交通渋滞を心配するあまり、夜明け前に職場に着いて車で仮眠してから仕事を始めるなど、しわ寄せを受けている人もいる。

<オフィスの規模縮小>

幾つかの政府機関は新型コロナウイルスのパンデミックに伴う在宅勤務への移行に伴って、オフィスの規模を縮小してしまった。

バイデン前大統領退任直前の昨年12月、司法省は同省で最も許認可業務が多い司法プログラム室をワシントン中心部にあるビルから近隣の別の建物に移転した。旧オフィスは建物の8フロアを占め、付属の駐車場も全て専有していたが、新オフィスは4フロアのみで駐車場も縮小された。

新しい拠点は駐車パスを持つ400人の職員に対して、157台分のスペースしか用意されず、職場も狭いので仕事場所確保のための早朝出勤組も出てきている。事情に詳しい関係者は、出勤再開命令によって不安が広がり、職員が業務に専念するのが難しくなっていると明かした。

これに対して司法省の広報担当者は、トランプ大統領とボンディ司法長官が、懸命に働く納税者のおかげで給与を得ている職員に期待しているのは、他の国民と同じようにオフィスに出勤することだと主張した。

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Ted Hesson is an immigration reporter for Reuters, based in Washington, D.C. His work focuses on the policy and politics of immigration, asylum and border security. Prior to joining Reuters in 2019, Ted worked for the news outlet POLITICO, where he also covered immigration. His articles have appeared in POLITICO Magazine, The Atlantic and VICE News, among other publications. Ted holds a master’s degree from the Columbia University Graduate School of Journalism and bachelor’s degree from Boston College.

Sarah N. Lynch is the lead reporter for Reuters covering the U.S. Justice Department out of Washington, D.C. During her time on the beat, she has covered everything from the Mueller report and the use of federal agents to quell protesters in the wake of George Floyd’s murder, to the rampant spread of COVID-19 in prisons and the department’s prosecutions following the Jan. 6 attack on the U.S. Capitol.

Washington-based award-winning journalist covering agriculture and energy including competition, regulation, federal agencies, corporate consolidation, environment and climate, racial discrimination and labour, previously at the Food and Environment Reporting Network.

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