地球から1.83パーセク(約6光年)という比較的“近い”距離に、バーナード星という赤色矮星がある。1916年に天文学者のエドワード・エマーソン・バーナードによって米国のヤーキス天文台で発見された小さく低温な恒星だ。ケンタウルス座α星に次いで太陽系から2番目に近い恒星であることから、100年以上にわたって惑星探査の対象として天文学者の関心を集めてきた。なお、ケンタウルス座α星は3つの恒星からなる三重連星系であり、単一の恒星による星系としてはバーナード星が太陽系から最も近い。
1960年代以降、バーナード星の周囲を公転する太陽系外惑星が存在する可能性は幾度となく唱えられてきたが、確実な証拠を示せないことから長らく発表と否定が繰り返されてきた。2024年には、チリのパラナル天文台の超大型望遠鏡(VLT)に設置された分光器「ESPRESSO」の観測データを基に、バーナード星に4つの惑星候補が存在する可能性が改めて示された。このとき発表された論文は、そのなかでも3.154日の公転周期をもつ「バーナード星b」が実在する可能性は極めて高いと結論づけていた。
こうしたなか米国やドイツ、オランダの科学者による国際研究チームは、ハワイ島のジェミニ望遠鏡に取り付けられた最新の分光器「MAROON-X」を用いた精密な観測データから、バーナード星を公転する4つの太陽系外惑星の存在を確認することに成功した。別のチームによる2024年の研究を裏付ける結果であることから信頼性は極めて高いと、シカゴ大学の博士課程研究員で今回の研究を主導したリトヴィク・バサントは説明する。
星の揺らぎを観測
MAROON-Xは500~920ナノメートルの波長をカバーできる高分散分光器で、ドップラー分光法によって太陽系外惑星を観測するために開発された。ドップラー分光法とは、恒星のスペクトルに生じるドップラー効果(恒星の周囲を公転する惑星の重力によって光の波長が変化する現象)を利用して視線速度(観測者の視線方向に沿った速度成分)の変化を記録することで、星系に存在する惑星の質量や公転周期、軌道離心率(天体の軌道が真円から離れている程度を示す数値)などを推定する手法である。
バサントらの研究チームは、2021年から23年にかけて実施した合計151回の観測を通して、異なる時刻における112件の視線速度のデータを収集した。これらのデータを厳密に分析した結果、バーナード星の周囲に3つの惑星が存在する明確な証拠が見つかったという。また、24年に別の研究チームが発表したESPRESSOの観測データを組み合わせて解析したところ、4つ目の惑星の存在も確認できた。
研究者たちによると、いずれも地球の20〜30%程度の質量しかない小さな惑星だという。また、それぞれの公転周期は2.34日から6.74日で、バーナード星に非常に近い軌道を周回している。なかでも4つ目の「バーナード星e」の質量はわずか0.19M⊕(M⊕は地球質量)ほどで、これまでドップラー分光法で観測された太陽系外惑星で最小サイズと考えられている。
このほか、4つの惑星間に生じる重力の相互作用をシミュレーションすることで、研究チームは長期的な惑星軌道の安定性も検証した。公転周期が最短の惑星軌道を10億回にわたってシミュレーションした結果、すべての惑星の軌道離心率を0と仮定した場合に星系の安定性は維持されることがわかった。
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