焦点:賃金・物価に好循環の兆し、昨年上回る賃上げ要求 政府も自信

 2025年の春季労使交渉では賃上げ要求が昨年を上回る水準となった。写真は都内のスカイツリーからの景色。2021年8月撮影(2025年 ロイター/Marko Djurica)

[東京 11日 ロイター] – 2025年の春季労使交渉では賃上げ要求が昨年を上回る水準となった。賃上げは中堅・中小企業にも広がりをみせると期待され、「持続的な賃上げ」の定着をめざす政府からも自信の声が聞かれる。賃上げ原資となる価格転嫁の動きが本格化すれば、賃金と物価の好循環が視野に入る。

<相次ぐ6%超要求>

「想定以上に高い水準。中小の強さも目立つ」。春闘での賃上げ要求を巡り、政府関係者の1人はこう語る。

連合が6日発表した2025年春闘の賃上げ要求は、定期昇給分を含む加重平均で6.09%と、1993年以来32年ぶりの高水準だった。300人未満の中小組合1891組合では6.57%と、94年以来の要求水準となった。

繊維や流通、外食などの労働組合からなるUAゼンセンは、3日時点での要求率を6.11%(正社員組合員、加重平均)としている。

「実際の賃上げ率が要求ベースから相応に下振れしても、5%台での着地が見通せる状況」と、別の政府関係者は言う。賃上げ率が5%を超えれば2年連続となる。

石破茂首相は10日の経済財政諮問会議で行った賃金に関する特別セッションで「この3年間で物価と賃金がともに上がる好循環が動き始めている」との意見が出ていたと明らかにした。

<価格転嫁に気運>

集中回答に先立ち、市場では「労使間のノルムが変わってきた。賃上げと同時に、価格転嫁を進めていく意思表示でもある」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミスト)との声が出ている。

中小企業庁によると、発注側企業からの申し入れで価格交渉が行われた割合は2024年9月時点で28.3%となり、「価格交渉できる雰囲気がさらに醸成されつつある」としている。価格転嫁率は49.7%で、コストの増額分を全額価格転嫁できた企業の割合が増えたという。

同庁では、中小企業が価格転嫁しやすい環境をつくるため、3月と9月を「価格交渉促進月間」としている。

「賃金と物価が上がっていくことを前提とした経営判断は、今後さらに広がりをみせる可能性がある」と、みずほリサーチの酒井氏は語る。

政府は11日、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を実現させるため、下請けいじめなどを防ぐ下請法の改正案を閣議決定した。

<利上げ前倒しも>

昨年の春闘では、33年ぶりの高い賃上げが日銀のマイナス金利解除を後押しした。

昨年を上回る賃上げが実現すれば「日銀が賃金の先行きについて一段と自信を深めることになる。今後、金融市場がある程度落ち着けば、利上げの前倒し観測が強まる可能性もある」(第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミスト)との声もある。

東短リサーチによると、金利スワップ(OIS)が織り込む利上げ確率は3日までは7月が30%と最も高かったが、それ以降は6月が31%と逆転。10日には5月が29%と、トップに躍り出た。

トランプ政権発足後の市場の動揺に加え、4月から発動される関税の影響には不透明感が漂うが、外的ショックの波及度合いを見極めたうえで「(利上げのタイミングが)7月より前になる可能性もある」と新家氏は言う。

山口貴也、杉山健太郎 編集:石田仁志

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