3月5日、あるプライベートエクイティ(PE)企業は小規模な米スナック食品メーカーを買収してカナダの競合企業と合併させるべく交渉を進め、2025年中の合意成立に強い手応えを持っていた。写真は米ウオール街で2024年9月撮影(2025年 ロイター/Andrew Kelly)
[ニューヨーク 5日 ロイター] – あるプライベートエクイティ(PE)企業は小規模な米スナック食品メーカーを買収してカナダの競合企業と合併させるべく交渉を進め、2025年中の合意成立に強い手応えを持っていた。しかし1月下旬にトランプ米大統領が誕生すると状況は一変し、トランプ氏がカナダ製品に25%の関税を課すと発表するとこの案件は無期限に棚上げされた。
ある投資家は「今はこんなリスクは取れない」 と吐露。話し合いに関与した企業幹部は「関税を巡る多大な不透明感がなければこの案件をずっと強力に推し進めただろう」 と振り返った。
投資銀行家やM&A(合併・買収)弁護士、PE投資家、ヘッジファンドマネージャーへの取材を通じて、ウォール街では多くのM&A案件が最終合意に至る前に壁にぶつかり、それどころか案件探しに向けた交渉にすら入れない状況にあることが明らかになった。
アナリストはトランプ氏が昨年11月の選挙で勝利した際、M&A市場にとって絶好の年が来ると予想。M&A総額は4兆ドルと、少なくとも過去10年間で最高の水準に達すると見込んでいたが、実際には25年は低調な幕開けとなった。
米新政権の発足からわずか6週間で報復関税や連邦政府機関での大規模解雇など政策や経済面の急激な変化の波が次々と押し寄せ、投資家や企業幹部は対応に苦慮。不確実性が高まり、M&A市場は冷え込んだ。調査会社ディールロジックのデータによると、2月28日までに成立したM&A案件はわずか1603件と2009年以来最低を記録したほか、総件数は前年同期比で19%余り減り、総額も前年同期比29%減の2487億8000万ドルに落ち込んだ。
元メドトロニックCEOでハーバード・ビジネス・スクールのエグゼクティブフェローを務めるビル・ジョージ氏は「1月と2月に全ての案件がストップした。不確実性のせいでほとんど案件が成立しなかった。CEOはどうやって数字を弾き出したらよいのか分からず、何が起こるか見通せない状態だ」 と話した。
関係者によると、あるアクティビスト系ヘッジファンドは1月初旬に10億ドル規模の航空宇宙コングロマリットに対して身売りするよう圧力をかけていた。しかし米政策見通しが不透明なのに加えて市場の変動性が高まり、適正な価格で売却できるか分からないとの懸念から交渉が行き詰まっている。
市場や政策が急変するとヘッジファンドや短期売買のトレーダーに利益をもたらすこともある。しかし数十億ドル規模のM&A取引を進めようとする企業の取締役会や株主はこうした急激な変化を嫌い、先行きが見通せるまでM&Aの判断を先送りする傾向にある。
今年M&A市場が低調なスタートを切ったことは、既にゴールドマン・サックスのような大手投資銀行に影響を及ぼしている。キーフ・ブリュイエット・アンド・ウッズのアナリストは先週の調査リポートでゴールドマン株の投資判断を引き下げ「関税、インフレ、金利、政策を巡る市場の不確実性から投資銀行業務は年初の段階で失望を招くような状態になっており、投資家がこうした株式から資金を引き揚げる原因となっている」と指摘した。
関税の影響を直接受けていない業界でもM&Aのムードは悪化していると、銀行関係者やファンドマネージャーは証言した。米政府が不確実性のシグナルをわずかでも発すれば市場のムードは悪化してしまい、案件は完全に死んでいるわけではないが、かろうじて生命維持装置につながれているような状態だ と複数のヘッジファンドマネージャーがこぼした。
投資銀行ドレイク・スターのマネージングパートナー兼CEO、グレゴリー・ベドロシアン氏は「税制や規制の多くが正しい方向に進むという見方が強いが、その過程で交渉が難航し、複雑化する可能性がある」と指摘。企業の身売りを模索しているオーナーは、市場が安定し、自社の評価額が予測可能な水準を維持できるようになるのを待っているという。
小規模なM&A案件が続々と凍結される一方、市場ではトランプ政権の税制・規制政策によって年内に超大型M&A案件が促進されるとの期待は根強い。米大手銀行の関係者によると、中国との競争の観点から国内にメガ企業を創出するような大規模な案件があり、トランプ政権下の司法省はバイデン前政権時代とは異なり、こうした案件を阻止することはなさそうだという。
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