コンビニ事業を中核とする日本の流通最大手グループ、セブン&アイ・ホールディングス(HD)にとって次の一手は何か。最良の指針は3月4日の株価急落の中に見えている。2024年8月、都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[香港 4日 ロイター Breakingviews] – コンビニ事業を中核とする日本の流通最大手グループ、セブン&アイ・ホールディングス(HD)(3382.T), opens new tabにとって次の一手は何か。最良の指針は4日の株価急落の中に見えている。カナダの小売大手アリマンタション・クシュタール(ACT)(ATD.TO), opens new tabによる470億ドルの買収提案を巡って読売新聞がセブンHDの拒否方針を報じ、株価急落につながった。記事に情報源は書かれていなかったものの、セブンHDは買収されなければ本来の企業価値を容易に引き出せないことが浮き彫りになった。
投資家はセブンHDが自力で収益性を改善できると信じていない。足元の株価は買収提案前の安定水準よりわずか10%高いだけで、現在の為替レートに基づくACTの買収提案額(1株当たり2711円)を26%下回る。さらに、セブンHDが社長を井阪隆一氏からスティーブン・デイカス氏に交代させる首脳人事方針が報じられた際も株価の上値は重かった。
こうした背景には、同社を巡る過去の経緯から市場関係者が自前主義の収益性改善に懐疑的にならざるを得ないことがある。
黒字経営のコンビニ部門を率いていた井阪氏はセブンHDの経営の舵取りを託された2016年、グループ傘下の赤字事業売却を求める米国の物言う株主(アクティビスト)のダニエル・ローブ氏の支持を得ていた。
しかし、井阪氏の前任者である鈴木敏文氏が「名誉顧問」に就任した。日本では一般的な慣行だが、大規模な経営改革を断行する余地を狭めかねない。
井阪氏が社長に就任してからACTが最初の買収提案を出すまでの期間、東証株価指数(TOPIX)(.TOPX), opens new tabが71%上昇したのに対し、セブンHD株の上昇率は11%にとどまっていた。だからこそ、各種報道で井阪氏が「特別顧問」として留まる可能性が伝えられると、市場では後任社長がどこまで改革を進められるのかという疑念が湧き上がった。デイカス氏はかつて米小売り大手ウォルマート(WMT.N), opens new tab経営陣の1人。ACTから買収提案を受けた当初は強硬な姿勢で臨み、交渉を巧みに進めた。買収提案額の引き上げを迫ったが、その後の交渉は進展がない。
あるべき目標は、現在の米ドル建ての提案ではなく、円建ての本格的な買収提案をACTに求めることだ。また、Breakingviewsの計算では、セブンHDの各事業を個別に売却した場合に得られる総額から算出した1株当たりの理論株価(解散価値)が約3500円に上る。ACTから、この水準に近い買収提案を引き出すことも目標とするべきだ。
ACTによる買収提案から既に6カ月が経過した。先週は創業家の伊藤家による株式の非公開化計画も頓挫し、買収競争から緊張感が消えた。仮に次期社長がかつての直属の上司の影響を排除し、経営戦略を全面的に見直したとしても、事業の立て直しは困難だ。セブンHDの企業価値は多くが北米市場に依拠しており、ACTの北米事業の利益率はセブンHDより高い。セブンHD株主と過去の経緯を考えれば、自力再生よりも買収に軍配が上がる。
●背景となるニュース
*セブンHDの株価が4日、10%下落した。読売新聞がACTによる470億ドルの買収提案を巡り、拒否を念頭に検討していると報じたことが要因。記事に情報源は引用されていなかった。
*3日の同社株は1%値を上げていた。スティーブン・デイカス氏を新しい社長として迎え、井阪隆一氏と交代させる見込みだと複数メディアが報じたことが材料視された。デイカス氏は筆頭独立取締役で買収提案を精査する特別委員会の委員長を務めている。
*同社株は2000円近辺で売買されている。ACTが買収を提案する昨年8月16日以前の1761円よりも高い水準。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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