
2月24日、 米アップルはありきたりの出来事を盛り上げる術が非常に巧みだ。ニューヨークのアップルストアで2018年8月撮影(2025年 ロイター/Lucas Jackson)
[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米アップル(AAPL.O), opens new tabはありきたりの出来事を盛り上げる術が非常に巧みだ。同社のプレゼンテーションは、製品のアップデートの内容がかなりありきたりだとしても、創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が生み出した神秘性を持ち続けている。そして今回は、ティム・クック最高経営責任者(CEO)が5000億ドルの対米投資計画を披露した。
アップルが向こう4年で実行すると約束したこの計画には、2万人の雇用やテキサス州ヒューストンのサーバー工場建設、ストリーミングサービス用の映画制作費も含まれる。米国内にこれだけの金額を振り向けることで、トランプ大統領との良好な関係構築にも役立つ可能性がある。
多くの場合、このような発表は根拠が薄弱か一時しのぎの特性を帯びがちだ。第1次トランプ政権発足後の2017年、台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)はウィスコンシン州に100億ドルを投じて生産施設を建設し、1万3000人を雇用する計画を打ち出したのがその典型例と言える。同社はその後計画を劇的に縮小した。
オープンAIとソフトバンクグループ(9984.T), opens new tab、オラクル(ORCL.N), opens new tabが米国の人工知能(AI)インフラ整備に5000億ドルを投資するという約束も、同じ道をたどってもおかしくない。だがアップルの計画はより妥当性を持っている。
アップルが21年に今後4年で米国に4300億ドルを投じるとした方針は今も軌道を外れていない。それに基づくと、年間予算は約850億ドルから1250億ドル前後に膨らみ、米国向け支出は年間で約10%伸びている。この比率は最近の営業費用や投資の伸びに等しい。
もっともアップルの支出規模は、他の一部大手IT企業に比べるとずっと見劣りする。例えばビジブル・アルファによると、マイクロソフト(MSFT.O), opens new tabは今後約4年間の設備投資額だけでも4000億ドル前後に上り、過去4年のほぼ2倍に上る。一方でアップルが表明した最新の雇用規模は、18年と21年の計画と変わっていない。
ではなぜ、こうしたありふれた事象を大々的に言い立てるだろうか。アップルの場合は、貿易戦争激化に伴う痛みを同業者よりも受けやすい点が理由の一つに挙げられる。9月28日までの年度を見ると、アップルは4000億ドル弱の売上高の約15%を中国で稼いでいる。また中国は重大な製造拠点でもある。米国の輸入関税が引き上げられれば、おそらくアップル製品の米国販売価格は跳ね上がり、中国が報復措置を講じれば同国における販売が脅かされる。
つまり純粋に資金規模の観点では劇的な要素が乏しいアップルだが、少なくともホワイトハウス内には多少の熱気を提供しており、何らかの成果がもたらされるかもしれない。
●背景となるニュース
*アップルは24日、向こう4年で米国に5000億ドル超を投資し、主に研究やソフトウエア開発、人工知能(AI)分野で少なくとも2万人を雇用すると発表した。 もっと見る
*表明した支出額にはサプライヤーや直接雇用者、アップルのデータセンター、企業施設、アップルTVプラスの生産向け支払いが含まれる。また米国の先端的な製造業を支援する基金に50億ドルを用意し、今後規模を2倍に拡大する。
*2026年にはテキサス州ヒューストンに他社と共同でサーバー組立工場を稼働させる予定だ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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