「愛の国」と書かれたハート形の看板が、パラダイス・ストリーム・リゾートで旅行者たちを出迎える。(Photograph by mauritius images GmbH, Alamy)

「愛の国」と書かれたハート形の看板が、パラダイス・ストリーム・リゾートで旅行者たちを出迎える。(Photograph by mauritius images GmbH, Alamy)

この記事は『ナショナル ジオグラフィック トラベラー(UK)』により制作されました。

 一見したところ、米国の田舎の道路脇ならどこにでもある普通のモーテルと変わりはない。けれど、駐車場に入ると全然違った。小石張りの外壁に金属製の平たい屋根の低い建物が、地平線に向かってどこまでも伸びている。さらに近づけば、そこは愛の国だった。ハートの看板に踊るような手書きの文字。かわいらしい目をして芝生の上を跳ね回るシカ。ハート形の金のロケットを仲良くフェンスに括り付けているカップルなど。

 しかしそのいずれも、シャンパン・タワー・スイートルームのドアを開けた私(筆者のZoey Goto氏)の驚きにはかなわなかった。

シャンパン・タワー・スイートルームには、その名の通り背の高いシャンパングラスの形をした泡風呂がある。(Photograph by Margaret & Corey Bienert)

シャンパン・タワー・スイートルームには、その名の通り背の高いシャンパングラスの形をした泡風呂がある。(Photograph by Margaret & Corey Bienert)

 部屋の真ん中を陣取っていたのは、2メートルもの高さがあるシャンパングラスの形をしたバスタブだ。まるで愛そのものを祀る神殿のように、ブクブクと泡を立てている。

 床にまかれたバラの花びらの道は、階段を上って2階の寝室まで続いていた。寝室の天井は鏡張りになっていて、その下の、いかにもナルシシスティックなデザインの円形のベッドを映していた。

 ここはニューヨーク市の北西約160キロのペンシルベニア州ポコノ山脈にあるラブモーテルだ。その名もコーブ・ヘイブン・リゾートという。

 これほどの夢の国が、なぜペンシルベニア州東部の丘陵地帯に隠れるようにして建てられたのだろうか。周囲には、工場やスカウト連盟の保養所以外何もない。

 その答えは、モーテル内の別のスイートルームにあった。窓のない聖域のような客室の一番の主役は、真っ赤なハート形のバスタブだ。1963年にコーブ・ヘイブン・リゾートがこのスイートハートタブを導入して以来、ポコノ山脈は新婚旅行の人気スポットとして大きな変貌を遂げた。(参考記事:「140年前のニッポン新婚旅行、貴重な写真23点」)

 ホテルのオーナーだったモリス・ウィルキンス氏が、ハート形の泡風呂というアイディアを思いついたのは、ある真夜中のことだった。

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