はじめに

もしも5年前に、アウディのベーリンガー・ホフ工場のシミひとつない床を歩いていたら、R8の製造過程を追うことができただろう。その3年後なら、そこにEVのスーパーサルーンであるE-トロンGTが加わっていたはずだ。

現在はというと、もはやはじめて火が入るV10の産声は聞こえない。もちろん、R8の生産が終了したからだ。アウディのもっとも手作業が多い製造ラインは、E-トロンGT専用となっており、完成して走り出してもほとんど無音だ。

テスト車:アウディRS6アバントGTテスト車:アウディRS6アバントGT    MAX EDLESTON

ところが最近、短い間だったがこの小さな工場から、E-トロンGT以外のモデルが送り出された。ここは、アウディの中でも特にリスペクトされるようなクルマのために用意された場だ。それはR8のように、大排気量のガソリンエンジンを積むが、V10より太い唸りを発する。

それが今回テストするRS6アバントGTである。世界限定660台で、独自のボディワークは手作業で仕立てられる。通常のRS6の製造ラインでは対応が難しいレベルの仕上げが要求されるからだ。また、アウディ史上最強の内燃エンジンを積むクルマでもある。今は亡きR8GTすら凌ぐのである。

このクルマは多くの点で、四輪駆動と8気筒以上のエンジンを積む、速く圧倒的なアウディのワゴンへの送辞みたいなものだ。RS6GTは、強いメッセージが込められたクルマでもあり、アウディのレースカーの中でとりわけ愛されたもののひとつを引き合いに出し、愛を込めた惜別の句みたいなものでもある。

もっともわれわれの興味は、この勇ましいなりのスーパーワゴンがどれだけ速いのか、幸運にも手に入れることができた660人のオーナーを、手に入れた後も幸せにしてくれるクルマなのか、という即物的な点に尽きるのだが。

意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆

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