焦点:トランプ関税で守りに入る投資家、全面貿易戦争突入には懐疑的

米ウォール街では、「トランプ大統領が推進する関税政策が長期的な貿易戦争に発展し、資産価値を毀損(きそん)する」というシナリオには引き続き懐疑的な声が多い。それでも投資家は、関税政策がもたらす経済的悪影響からポートフォリオを守ろうと動き始めている。2024年11月、ニューヨーク証券取引所で撮影(2025年 ロイター/Andrew Kelly)

[ニューヨーク 4日 ロイター] – 米ウォール街では、「トランプ大統領が推進する関税政策が長期的な貿易戦争に発展し、資産価値を毀損(きそん)する」というシナリオには引き続き懐疑的な声が多い。それでも投資家は、関税政策がもたらす経済的悪影響からポートフォリオを守ろうと動き始めている。

トランプ政権はこれまでにメキシコとカナダへの関税実施を1カ月停止した一方、中国向けに追加関税を発動。中国側が早速、報復措置を発表し、投資家は目まぐるしく変わる状況の把握に追い回され市場は揺れ動いた。

一部の投資家は、トランプ氏が選挙活動中から約束していた関税実施を見越して、貿易摩擦やより幅広い地政学的な不確実性に左右されにくい資産にシフトし、備えを固めている。

ただ足元の株価収益率(PER)が高騰していることもあり、株式投資とそれが生み出す短期的なボラティリティーにはさらなる警戒が妥当だとの声が出ている。

ノムラ・キャピタル・マネジメントの場合も、株式や他の資産のバリュエーションが限界まで高まってきた事態を踏まえ、ここ数カ月で投資方針をよりディフェンシブな方向に傾けていた。とはいえ、ポートフォリオ運用とクロスアセット戦略責任者を務めるマット・ロウ氏は、関税政策は慎重さが必要な一段の理由になると言い切った。

ロウ氏は米国の関税を巡る情勢について「どこに向かい、どれだけ続くのか正確に言い当てるのは本当に難しい。ただこれは経済成長や消費にとって好ましくない。企業収益にマイナスになるということは、簡単に言える」と述べた。

ウェリントン・マネジメントのマクロストラテジスト、マイケル・メデイロス氏は「(トランプ氏による)関税の脅しは常に存在し、消えることはなさそうだ」と発言。そうした不確実性から、同社はより戦術的、短期的な取引を検討せざるを得なくなる可能性があると付け加えた。

<物価押し上げ、成長下押し>

アナリストの試算に基づくと、米国の関税は物価を押し上げ、経済成長と企業利益に重圧を加えかねない。

ゴールドマン・サックスのストラテジストチームは、カナダとメキシコ向けの25%、中国向け追加の10%という関税が全て発動されれば、S&P総合500種企業の利益は約2-3%減少すると予想。BofAグローバル・リサーチのストラテジストチームは、減益率が最大8%に達してもおかしくないと警告する。

ゴールドマンのチームは2日付のリポートで「企業経営陣が投入コスト上昇分を自ら吸収すると、利益率が圧迫される。最終顧客に転嫁すれば、販売数量が痛手を受けるかもしれない」と記した。

RBCキャピタル・マーケッツの米株戦略責任者を務めるロリ・カルバシナ氏は、一連の関税によってS&P総合500種が今年少なくとも5%下落するリスクが高まったとの見方を示した。

UBSグローバル・ウエルス・マネジメントのストラテジストチームは3日、年末のS&P総合500種が足元から約10%上昇するとの見通しは維持しつつも「米国の通商政策の道筋と落ち着きどころを投資家がもっとはっきり認識できるまでは、関税が市場に影を落とし、ボラティリティーをもたらす公算が大きい」と分析。地政学や物価上昇に関連するリスクの「効果的なヘッジ手段」として「金」を推奨した。

ロベコも先週終盤、安全資産とされる金と米国債の保有を増やした。マルチ資産戦略を統括するコリン・グラハム氏によると、市場が関税問題で過度に楽観的なのではないかとの懸念が理由だ。

<流動的な情勢>

関税や地政学的な不確実性を背景に、マニュライフ・インベストメント・マネジメントは最近数週間で株式投資においてよりディフェンシブな銘柄にシフトし、相対的にリスクが大きい高利回り社債の保有を減らした。マニュライフの最高投資責任者兼シニア・ポートフォリオマネジャーであるネーサン・ズーフト氏はそう話した。

ただ同氏は「われわれは市場参加者に平静さを保つよう呼びかけている。情勢はまだ非常に流動的で、各政策がどうなるのか全く分からないというのが現実だ」とくぎを刺した。

ベーカー・アベニュー・ウエルス・マネジメントは今年に入る時点で、ヘルスケア株をアンダーウエートにしていたが、この数週間で再び積み増している。チーフストラテジストのキング・リップ氏はその理由として、ヘルスケア株は関税リスクからそれほど影響を受けないとみなされる点を挙げた。

一方でリップ氏は、トランプ氏は貿易戦争が経済と市場にもたらす懸念要素を認識していると考えており、相応の期間を経て事態は落ち着くと予想した。

実際、関税を巡る対立が全面的な貿易戦争に拡大し、資産価格が深刻なダメージを受けることをトランプ氏が容認するとは思えない、というのがなお多くの投資家の意見だ。

ニューヨークのマクロヘッジファンド、トロウ・キャピタル・マネジメントのスペンサー・ハキミアン最高経営責任者(CEO)は、関税政策に関するさまざまな発表に基づいて運用資産構成を変更してはいないと明言。「トランプ氏は脅し(ブラフ)をかけているだけだ。全てのノイズは消去しなければならない」と強調した。

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Davide Barbuscia covers macro investment and trading out of New York, with a focus on fixed income markets. Previously based in Dubai, where he was Reuters Chief Economics Correspondent for the Gulf region, he has written on a broad range of topics including Saudi Arabia’s efforts to diversify away from oil, Lebanon’s financial crisis, as well as scoops on corporate and sovereign debt deals and restructuring situations. Before joining Reuters in 2016 he worked as a journalist at Debtwire in London and had a stint in Johannesburg.

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