前橋育英高にとって7年ぶり2度目の日本一をかけた全国高校サッカー選手権決勝は、7年前の決勝戦と同じ流通経済大柏高との因縁深い再戦となった。今季の高円宮杯プレミアリーグEAST2試合では2得点2失点の1勝1敗と完全な五分に終わっており、決着をつけるにふさわしい最終決戦。それでもMF石井陽主将(3年=前橋FC)は「頭はクールに、プレーは熱く」という姿勢を胸に刻み、したたかに戦っていく構えだ。
前日11日に行われた準決勝では第1試合で前橋育英、第2試合で流通経済大柏がそれぞれ勝利したため、第1試合の試合後取材時点では対戦相手が決まっておらず、石井は決勝戦に向けて「最高の状態で最高の終わり方ができるようにやっていきたい」と冷静に意気込みを口にしていた。
一方、第2試合を終えた流通経済大柏の選手たちは、前橋育英との対戦決定に「7年前の決勝のリベンジ」というモチベーションを口々に表現。特に14番のMF飯浜空風(3年)は同じ背番号を背負う石井へのライバル意識を燃やし、「(石井が)1年生の時から結構凄い選手っていうの知ってて。けど、受け身になんないで、どんどんチャレンジしていって、やっぱ『オレの方が14番似合うぞ』『オレが一番の14番だ』って見せたい」と語っていた。
その言葉は記事を通じ、石井の目にも入っていた。
12日の前日練習後、取材に応じた石井に質問を向けると「(相手が)燃えてる感じですね」と笑み。「記事を見ました。お母さんから送られてきて、『相手が燃えてるよ』って言われて……」とユーモアを込めて報道陣の笑いを誘いながらも、冷静な心持ちを口にしていた。
「でもそこの対決は自然とマッチアップなのであると思うけど、自分はそれ以上にチームにいい影響を与えるプレー、チームにとってプラスになるプレーが大事なので、そこに対して自分もフォーカスしてやっていきたいと思います」
しなやかにいなそうとする前橋育英、ギラギラと食いにかかる流経大柏という好対照な構図は実際の試合でも起こりそうな展開。石井は「戦いになれば自分もギラギラすると思うけど、ギラギラしすぎて空回りするのが良くないと思うのでまずは冷静に。監督からも『冷静にファイトしろ』ということを言われているので、頭はクールに、プレーは熱くやっていきたい」と意気込んだ。
そんな冷静さが魅力の石井だが、7年ぶりの日本一への思いは誰よりも熱い。その思いはこの1年間かけてしっかりとチームに落とし込んできた。
昨年春の新人戦終了後、石井は7年前の日本一を成し遂げたチームが掲げた「トランジション」「デュエル」「ハードワーク」「声」「ファースト・セカンド(ファーストボールにしっかり競り合い、そのセカンドボールを拾う)」の『5つの原則』を再認識。今季のチームのテーマとすることを決め、山田監督を通じてチームに伝達していたのだ。
「小学校の時に教わっていたコーチと話す機会があって、そのコーチが優勝した代の松田陸さんと関わりがある方で、優勝した代は『5つの原則』があったんだよという話を聞いて、そのことをインターネットで調べたら『ゲキサカ』さんの記事にあったので、それをまず自分のノートに書き写して、監督にサッカーノートで伝えました」(石井)
この『5つの原則』はシーズンを通じて、トレーニングや試合でのパフォーマンスを見極める大きな指針となり、「良くない時もチームの合言葉として立て直す基準になった」(石井)。今大会の躍進で『5つの原則』への手応えはさらに深まり、「5つの原則を掲げていた代が優勝したということはそこが大事だという証明にもなるし、自分たちも優勝して5つの原則が大事だということをもう一度育英に広げていきたい」と使命を口にする。
またチームの取り組みに限らず、石井個人としても7年前の偉業は胸に深く刻んでいる。当時の主将を担っていた前橋FCの先輩MF田部井涼(岡山)は「すごく尊敬している」というロールモデル的存在。また先輩が着けた伝統の背番号14も、2学年上のMF徳永涼(筑波大)にも大きな刺激を受けつつ、「ボランチで入ってきて1年生からトップチームに関わらせてもらって、涼さんの背中を見てきてキラキラしている存在だったので、自分も着けてプレーしたい思いがあった」という憧れの番号であり続けてきた。
明日の決勝はそうした偉大なチーム、偉大な先輩が成し遂げた「選手権優勝世代の主将」に並び立つ絶好のチャンス。当時と同じような緊迫した展開が予想される中、「やっぱり勝ちたい気持ちが勝敗を分けると思う。相手も勝ちに対して貪欲なチームだと思うけど、やっぱり育英がそれ以上に勝ちたい気持ちをプレーに出さないと勝てないと思う。強い気持ちを持って最後まで挑みたいです」と大きな覚悟を胸に、国立のピッチに立つ。
(取材・文 竹内達也)
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