地球という惑星の進化は、水のはたらきを抜きにしては語ることができません。

じつは、水は地球の表層だけではなく、プレートテクトニクスと共に、地球の内部に取り込まれ、地質学的なスケールで大循環しています。しかも、今後6億年で、海の水はすべて地球内部に吸収され、海は消失してしまうという、驚きの最新研究もあります。

「水」を地球規模のスケールで解説した『水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる』から、興味深いトピックをご紹介していくシリーズ。地球の歴史を振り返りながら、「水」が地球の環境のなかで、どのような働きをしているのかを見ていきます。

今回は、生命誕生の起源の3つの説を検証しながら、そのいずれもの説であろうとも「海」が大きく関わっていた、という、「生命と水」の深い関係を考えていきます。

【書影】水の惑星「地球」

*本記事は、『水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

生命は海の中から

地球上のいかなる生命にも多くの水が含まれるように、液体である水の存在は生命活動にとって必須な条件といえます。また、生命と海の成分が似ていることからも、生命が海から誕生したことに間違いはなさそうです。原始の地球では、太陽風や宇宙線によって高エネルギー粒子が地表にバンバン降り注いでいましたが、液体の水はそれらを反射するため、海のなかは初期生命にとって居心地がよかったに違いありません。

といっても海のそこかしこで生命が誕生したのではなく、原料となる物質や反応を促進する条件が整った環境が必要となります。そのような生命誕生の場として有力な候補が2つあります(図「生命誕生に関する3つの説」)。

【図】生命誕生に関する3つの説生命誕生に関する3つの説 original illustration by Ikuo Katayama/Hidenori Yanagisawa

一つは深海の熱水噴出孔です。太陽光のあたらない深海底では、現在も海水と岩石の反応をエネルギー源とする独立栄養微生物が生存しています。

もう一つは陸上の温泉地帯です。陸域での脱水縮合によってできる有機物が集まった、温泉のような場所から生命が誕生したとの考えです。

生命誕生の場としてどちらの説が正しいのか、まだ決着がついていない重要な問題です。ここでは、それぞれの考えを簡単に紹介したいと思います。

それ以外にも、生命は地球上で誕生したのではなく、どこか他の惑星で生まれたものが地球に運ばれ、進化していったとの考えもあります。パンスペルミア説とよばれるものです。もしそうだとしたら、宇宙は生命にあふれているということになります。そんなことを言ったらなんでもありな気がしなくもありませんが、否定することも難しいです。この仮説もその後の生命の進化の舞台は海となるのです。

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