フランス政界の最高舞台に突如として現れ、2017年に大統領に就任した際、エマニュエル・マクロン氏は同国における極右勢力の台頭に対する防波堤として自らを売り込んだ。

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ルペン氏(12月4日)

Photographer: Alain Jocard/AFP/Getty Images

  だが足元では、極右勢力を率いるマリーヌ・ルペン氏が政界内のパワーブローカーとなっているだけでなく、大統領就任という最終目標にかつてないほど近づいている。

  ルペン氏が事実上率いる極右・国民連合(RN)が左派連合「新人民戦線」と手を組み、バルニエ首相率いる内閣への不信任決議案を賛成多数で可決。バルニエ氏はわずか3カ月前にマクロン氏に任命されたばかりだった。

  フランスには現在、十分な権限を持つ政権が存在しない上、今後数カ月にわたり安定した政権が樹立される明確な手だても見当たらない。国民は不満を募らせ、予算を巡る危機が高まっている。

  フランス資産に対するリスクプレミアムは10年余り見られなかった水準まで達し、株価は急落。フランス株価指数のストックス欧州600指数に対するパフォーマンスは2010年以降で最悪となる勢いだ。

French Equities’ Relative Returns

CAC 40 has rarely underperformed Stoxx 600 by this much in euro era

Source: Bloomberg

  マクロン氏の政策運営が弱まる中でのルペン氏の躍進はフランスにとって長年にわたるビジネスフレンドリーな政策からの転換を告げるものだ。

  この政策は英国の欧州連合(EU)離脱後に世界的な金融企業をパリに誘致し、産業復興に向け海外からの投資を呼び込み、フランスのイメージを一変させた。

  一方、労働者は不満を募らせ、自分たちのために一段と尽力すると確約したルペン氏に徐々に賛同するようになった。

  フランスの政局を巡る不確実性は、EUにとって最悪のタイミングとなった。ロシア軍がEUの脆弱(ぜいじゃく)な防衛を脅かし、域内企業は米中の競合企業の資金力に太刀打ちできず、非友好的な米大統領の誕生も控えている。

  欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギ氏は今年発表した報告書で、大規模な投資と統合深化がなければEUは存在の危機にひんすると警告。マクロン氏はEUの将来についてドラギ氏の主張に賛同している。

  これに対し、ルペン氏は自らをこうしたアプローチに対するアンチテーゼとして位置付け、EUの権力を非難。フランスの資金拠出を撤回し、連邦主義に対抗すると表明している。ハンガリーのオルバン首相やイタリアのメローニ首相なども同様の考えだ。

France Goes To The Polls To Elect The Republic's 25th President

フランス大統領選挙の決選投票を終えたマクロン氏(2017年5月)

Photographer: Christophe Morin/Bloomberg

  17年にマクロン氏が勝利した大統領選挙の前日に、フランスには「黄金の10年」が訪れると予測していたベレンベルクのチーフエコノミスト、ホルガー・ シュミーディング氏は、今やその予測は崩れつつあると指摘する。

  「黄金時代は終わった。フランスがどの程度後退するかは、短期的には財政の不確実性に、長期的にはマクロン大統領の改革が大幅に逆行するかにかかっている」とし、「そのリスクは大幅に高まっている」と述べた。

  フランス国民議会(下院)で最大議席を有するRNは、議会が内閣不信任決議案を可決した余波の中でマクロン氏をスケープゴートに仕立て上げ、辞任に追い込む可能性がある。

  もっとも、マクロン氏は任期を迎える2027年まで辞任を強制されることはない。こうした中、ルペン氏は4日、辞任はマクロン氏とマクロン氏の良心が決めることだとし、辞任要求を控えている。

手詰まり状況

  マクロン氏がバルニエ氏の後任に誰を任命するかにかかわらず、今後数週間、あるいは数カ月間は難しい局面を迎える。これまでと同様、絶対多数政党不在の中で予算を可及的速やかに可決する必要があるからだ。

French Government No-Confidence Vote at National Assembly

バルニエ氏(12月4日)

Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

  議会の解散・総選挙は前回の選挙から1年後の7月まで実施できず、議会は手詰まり状態が続くことになる。法案の最終決定権を持つ国民議会はマクロン氏を支持する中道派、左派連合、ルペン氏の極右グループという相いれない3派に分かれている。

  政治史家のジャン・ガリーグ氏はマクロン氏について、「もはやゲームの支配者ではない。全能なる大統領には二度と戻れない」と述べた。

  新首相の指名に期限はないが、フランスは赤字を抑制し投資家を安心させる予算を切実に必要としており、マクロン氏は迅速な対応を迫られている。

原題:Macron’s Grand Project in Ruins After French Government Falls(抜粋)

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