イーロン・マスクの脳インプラント企業であるニューラリンクは11月下旬、新たな用途のための試験を開始すると発表した。これは、思考だけでロボットアームを操作できるかどうかを検証するというものだ。同社はその後Xに次のように投稿した。「N1インプラントを使って、支援ロボットアームをBCIで制御する新しい実験を開始できることを嬉しく思います。この実験では、その実現可能性を検証します」

脳とコンピューターをつなぐ「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」は、人間が脳波を使って外部デバイスを直接操作できるシステムで、ニューロンから発せられる意図された動きの信号を読みとり、解読することで機能する。

ニューラリンクのBCIは、「N1」と呼ばれるコインサイズのデバイスを用いるが、これはロボットによって、脳内に外科的に埋め込まれる。同社は現在、BCIの安全性および、まひのある人々がコンピューターを操作する能力について評価を行なっている。

コンピューターや義手を操作すること自体は、BCIの新しい偉業ではない。2008年、ピッツバーグ大学のアンドリュー・シュワルツ率いるチームは、サルが脳の信号を使って自分自身に餌を与えるためにロボットアームを操作できることを示した。

その後、研究者たちは人間のボランティアへの応用に進んだ。12年に『Nature』に掲載された研究では、脳卒中でまひした2人が、考えるだけでロボットアームを操作し、物体を掴むことに成功した。ひとりは14年ぶりに自分でコーヒーをつくることができた。16年の別の研究では、BCIを使用した男性がロボットアームを通じて触覚をとり戻した。

これらの研究で使用されたBCIは、被験者の頭部からコンピュータへと脳信号を解読するケーブルを必要とする煩雑な仕組みであった。それに対し、ニューラリンクのシステムはワイヤレスである。

これまでの被験者たち

今年初め、ニューラリンクは自社のBCIがコンピューターのカーソルを操作できることを示すデモをソーシャルメディア上で公開した。Xに投稿された動画では、被験者のノーラン・アーボーがニューラリンクのデバイスを使い、コンピューター上でチェスやそのほかのゲームをプレイする様子が映されていた。アーボーは16年の水泳事故で四肢まひとなった。彼は今年『WIRED』に対し、インプラントが彼に自立の感覚を与えたと語った。

アーボーは1月に脳手術を受け、ニューラリンクの脳インプラントを埋め込んだが、その数週間後、デバイスに問題が生じた。このインプラントには脳組織に挿入される64本の細く柔軟なワイヤーの糸があり、それぞれに神経信号を収集するため、16個の電極がついている。ニューラリンクは5月のブログ投稿で、いくつかの糸がアーボーの脳から引っ込んだため、一時的にカーソルの操作ができなくなったとしていた。ニューラリンクは、脳信号記録アルゴリズムをより敏感に変更し、信号をカーソルの動きに変換する方法を調整することで、アーボーの操作能力を回復させることができた。

ニューラリンクの2人目の被験者であるアレックスは、7月にインプラントを受けた。手術前に発表された同社の最新情報によると、ニューラリンクの幹部は、糸が引っ込む可能性を減らすための措置を講じたと話した。これには手術中の脳の動きを抑えることや、インプラントと脳表面の隙間を減らすことが含まれている。

最大の課題は「調整」

Xに投稿されたニューラリンクの内容によると、新たなロボットアーム研究は「現在進行中のPRIME研究から、参加者をクロス登録することを可能にする」という。同社のウェブサイト、および臨床試験情報を集めたオンラインリポジトリclinicaltrials.govには、このロボットアーム研究に関する追加情報はまだ掲載されていない。

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