11月27日、 インドの汚職は長い歴史を持ち、同国が潜在的な成長力を十分に発揮できない一因になっている。写真はアダニ・グループのゴータム・アダニ会長。イスラエル・ハイファで2023年1月撮影(2024年 ロイター/Amir Cohen)
[ムンバイ 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] – インドの汚職は長い歴史を持ち、同国が潜在的な成長力を十分に発揮できない一因になっている。それだけにインドの有力資本家は、新興財閥アダニ・グループを率いるゴータム・アダニ会長らが政府への贈収賄などに関与したとして米当局から起訴された事件を契機に、自分自身を省みる必要がある。しかし危険なのは、企業がこの事案から間違った教訓を得て、内部改革を行うどころか国際資本市場への警戒感を強めてしまうことだ。
割高な太陽光発電契約を勝ち取るために政府高官に2億6500万ドル(約407億円)に上る賄賂を贈ったとされる今回の事件は、汚職事件としてあまりにも典型的だ。アダニ・グループは容疑を全面的に否定している。ところが驚くべきことに、インドの州政府などが再生可能エネルギー契約を急いで点検する動きは見られない。
このことは、モディ首相が10年間にわたって進めた汚職撲滅の取り組みの限界を示している。モディ氏の率いる与党・インド人民党(BJP)は2014年の総選挙で絶対多数を獲得して政権を握ると、「ガバナンスの改善」という公約の下、派手な汚職取り締まりキャンペーンを展開。高額紙幣の使用を禁止し、テレビでは元財務相が逮捕される光景が生中継され、資産を失う実業家もいた。
こうした取り組みは西側基準で見ても成果があった。インドはトランスペアレンシー・インターナショナルがまとめる2023年の「腐敗認識指数」が13年から3ポイント改善して39となり、改善ペースが中国を上回った。この間に米国のスコアは4ポイント悪化した。
A range chart showing Corruption Perceptions Index scores for different countries
しかしモディ首相とインドにとって問題なのは、急成長する経済大国では汚職は消えるのではなく、進化して形を変える傾向があることだ。インフラ不足に悩むインドは今、急速なペースでインフラ整備が進み、市民もその騒々しさにひきつけられている。
インフラ整備支持派の多くは、開発業者が多少は賄賂を払わなければ建設など不可能だと考えている。モディ氏の取り締まりによって脱税は難しさを増したが、今でも日常的なサービスや罰金回避のために賄賂を払う人は多い。
今回の事件は、多くのグローバル企業が見て見ぬふりをしてきた現実に光を当てた。1人当たり国内総生産(GDP)が2700ドルと低いインド経済は、多くの可能性を秘める一方、他の多くの新興市場と同様、ビジネスを行うのが難しい場所でもあるということだ。
エネルギー移行への参加を急ぐため、あるいは供給網における中国依存を縮小するため、さらには単に拡大する消費者を取り込むために、ブラックロック(BLK.N), opens new tabやBMW(BMWG.DE), opens new tab、SHEIN(シーイン)などの外国企業がインドの大富豪たちとの提携を進めた。このことは、インド投資に伴う政治的なリスクプレミアムをひそかに縮小させることになった。
合弁事業の形を取れば、製造業とサービス業の拡大速度は速くなる一方で、往々にして経営支配権と監視を明け渡すことになる。
汚職を根絶すれば、縮小している外国直接投資(FDI)がゆくゆくは拡大することにつながるはずだ。しかし実際には、取り締まりで大物を標的にすれば、短期的には経済に打撃が及びかねないことを当局は分かっている。インドのGDP成長率はすでに6.7%に減速している。
A column chart showing foreign direct investment into India
インドの企業と政府は汚職に対する新たな取り組みを行わず、かえって経済的な自立をさらに追求しようとするかもしれない。特にエネルギーのような戦略的資産の資金を自前で調達しようとするかも知れないが、資本不足に悩むインドにとってそれは容易なことではない。
インドの経済発展モデルは全体として、リライアンス・インダストリーズ(RELI.NS), opens new tab、タタ、アディティア・ビルラ、アダニ、バーティの5つの大手コングロマリットに依存している。そしてこの大手5社は国家のニーズと合わせる形で成長目標を掲げている。こうした「司令官」的存在である準国営のコングロマリットこそが政府が目指すプロジェクトやインフラを実現している。その結果、プロジェクトは加速するが、こうした企業のいずれかに問題が発生した場合のインド経済に対するリスクは極めて大きい。
早い話が、アダニは米資本市場で資金を調達したため、米国司法省の「長い腕」が及ぶことになった。米司法省は米国の友好国であろうが、敵国であろうが、波風を立てることをいとわない姿勢を示している。インドの有力資本家は「迅速に汚職を一掃するか、それとも国際的な野心を抑えるか」という明確な選択を突きつけられている。
A donut chart showing the share of different classes of capital providers to the Adani Group.
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
WACOCA: People, Life, Style.