コラム:ドル優位に続くのは円かユーロか、3極通貨の年内見通し=内田稔氏

 2024年のドル、円、ユーロの3極通貨を振り返ると米ドルが最も強く、それにユーロが続き、円が最も弱かった。12月にはいずれの国や地域でも金融政策を判断する会合を控えている。そこで本稿ではそれぞれの金融政策の行方を予測し、年内の3通貨の序列や留意点を整理する。内田稔氏のコラム。ワルシャワで2011年撮影(2024年 ロイター/Kacper Pempel)

[東京 26日] – 2024年のドル、円、ユーロの3極通貨を振り返ると米ドルが最も強く、それにユーロが続き、円が最も弱かった。12月にはいずれの国や地域でも金融政策を判断する会合を控えている。そこで本稿ではそれぞれの金融政策の行方を予測し、年内の3通貨の序列や留意点を整理する。

<ECB、利下げほぼ確実>

それぞれの金融政策から見ていく。欧州中央銀行(ECB)が最も早い12日に理事会を迎える。ユーロ圏の11月総合購買担当者景気指数(PMI)は50を割り込み、ドイツでは製造業に続いてサービス業PMIも50を下回った。フランスのサービス業PMIも45.7と前月(49.2)からの落ち込みが激しい。インフレ率も11月に持ち直したが、それでも目標の2%だ。ドイツでの失業率もじわりと上昇傾向にある。以上を踏まえると12月の理事会における利下げの決定が確実な情勢と言える。

一方、ECBが発表した第3・四半期の域内妥結賃金の伸びは前年比で5.42%と1993年以来で最も高い伸びを記録した。50ベーシスポイント(bp)の利下げの可能性が取り沙汰されているが、利下げペースは今後のデータ次第とは言え、今回は利下げ幅は25bpにとどまるのではないか。

<FRB、利下げ見送りも>

17─18日には米国の連邦公開市場委員会(FOMC)が控えている。インフレ再燃が警戒されているが、求人件数の減少や失業保険継続受給者数の増加が続くなど、労働市場は悪化傾向をたどっている。冴えない米ディスカウントストア大手ターゲット(TGT.N), opens new tabの決算に象徴される通り、キャピタルゲインの恩恵に乏しい中・低所得者層にはこれまでの金融引き締め効果がじわりと効いているとみられる。現時点では25bpの利下げが決定される可能性がやや高い。

しかし、景気後退入りが回避されるノーランディングシナリオも意識される中、11月14日にはパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長も「経済はFRBが金利引き下げを急ぐ必要があるというシグナルを送っていない」などと発言した。確かに、9月のFOMCで示された見通しに比べ、実質国内総生産(GDP)成長率、失業率、コアの個人消費支出物価指数の伸び率の3指標は想定されたほど景気とインフレの減速を示していない。FOMCまでに示される10月個人消費支出物価指数や11月雇用統計、消費者物価指数の結果次第で、利下げがスキップされても不思議ではない。2025年末の政策金利見通しが9月の3.4%から引き上げられる可能性も低くない。

<日銀、利上げ見送りなら円安再燃>

日銀の金融政策決定会合は18日から19日にかけて開催される。改めて消費者物価指数をみておくと、生鮮食品を除く総合指数の伸び(前年比)は、31カ月続けて目標を上回っている。円安や資源価格上昇の影響を直接的には受けにくい生鮮食品とエネルギーを除いたベースの伸びも今年8月以降、拡大に転じており、輸入インフレの広がりを確認できる。

実際、国内要因のインフレを示すGDPデフレーターも前年比、前期比ともに8・四半期続けてプラスだ。日本企業の労働分配率の低さと5%以上の賃上げ(定昇相当含む、中小労組は6%以上)を求める連合の25年春闘方針に照らせば、賃上げの持続性も見通せる状況だ。需給ギャップはマイナス圏を脱しておらず、政府がデフレ脱却を宣言する状況にはないが、植田総裁をはじめ多くの審議委員がこれまで「金融緩和の度合いを調整していく」と繰り返してきた通り、実質金利がマイナス圏にとどまる範囲で利上げを進める必要性は高まりつつある。

共和党が大統領職と上下両院を掌握する「トリプルレッド」に終わった米国の選挙結果を受け、ドル高円安圧力が加わりやすい状況でもあり、仮に12月の利上げが見送られた場合、円安の勢いとともに輸入インフレ圧力が増すリスクが高くなる。為替相場にらみの側面がある上、年末を控えた時期の混乱を避けるために、来年1月まで利上げを先延ばしする可能性はあるが、利上げが決定される可能性の方が高いのではないか。ちなみに、政府が推し進める財政拡張と利上げは不整合との指摘もありそうだが、先述の通り、日銀の利上げは金融緩和度合いの調節であって引き締めではない。

<依然、ドル優位か>

以上を踏まえると、年内の3通貨の内、依然としてドルが対円、対ユーロともに底堅く推移しそうだ。米国では25年までを見据えた利下げ観測の後退や次期政権の政策によるインフレ再燃の可能性、財政拡張に伴うリスクプレミアムの拡大などにより、長期金利に引き続き上昇圧力が加わりやすいからだ。この中には財政悪化に伴ういわゆる「悪い金利上昇」の要素も含まれるが、これまで金利上昇にはドル高の反応がみられており、この傾向は短期的には変わらないだろう。

その上、FOMCで利下げが見送られたり、来年の政策金利の見通しが引き上げられたりした場合、対円での160円台回復や対ユーロでのパリティ接近が視野に入る。政権発足に先立ちトランプ氏を含む次期政権での高官からドル高けん制発言がきかれる可能性もあるが、3通貨内で最も実質金利が高いため、影響は限られそうだ。

<ユーロ軟調でも円よりは優位か>

ユーロは景気低迷を受けた連続利下げ見通しにより、軟調な値動きが見込まれる。その上、来年2月にドイツの総選挙を控え、政治的な不透明感も重しとなりそうで、さらにフランスの内閣不信任案が可決される事態まで加わってくる可能性もある。基本的にユーロ/ドルは1.05付近では上値が重くなりそうだ。

ただ、12月の利下げは完全に織り込み済みであり、利下げ幅が25bpにとどまれば、短期的にはむしろ1.07程度まで反発しても不思議ではない。その上、ラガルドECB総裁も連続利下げの言質まで与えることはしないだろう。このため、先述したドル高が進む場合を除けば、ユーロが主体的に下落する程度は限定的とみられる。また、実質金利水準を比べると円よりもユーロの方が高いため、対円での下げ幅も限られそうだ。日銀の利上げがあればユーロ/円は160円を割り込むであろうが、その後は底堅さを発揮して持ち直すのではないか。

<利上げでも円高は限定的か>

日銀が利上げに踏み切った場合、市場が完全には織り込んでいないだけに、対ドルで140円台、対ユーロで150円台のそれぞれ後半までは下落するだろう。しかし、市場参加者の間で、日銀の利上げペースが緩慢との認識が変わらない限り、実質金利がマイナス圏にある円の上昇はあまり長続きしないのではないか。

反対に、利上げが見送られた場合は、対ドルで160円台、対ユーロでも160円台後半まで上昇すると考えられる。また、仮にFOMCが利下げを見送っていた場合は、ドル円が年初来高値を更新する可能性も高まろう。

<円急騰の可能性は>

尚、足もとでは地政学リスクによる「リスク回避の円買い」が意識されている。実際、日米実質金利差に照らせば150円台を超えるドル円は円安バブルの領域でもあり、ドル円急落には要注意だ。ただ、円安が顕著となった22年以降のデータに限れば、ボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)指数が上昇した場合に対ドルで円高が進む関係性は統計的にみて有意ではない。これは、リスク回避の円買いと有事のドル買いがぶつかるためだろう。一方、これを対ユーロや対メキシコペソに置き換えると統計的に有意となる。従って、VIX指数が上昇した場合、データはクロス円の売りを推奨していることになる。

編集:宗えりか

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*内田稔氏は高千穂大学商学部教授、株式会社FDAlco外国為替アナリスト、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員、NewsPicks公式コメンテーター(プロピッカー)。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、マーケット業務を歴任。2012年からチーフアナリストを務め、22年4月から高千穂大学商学部准教授、24年4月から現職。J-money誌東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト、経済学修士(京都産業大学)。

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