コラム:AI時代はハードウェアが主役、テック投資家にも求められるマクロ視点

 11月20日、テクノロジー分野への投資家は、新たな変化に直面している。写真はAIのイメージ。2023年12月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

[20日] – テクノロジー分野への投資家は、新たな変化に直面している。彼らはこれまでマクロ経済にはほとんど関心を払ってこなかった。この分野では経済全体の成長やインフレの推移よりも、製品のたえまない性能向上や革新的な成長戦略の方がはるかに強力な投資リターンの要因になってきたからだ。だが、人工知能(AI)とそれに伴う膨大な資金需要によって、こうした構図が崩れつつある。

テクノロジー大手による近い将来のAIインフラへの投資予定金額は、想像を絶する規模になっている。2025年だけでも、アマゾンやマイクロソフト、アルファベット、メタ、アップルといったいわゆる「ビッグテック」は、2000億ドル(31兆円)以上の設備投資を行うと予想されている。対話型生成AI「チャットGPT」登場の前年の2021年比で、ほぼ倍増だ。設備投資の増加分のほぼすべてが、生成AIの性能向上のための取り組みに振り向けられる予定だ。

ここで浮き彫りになるのは、急増するAI投資と過去20年間のハイテクブームとの本質的な違いである。いま行われている投資は、ソフトウェアよりもハードウェアに集中している。そして、ハードウェアの方が明らかに資本集約性は高い。

経済が減速し、こうしたテクノロジー企業の業績見込みが悪化すれば、各社幹部は、これら野心的でかつ完全に各企業の裁量に基づく支出計画に尻込みする可能性がある。だからこそ投資家は、この誕生まもないテクノロジーから期待されるリターンを値踏みするのに戸惑っているのだ。

<「ハードウェア」が再び主役に>

21世紀の最初の20年間、ソフトウェア技術者は、機敏で拡張性に富み、固定費の低いビジネスモデルを武器に、次から次へと産業分野のあり方を変革してきた。少数の目端の利く起業家たちが自力でスタートアップを立ち上げ、初期プロトタイプで手っ取り早く成功を収め、次いで戦略的転換を進めていった。アマゾンやネットフリックス、そして多くのソーシャルメディア企業の例を見れば分かるだろう。

生成AIの時代になると、シナリオは劇的に変わった。今度のビジネスモデルでは、非常に高性能で複雑かつ費用のかかるハードウェアが軸になっており、その運用には膨大なエネルギーが必要で、構築に時間を要することも珍しくない。

たとえば半導体製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)によるアリゾナ州のファウンドリー(受託生産)拠点は総工費400億ドル、着工から4年後の2025年にようやく量産体制に入る。

AIへの投資を回収するには通常は何年もかかると想定されているのも重要なポイントだ。そのあいだにAIインフラの価値に悪影響を与えかねない要因もたくさんある。たとえば景況感やコストインフレに関する懸念もあれば、規制面での障壁や事業展開する地域に影響を与える地政学的な緊張もある。つまり、テクノロジー株の投資家も、もはや大所高所からの懸念を安易に無視しているわけにはいかないのだ。

<次世代のスタートアップ>

AI関連のスタートアップは、ソフトウェア分野のスタートアップと異なり、資本集約性がきわめて高い場合が多く、そのせいで市況や資金調達の難易度に非常に影響されやすくなっている。

こうした誕生まもない企業の大半は民間の資本に依存しており、最近では多くのベンチャーキャピタルが熱心に資金を供給している。2024年上半期、米国のベンチャーキャピタルが提供した資金の約半分は、AIやその隣接領域である機械学習に対する投資だった。

その投資額は巨額になりがちだ。オープンAIは10月、8件の投資家から総額66億ドルを調達して増資を行ったほか、9件総額40億ドルの融資を受けた。これらの投融資額の平均は5億ドルを超えている。

これほどの額の投融資ができるのも、S&P総合500種が過去最高値をつけ、米国経済がトレンドを上回る成長を示し、インフレが低下傾向にあるからだ。

だが、避けがたい景気減速の局面が訪れ、株式市場も下降線をたどる時には何が起きるだろうか。あるいは、米国での資本調達コストが上昇を続ければどうなるだろう。

その場合、AI関連のスタートアップにとっては、壮大な構想を支える資金の調達がこれまでより困難になり、AIエコシステム全体の成長と技術革新が失速してしまいかねない。そうなれば、「ビッグテック」が何千億ドルも投資してきたAIインフラへの需要も減退する可能性があるだろう。

<変動の周期性>

ハードウェア関連ビジネスには、ソフトウェアよりも周期性が見られるという特徴がある。それは、こうしたビジネスでは、新たな製品を生み出すためにかなりの資金と労力を必要になるため、継続的な調整では顧客の需要の変化に対応できないからだ。

たとえば、半導体メーカーとして株式時価総額が3兆5000億ドルを超えるエヌビディアでは、現在、新製品の発表周期に「1年リズム」を採用している。過去の製品発表ペースを2倍に加速していることになる。

つまり、こうした企業は伝統的な「在庫循環」に影響さることになる。需要が現在の供給を上回れば、在庫は縮小し、価格は上昇する。その逆もしかりだ。このように、ハードウェア関連ビジネスは、小回りのきくソフトウェア企業と違って、短期間のうちに生産能力を拡大・縮小することが苦手だ。したがってハードウェアの量と価格は、いずれも経済全体の状況にしたがって変動するのが普通だ。

注目すべきことに、半導体の売上高は数十年にわたり、製造業PMI(購買担当者景気指数)と正の相関を保ってきた。だがAIをめぐる狂騒的なブームが本格化した2022年には、この相関が崩れ始めた。これまでのパターンが当てはまるなら、半導体売上高の世界的な活況に、いつ調整の影がさしても不思議はないということだ。

これは1例にすぎないが、テクノロジー分野への投資家も、それ以外の投資家たちと同様に、マクロ経済を意識する必要が出てくるのではなかろうか。

(筆者はフィデリティ・インターナショナルのポートフォリオマネジャーです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(翻訳:エァクレーレン)

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