
11月8日、 欧州は再び偉大にはなれそうにない。米大統領選でトランプ前大統領が勝利したためだ。フランクフルトのECB本部で7月撮影(2024年 ロイター/Jana Rodenbusch)
[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 欧州は再び偉大にはなれそうにない。米大統領選でトランプ前大統領が勝利したためだ。
トランプ氏が公約に掲げる一律10%の関税は欧州経済の問題をこじらせるだろう。欧州中央銀行(ECB)は来月から大幅利下げを実施することで景気を支えられるだろうが、ドイツなどインフレ再燃を警戒する国が反対に回り実現しないとみられる。だが、これは問題の先送りに過ぎない。
ECBのラガルド総裁は「データ次第」で金融政策を決定すると繰り返し表明しており、状況の変化に応じて迅速に対応する用意があることを示唆している。そして今回、ECBに新たなデータが示された。トランプ氏が大統領に返り咲くのだ。
同氏が掲げる一律10%の関税が実現すれば、ドイツなど欧州諸国の経済成長に悪影響が出る。米国は欧州連合(EU)にとって最大の貿易相手国で、輸出品の25%近くが米国向けだ。
A pie chart showing the percentage of extra-EU exports going to different countries in August 2024
ゴールドマン・サックスの試算によると、欧州が報復に出た場合、貿易戦争と次期トランプ政権の他の政策により、ユーロ圏の域内総生産(GDP)が0.5%下押しされる可能性がある。下振れの大部分は来年発生するとみられ、GDPが1.1%増から0.8%増に押し下げられる見通しだ。
一方、ゴールドマンはインフレ率に大きな影響はないと予想。EUが米国からの輸入品に報復関税を課しても、景気鈍化で物価上昇圧力が相殺されるためだという。
経済成長がこのような衝撃を受ければ、金融政策で強力に対応する必要が生じる。ラガルド総裁は次回12月12日の理事会でそうした意思を表明する可能性がある。特にインフレ率が目標の2%を達成したことを踏まえれば、中銀預金金利を50ベーシスポイント(bp)引き下げ2.75%とすることは理にかなう。
だが、これは実現しそうにない。ドイツなどECB内のタカ派が影響力を持っているためだ。ユーロは米大統領選後に対ドルで1%以上値下がりしており、タカ派は物価上昇圧力を招くと主張するだろう。
確かに通貨安は輸入物価を押し上げるが、低成長、賃金の鈍化、過去の利上げの効果といった他のディスインフレ圧力が相殺されるとは思えない。
また、トランプ氏の関税が実現しない可能性もあり、ECBが性急な行動に懸念を示すことも考えられる。
だが、市場はすでにユーロ圏の景気低迷とインフレの落ち着きを踏まえ、中銀預金金利が来年中に1.75%まで引き下げられるとの見方を織り込んでいる。この水準に向けて今のうちに大幅な利下げを実施しておくことが、次期トランプ政権のたちの悪い副作用に対抗する助けになるだろう。
●背景となるニュース
*ECBは次回の理事会を12月12日に開催する。LSEGによると、デリバティブ市場は中銀預金金利が90%の確率で3.25%から3.00%に引き下げられると予想している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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