米国で第2次トランプ政権が来年発足した後、米国と中国の間で起きる最も激しい衝突は貿易問題だと大半の専門家が分析している。
トランプ氏は、中国からの輸入品すべてに60%以上の関税を課すと公言。共和党の有力上院議員らは、中国に与えている最恵国待遇の貿易ステータスを破棄したいと考えている。
これほど大規模な貿易戦争は、中国にとって深刻な打撃となるだろう。経済が低迷している中でうまみのある米市場へのアクセスを失えば、中国の経済成長率は1年以内に2.5ポイント押し下げられる可能性もある。
しかし、トランプ氏と中国共産党の習近平総書記(国家主席)を共に眠れなくさせるのは、貿易ではない。台湾だ。
中国は貿易戦争に対して無防備というわけではない。輸出先を別の国にたやすく変更できる中国企業は、いたちごっこのような終わりのない駆け引きに米国を引き込むことも可能だ。
どのような対中関税であれ、中国は輸出競争力を高めるため人民元の切り下げを行うことができるし、内需を刺激する手だても講じ得る。
全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は先週、債務に苦しむ地方政府を支援するパッケージを予想よりも小規模な内容で承認した。このことは、習氏が財政的な弾薬を将来のために温存していることを示唆している。
危機勃発
最も重要なことは、米国が課した関税が原因で経済が悪化した場合、中国はその責任をトランプ氏に負わせることができるということだ。景気低迷が続いても、恐らく習氏が国内で大きなダメージを受けることはないだろう。
しかし、台湾に関して、習氏はほとんど身動きが取れない。主権と威信への挑戦と見なされる出来事に強硬な対応をしなければ、中国の最高指導者は弱腰と見なされ、もろさを露呈する。
1995年にクリントン米政権が当時の台湾総統、李登輝氏にビザ(査証)を発給した際、中国はこれを米国による台湾独立支持と解釈し、一連の軍事演習を開始した。
いわゆる「第3次台湾海峡危機」の勃発だ。クリントン政権は最終的に2つの空母打撃群を台湾海峡に派遣。激しい外交戦を繰り広げた後、緊張を和らげる必要に迫られた。
約30年前、軍事力で劣っていたにもかかわらず、習氏の前任者たちが対米衝突のリスクを冒した政治的なロジックは、今も変わっていない。現在、米中の軍事バランスはより均衡している。
米国の歴代政権は「一つの中国」政策を堅持するため、強い自制心を働かせてきた。
例えば、台湾の外交部長(外相)や国防部長(国防相)はワシントンを訪問することは許されていないが、首都以外では米政府の外交・国防責任者と会うことは可能だ。
また、米国は台湾に軍艦を寄港させたり、台湾軍との合同演習をしたりすることを控えている。ただ、非公開の米台軍事協力は広範囲にわたり行われている。
トランプ氏は、前任者よりも台湾防衛への関与を減らし、中国との取引を重視する可能性を示唆している。
しかし、共和党議員のみならず、トランプ氏が率いる国家安全保障チームのメンバーが北京に対し手加減することはないだろう。抑止力を高めるため必要であれば、台湾との合同軍事演習を認めるなど挑発的な政策変更を正当化できると考えているとみられる。
一触即発
実際、「一つの中国」政策における曖昧な部分は、多くの潜在的な火種を生み出している。最も可能性の高い近々引き金となりそうなのは、トランプ氏の大統領就任後に台湾が合意を望んでいるとされる巨額の兵器取引だ。
この取引には、F35ステルス戦闘機とイージス駆逐艦の150億ドル(約2兆3200億円)相当の発注が含まれる可能性がある。こうした先進的な軍事プラットフォームの構築は、中国との危機を助長し得るとして、これまでの米政権が提供を避けてきたものだ。
トランプ氏は台湾に防衛費の4倍増を公然と迫っており、この取引はまとまる公算が大きい。承認されれば、台湾海峡の緊張はほぼ確実に新たな段階へと入る。
中国が侵攻に踏み切る可能性は低いものの、台湾の海運や航空便を混乱させるために、グレーゾーンの活動を飛躍的に強化する恐れはある。
タカ派にあおられ、自身の強硬姿勢を証明したいとトランプ氏が考えれば、この地域に大規模な米軍部隊を派遣する誘惑に駆られるだろう。
それは、60年以上前のキューバ危機を連想させるような、一触即発の状況を招くリスクをはらんでいる。こうしたシナリオは危険極まりないが、驚くほど注目されていない。
「戦争を止める」と公約したトランプ氏は、中国との軍事衝突は確実に避けたいはずだ。しかし、台湾を巡る対応を十分に注意深く行わなければ、大統領職を失うような危機に直面する可能性もある。
(ミンシン・ペイ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米クレアモント・マッケナ大学の行政学教授です。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Trump’s Biggest China Problem Won’t Be Trade: Minxin Pei (抜粋)
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