第2次石破茂内閣が今週発足した。石破氏は首相指名選挙中に国会で居眠りをしているところを目撃され波紋を呼んだ。
世界の大半の政治家が経験することのない、何時間もの退屈な国会審議に出席しなければならない日本の政治家にとって、居眠りはよくあることだ。林芳正官房長官は風邪薬のせいだと釈明した。
しかし、石破氏は寝ていた方がよかったかもしれない。すでに心配事が山積している。総選挙での大敗から立ち直れていない同氏は30年ぶりに少数与党の政権を率いることになった。石破政権が不安定になることは必至だ。
その石破氏が向き合わなければならないのは、かつて日本について好きなのは、人々が握手ではなくお辞儀をすることだけだと発言したドナルド・トランプ氏のホワイトハウス返り咲きだ。
日米同盟がここ3年間、過去に例を見ないほどの安定を保っていた後だけに、地域の平和にとって重要な2国間関係に新たなレベルの混乱が持ち込まれることになる。
米大統領選後のトランプ氏と石破氏の電話会談は、石破氏が「非常にフレンドリーな感じ」だったと表現したものの、わずか5分間で、他国の首脳とトランプ氏との電話会談より短かった。
2016年の米大統領選後、当時の安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーを急きょ訪れ、金色のゴルフクラブを贈ったことを思い出しながら、石破氏はトランプ氏との重要な会談を準備しなければならない。安倍氏はゴルフをきっかけにトランプ氏と親密な関係を築き、日本をトランプ氏の行き過ぎた行動から守った。
外交スタンス
石破氏は自らをさらけ出すことになるかもしれない。
同氏が政治の師と仰ぐ田中角栄元首相はかつて、首相になるには自民党の三役(幹事長、総務会長、政調会長)のうちの2つ、外務省と大蔵省、通商産業省のうち2省で大臣経験をしなければならないと語っていた。大蔵省は今の財務省、通産省は経済産業省だ。党の政調会長と幹事長を務めたことのある石破氏だが、田中氏が触れた3省を率いたことはない。
トランプ氏は回りくどい感じかねない石破氏の会話スタイルに我慢できるだろうか。政治家一家に生まれ権力者の輪の中で育ち、米国への留学経験もある安倍氏に対し、石破氏の国際経験は乏しい。
安倍氏は訪問先の多くでゴルフを楽しんだが、石破氏は40年近く前に議員になって以来、ゴルフをしたことがないと伝えられている(韓国の尹錫悦大統領はトランプ氏の再登板が決まり、8年ぶりにゴルフを再開した)。
石破氏は11日、トランプ氏の外交における取引的なアプローチと自身のそれとの間に大きな隔たりがあることを示し、外交が「譲る譲らないといったディールの世界に尽きるものだとは私は思わない」と述べた。
北大西洋条約機構(NATO)への関心が低いように見えるトランプ氏が、石破氏が提唱してきたアジア版NATOという時代遅れの計画を支持する可能性は極めて低いと思われる。2人は現在の日米同盟が不公平であるという点で合意するかもしれない。だが、不公平な負担をどちらが負うべきかについては意見が分かれる公算が大きい。
安倍氏の外交のおかげで、日本は第1次トランプ政権の貿易戦争をほぼ回避することができた。しかし、それ以来、対米貿易黒字は増加する一方だ。米国への輸出は16年と比較して40%余り増加し、中国への輸出を上回っている。
政府関係者が憂慮しているのは、防衛費を国内総生産(GDP)の2%相当に増やすという目標の達成に苦しむ日本に対し、トランプ氏が防衛費を対GDP比3%に増やすよう要求するのではないかということだ。
日米同盟
あるいは、こうした相違点こそ、石破氏は好機と捉えているのかもしれない。同氏が内閣官房参与(外交・安全保障担当)に起用した川上高司氏の日刊サイゾーとのインタビューが物議を醸している。
このインタビューは、21年1月6日に起きた米連邦議会襲撃事件に関する川上氏の発言が英語ニュースでも大きく取り上げられたが、日米の同盟関係を注視する人々にとって、懸念すべき内容が含まれていた。
川上氏は、伝統的なパートナーシップに関心を示さないトランプ氏の姿勢を利用することで、日本は「真の独立国」になることができると示唆し、米国だけでなく、中国、ロシア、北朝鮮に対する日本の立ち位置も再考すべきだと主張した。
理論的には、より独立した日本という考え方は良いものだ。しかし、現在のインド太平洋地域が不安定だという現実において、トランプ氏を利用してワシントンから離れていくことを日本政府が考えるのは危惧すべきことだ。
米国が主導する安全保障の傘の下にない日本は、核兵器の保有が必要になるのだろうか。より非同盟的になった日本が、中国の勢力圏に引き寄せられる可能性はあるだろうか。
石破氏や同氏のアドバイザーが日米関係に持続的な影響を及ぼすほど長く政権にとどまる可能性は依然として低いと思われる。石破氏は、今年度の補正予算と来年度予算の成立を優先させるために時間稼ぎをしているが、それ以降、特に来年の夏に迫った参議院選挙を控え、何が起きてもおかしくない。
太平洋の両側で、この数カ月の政治に関するあらゆることが専門家を驚かせている。その中には、世界で最も重要な同盟関係の一つである日米のリーダーが誰であるかも含まれている。今は居眠りしている場合ではない。
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(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Trump Return Leaves Japan’s PM No Time to Snooze: Gearoid Reidy (抜粋)
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