イチゴの完全自動栽培ソリューションを開発しているスタートアップHarvestXは、11月8日、イチゴ自動栽培システム「HarvestX」が浜松の代表的銘菓「うなぎパイ」で知られる春華堂への導入が決まったと発表。浜松市のスタートアップ支援施設「FUSE」と、同社のパイロットプラント「浜松ファーム」で記者会見を行った。同社製品の商業利用第一号となる。
HarvestXのイチゴ自動栽培パイロットプラント「浜松ファーム」
イチゴ自動栽培システム「HarvestX」は、春華堂が浜松市浜名区で運営している「食育」と「職育」をテーマにした「浜北スイーツ・コミュニティ nicoe(ニコエ)」に新規導入される。
一般の人も窓の外からロボットが動作している様子などを見学できるようになる予定で、生産されたイチゴはケーキなどに加工したり、そのまま提供するなどして使用する。イチゴの目標生産数は年間700kgで、4月以降に提供予定。自動栽培システムを活用することで季節に関わらず、いつでも高品質なイチゴを使った商品を製造販売できるようになる。
世界初の商業ロボット授粉ファームを春華堂が導入したわけ有限会社春華堂 代表取締役 山崎貴裕氏
春華堂は「うなぎパイ」で知られる1887年創業の老舗菓子メーカー。1961年に発売された「浜名湖名産・夜のお菓子 うなぎパイ」は誰もが知っている浜松銘菓だ。現社長の山崎貴裕氏は4代目。同社は現在、うなぎパイのほか、和菓子、洋菓子にも力を入れている。
2005年にはうなぎパイの工場見学ができる「うなぎパイファクトリー」を、2014年には子供の「食育」と「職育」をテーマとした 「浜北スイーツ・コミュニティ nicoe(ニコエ)」、2021年4月からは本社機能を持つ複合施設「SWEETS BANK(スイーツバンク)」を浜松の新たな観光名所として運営している。6次産業「あわ栽培プロジェクト」など生産者と共に取り組む事業にも参画している。
春華堂の取り組み。「nicoe」開業後、地域の生産者と関わる機会が増えた
山崎氏は「2014年の『nicoe』開業以降、地域の生産者とも関わる機会が増えてきた。一次産業で安定した生産ができるからこそ、お菓子が作れる。菓子屋としてできることはないかと考え、『次世代いちごファーム』導入に至った」と背景を紹介した。
イチゴは男女ともに好きな果物とされている。だがイチゴ流通量には季節変動もある。夏にはイチゴはあまり穫れず、形も不揃いで味もよくない。また、従来のミツバチを使うイチゴ栽培にはかたちが悪いものが発生したり、病気を媒介することもある。また温暖化により従来の栽培方法でリスクが高くなっている。
イチゴは季節変動が大きい
いっぽう、今回「nicoe」に導入されるHarvestXのロボット授粉ファームは病気が発生しにくく、環境変動を受けにくいメリットが期待できる。「一年を通して変わらないおいしい味のイチゴが提供できることはスイーツ業界にとって大きな一歩だ」と述べた。
自動栽培により安定してイチゴを生産できる点は菓子にとって大きなメリット
春華堂では、いちごを3粒使った「咲クレール」という商品を展開しており、これは年間11万本販売する人気商品だという。今回栽培されるイチゴも、まずは「咲クレール」用に展開する予定。その後、様々なお菓子への展開も期待していく。導入コストは非開示。
「咲クレール」。年間11万本販売する人気商品
山崎氏は今回の取り組みについて「ロボットを使った農業に興味があったし、きっとこういう技術が一次産業を大きく牽引するんだろうと思った。こんなお菓子ができた、こんなケーキができたらなということにも挑戦していきたい。どういう形でお客様にアプローチするかは我々の腕の見せ所でもある」と語った。
「咲クレール」はかぶりついて食べるのがオススメとのこと浜松市、地元信用金庫も全面支援
左から春華堂 山崎貴裕氏、HarvestX 市川友貴氏、浜松市市長 中野祐介氏、浜松いわた信用金庫 髙栁裕久氏
HarvestXの市川氏は浜松市出身。浜松市では、市が認定するベンチャーキャピタルおよび金融機関による出資等資金調達の活性化を通じて、市内スタートアップの成長を図る「ファンドサポート事業」を実施している。
浜松ファームは、2023年9月の浜松いわた信用金庫「やらまいかファンド」からの出資、そして2023年12月に浜松市「ファンドサポート事業」への採択を経て、今回の春華堂での商業導入に至った。会見には浜松市 市長の中野祐介氏、浜松いわた信用金庫 理事長の髙栁裕久氏らも出席した。
市長の中野祐介氏は、「浜松ファーム」について、「浜松市出身の市川代表がスタートアップ支援策を使って、かつ、春華堂さんと組んで地域の新しい活力を巻き起こそうとしているのは大変嬉しい。革新的な授粉技術は産業イノベーション構想とも合致するし、地場産業とも親和性が高い。世界的な企業も元をただせば町工場。浜松は町工場が大きく成長していくエコシステムが形成されている地域だ。浜松から世界に向けてさらに成長してほしい」と述べた。
浜松市 市長 中野祐介氏
浜松いわた信用金庫 理事長 高栁裕久氏は、2022年5月から始まった「浜松ファーム」立ち上げ支援の取り組みを紹介した。もともとは市川氏が浜松の実家に帰省したときに、インキュベーション施設「FUSE」を見学したことがきっかけ。そこから大規模実証用パイロットプラントの建設相談があり、信金では誘致に向けた伴走型支援を開始。駅近に賃貸スペースを確保し、2024年5月に完成となった。
その間に、地域信金のネットワークを使ってイチゴに関する問題への調査や実際のニーズ調査なども並行して実施。信金側でもイチゴの需給状況に危機感を持ったことから資金面でもHarvestXを支援するために出資等を行なった。春華堂との引き合わせも、浜松いわた信用金庫が行なった。高栁氏は「浜松市のエコシステム醸成に引き続き取り組んでいきたい」と語った。
浜松いわた信用金庫 理事長 髙栁裕久氏
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