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ある晩、瑠璃を激しく後ろから抱いていたら地震が起きた(猿になった俺は毎晩瑠璃を相手に色んな体位を研究していた)
「ヤダヤダ死ぬよ、死ぬう」
「大丈夫だって、落ち着けよ」
瑠璃がパニックになって素っ裸で部屋を飛びだしそうになったので、俺は必死で彼女を押さえつけた。侍女たちに目撃それそうになって、ビビる。
「だ、大丈夫かな氏真はん。この家壊れないかな」
「大したことないって」
今まで見せたことない怯えた表情を見て、俺は思わず彼女のトラウマの深さを見た思いがした。俺はなるべく優しく彼女の黒髪を撫で続けた。
「俺たちは戦国時代にいるんだ、死んでねえよ」
「だべかあ」
真っ青な顔をして、瑠璃は福島弁で呟いた。揺れがあったのは一分くらいだろうか。俺は布団の中でがたがた震える瑠璃を固く抱きしめ続けた。
「死ぬはずだったのに、生き残ってエッチしてるから罰あたったんかな」
「バアカ、神様がそんなセコいはずねえだろ」
「そうかな、神様って案外冷酷だから」
瑠璃が半信半疑で上目遣いで俺を見る目が、あまりにも幼くか弱く見えて、俺の心はギュッと締め付けらる感じがした。
「屏風に津波の絵を描いて、相馬に送ろうと思う」
俺は信長と元康が帰国してから瑠璃にそう告げた。
「久しぶりに絵師、瑠璃様の出番だべな」
瑠璃は嬉しそうに言って、引き受けてくれた。
「まあ、こっちは頼む立場だからインパクトある贈り物がいいかなっておもってさ」
「だべだべ」
瑠璃はただの津波だけじゃ意味がないってことで、それを背景に元康から借りてきた鷹を描き始める。製作には半年掛かった。その期間瑠璃はあまりエッチさせてくれなくて、俺は側室を持とうか真剣に考えたが、やめた。瑠璃を傷つけたくないから。
「なかなかの出来栄えですな」
絵が完成すると元康が三河からわざわざ見学にきた。と、思ったらうるさい嫁も連れてきた。瀬名である。
「お屋形様、せっかく信長を倒したんだから、京を目指さないんですか?」
相変わらずアグレッシブな嫁である。こいつが信長のクビを刎ねようと主張して、諦めさせるのが大変だった。
「京は興味ないんで」
俺は素っ気なく言った。上洛して他の大名の嫉妬受けて、袋叩きにあいたくない。
「なんで、相馬なんて田舎者相手にするんだか」
瀬名は相変わらず美人だが、鼻もちならない女である。でも、歴史が変わって彼女が死なずに済んで俺はとても満足していた。真相を知ったらさぞかし、そのナメた態度を後悔することだろう。
瑠璃の完成された絵を四人で鑑賞する。絵はちょっと北斎のパクリっぽいが、大波を背景に力強く飛翔する鷹はインパクト十分だった。
いつものようにナガレで四人で酒を飲みだす。丁度桜の季節で庭に毛氈をひいて宴会が始まってしまった。「氏真殿、瀬名の言い方は乱暴ですが、京にのぼることも考えませんと」
元康がためらってから言った。
「あああ、全国鷹狩大会主催したいんだよな」
「まさにその通りです」
元康は当たり前だという顔で答える。確かに同盟の条件に鷹狩バカを満足させる条項が入っていた。
「それ、元康が京で単独でやってくれない」
「やはり氏真殿は石碑が重要であると」
「そ、そうなんだよねえ」
俺は申し訳ないって気持ちを表すつもりで、元康の盃になみなみと酒をついであげた。
「京のミカドか将軍に相馬に手紙を書いてもらえばいいんじゃないですか」
瀬名がまた余計なことを言う。
「必要ねえよ、費用送れば石碑作ってくれるって」
「そんな意味不明な頼み断りますって」
根拠もなく瀬名が俺のプランにケチつける。
「俺は上洛の費用と貴人に会う気苦労を回避したいだけ」
「駿河の太守様はケチですわねえええええ」
瀬名がまた嫌味を言うので、軽く睨んでやった。元康と瑠璃は無視して桜を見ながら和気あいあいと絵の話で盛り上がっている。やばい、平和すぎる。全てが順調だ。あとは相馬が石碑を了承すれば、いよいよ瑠璃と教師と教え子の間柄を超えた禁断の子づくりライフがスタートする。
数日して相馬から手紙が来た。あろうことか、屏風の絵を受け取りながら相馬は石碑建設を断ってきた。いよいよ瀬名のプランBに乗らざるをえなくなる。

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