東日本大震災から間もなく12年。福島第一原発の事故は、様々な暮らしを奪っていきました。

しかし、12年の月日は、人々の原発に対する意識を、徐々に変えていったのも事実です。

脱炭素のうねりに加え、ウクライナ戦争によるエネルギー供給の危機。岸田総理はこのタイミングで、原発政策を大きく転換し“原発回帰”を打ち出しました。

なかでも注目されているのが、今年10月の再稼働を目指す、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所です。

柏崎刈羽原発・稲垣武之所長:「821万kWと、カナダのブルース原発がほぼ同規模。ウクライナのザポリージャ原発が100万kWが6基ありまので600万と、こういった辺りが世界でも最大規模。これは今一番大きい、世界最大規模の1つ」

合計出力821万kWは世界最大級。しかし、12年前の福島での事故の後、全国の原発は次々と停止。そのまま10年以上、休眠状態が続いていました。

しかし、原発回帰にかじを切った岸田政権。すでに10基が稼働するなか、新たに7基の再稼働を目指すとしています。

岸田総理:「原発再稼働に向け、国が前面に立って、あらゆる対応をとって参ります」

そのなかに含まれているのが、柏崎刈羽原発の6号機と7号機。今回、7号機の中に入りました。

運転停止中のため、圧力容器の中に核燃料はありませんが、先月からは模擬燃料を使った、機械の動作確認が始まっています。

そして、再稼働を行ううえで求められるのが、福島の事故を受けた安全対策。万が一に備え、原子炉の冷却を続けられる手段が、何重にも用意されていました。

電源喪失の事態に備えた、非常用発電機。福島第一原発の事故では、この施設が地下にあったことが、命取りとなりました。

稲垣所長:「福島第一原発では、ディーゼル発電機は地下にある。当時は津波の想定の高さが海抜10メートルよりも低い状態。海水がディーゼル発電機室に入ってくるという話はなかった」

しかし、想定を超える事態が起こり得るのが原発。稲垣所長は12年前、身をもってそれを実感した人物です。

電源を失い、制御不能となった原子炉は、暴走を続けメルトダウン。そして、爆発を起こしました。

当時、福島第一原発の保全部長として、稲垣さんはあの場所にいました。

稲垣所長:「『出てくれ。作業を続けてくれ』と指示を出した時に、1号機で爆発を経験した人は『怖くていけない』と」

復旧の責任者として、不安を抱く部下を説得し、現場に送り込みました。

稲垣所長:「『悪いなりに安定してきて、悪化の傾向はない』『水素爆発はしばらくないんじゃないか』と、非常に拙い説明をした。マネージャーが『部長がそう言うんだから行ってくれ』と。チームリーダーとその下も『頑張って、みんなで行こうじゃないか』と。メンバーさんは渋々行ったと思うが、その3~4時間後に爆発しましたので。死なせてしまったかもしれない。1人1人戻ってくるんですけど、血を流していたり、真っ青な顔をしていたり、生きた心地がしない状態で。あれは非常にショッキングで、ああいう事態には絶対にしないというのが使命」

福島第一原発では今、莫大な費用をかけて、先の見えない廃炉作業が続いています。

東電にとっては、柏崎刈羽の再稼働は、経営再建への頼みの綱でもあります。

しかし、再稼働の審査には合格しながら、現在、柏崎刈羽原発は事実上の“運転禁止状態”。その原因は、相次いで発覚したセキュリティー問題です。

他人のIDカードで原発の中枢部に入っていたり、侵入者を検知するシステムが壊れたままだったりなど「核物質を扱う資格がない」と、規制委員会から厳しく断罪されました。

この運転禁止命令の直後、所長に就任したのが稲垣さん。まず始めたのは、所員とのコミュニケーションの強化でした。

稲垣所長:「(Q.色々なこれまでのリスクや不祥事に近いものは、最大に起因するのは“コミュニケーション不足”か?)コミュニケーションは大きな問題ですけど、まず1つはリスク認識が甘い。失敗した時に物理的な影響と、対外的に非常に心配をかける。想像力に弱みがある。物事が起こった時に、対処する是正力が非常に弱い」

原発を最大限活用するとした政府の方針転換を背景に、柏崎刈羽の再稼働へと動き出した東京電力。あの事故を経験した稲垣さんは、何を感じているのでしょうか。

稲垣所長:「(Q.政府が先行する形で“今年の夏以降”に再稼働のスケジュール感。所長自身は“夏以降”を目指すか?)政府が色々考えていることは、もちろん存じ上げていますが、地域や地元の皆さまの目は非常に厳しいと思っています。中も変えようとしていますし、外にお伝えすることを努力している。一生懸命、努力しているところです。(Q.必ずしも政府が号令をかけている“夏”は、所長自身の頭にはない?)一つ一つ積み上げていくしかありません。きちんと地元や地域の皆さまにお伝えして『お前の発電所は信頼できる』という声を一定程度いただいたうえでないと『再稼働できます』とはならない。時期にはこだわるべきではない。私自身が納得しない限りは、再稼働させることはないというのは、会長や社長にも伝え、同意をもらっている」

静かに近付いてきた、再稼働の足音。12年前、福島・富岡町から柏崎まで避難した石原政人さん(60)。今、再び“原発”という存在に直面しています。

石原政人さん:「私たちも富岡町にいた時には、東京電力という大きな会社で、地域が潤っていた。この地域も同じなんですよね」

地元にとっての必要性。一方で、東電に対する思いは。

石原政人さん:「原子力の運転者を替えていただければ、再稼働してもいいのかなと。事故を起こした会社が運転するのは怖い」

立地自治体のトップは再稼働容認の姿勢を見せていますが、県は態度を明らかにしていません。

ANNの世論調査によりますと、原発の活用に「賛成」という声は49%と半数近くに上り、「反対」の34%を上回っています。

稲垣所長:「(Q.世の中の情勢が変わってきて、政府の方針に翻弄されたり影響されたりすることはあるか?)政府の方針はもちろん、GX含め、カーボンニュートラル、エネルギーセキュリティーの面で、原子力発電所がゼロになるのが良いとは、原子力のエンジニアとして感じていない。運転するからには、安全性と我々自身の力量、組織としての信頼関係を築きあげるのが大前提。そこに向けて注力するのが、発電所長の全ての役割」

【震災から12年“重い沈黙”】

◆原発事故が起きた福島第一原発のある福島県大熊町で取材を続けている、大越健介キャスターに聞きます。

大越健介キャスター:「エネルギー事情が苦しいとはいえ、原発再稼働に一気に前のめりになっていいのだろうかという疑問を持って、私は柏崎刈羽原発に取材に向かいました。そこで感じたのは、政府が旗を振ったとしても、それによってイコール、再稼働が一気に進むとは考えにくいということでした。そのことは、稲垣所長の『政府の考えはあるだろうが、柏崎刈羽はまだ一定の信頼を得るには至っていない。時期にこだわるべきではない』という言葉に表れていました。特に、福島で事故を起こした東京電力に対しては、視線は依然厳しいものがあります」

大越健介キャスター:「取材を終えて、改めてこの福島・大熊町に立って感じたのは、12年も続く、この沈黙の重さです。紙一重の命の危険にさらされた恐怖の記憶と、生活を奪われた住民の悲痛な思いが、この沈黙には詰まっています。今後、休止中の原発が、安全審査を経て、再稼働へと向かう流れは、今の時代背景を考えれば、合理的なのかもしれません。しかし、福島の事故を経験した日本に住む私たちは、リスクと安全性、街の復興の方向性の全てを、その都度立ち止まって熟慮を重ねる必要があります。今、この場所を覆う沈黙が、むしろそのことを雄弁に語っています」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

29 Comments

  1. 早く再稼働して電気料金とco2排出量下げてくれ地球にも日本人にも優しくしてくれ

  2. 5:50
    原発は安いとか言うけど、この事故処理費用や周辺の土地や資産が数十年に渡って台無しになるって考えたら言うほど安くないよな…。更なる災害やテロの脅威、使用済み燃料の処理などを考えたらマイナスに思える。
    少なくとも、今は東電の会社としての体質がまだそれほど変わっていないからまず無理だね。東電は基本的に、これくらいの対策で良いだろってスタンスだから、国の審査も毎回通らずに改善点を指摘される。言われなきゃ直せないようでは危機意識が足りていないとしか思えない。事故ってもしょうがないで済ませるんだろうなと予想できる。原発は普通の発電所やプラント以上に気を使うべきものなのを忘れないでくれ。

  3. 柏崎刈羽は廃炉じゃろ、BWRは構造的欠陥があるからもう例外なく再稼動不可だよ、せめてPWRだけはどんどん再稼動すべき、伊方、泊、高浜、敦賀はとっとと動かせ。

  4. スタッフの多くはたぶん稼働していた時代を知っている。またあの時と同じになるだけでしょ、って思ってるだろうね。でもそれじゃダメなんだ。警備問題だってそれが原因に見える。何が起き得るか全て洗い出し、その想定が甘くないか厳密にチェックし、全て対処法を吟味し、訓練しておく必要がある。その時障害になるのは、多くのスタッフにしみついている過去の体験じゃないかな。昔はこんな面倒なことしてなかった、そんなこと起きる訳無い、etc.

  5. もっとデカい地震で大爆発しないと分からんのか

  6. そりゃあ最高の天下り先をなくす訳が無い。

  7. 出来れば新型機に置き換えたいけど、すぐには出来ないんだよね。

  8. 「信頼関係」=安全性の確立則ち物理学/科学的核分裂停止立証が根本に無ければタラレバ繰り返す。まず謙虚・勤勉に省エネ頑張ります。

  9. 原発関連費用 22兆円は原発賛成派に負担させよう!

  10. 事故が起こる度に想定外の連続。地震だらけの島国で、いつ何が起こるかわからない上に廃棄物問題も未解決。そもそも人間にはまだ手に負えない技術だということを忘れたのか。

  11. 時代背景に翻弄されずに、粛々と合意形成をとったうえで進める進めないの判断をしてほしい。

  12. 正直あの体たらくは驚いた。明らかに故意。あんなことしなければ今頃再稼働していたかもしれない。

  13. 不安に対して熟慮しなければという考えは大事な一方でどれだけ考えを重ねても熟慮をという声こそ日本を停滞させてる原因の1つだと思う。
    現実にあれだけの大事故が起きて想像しがたい被害を受けた人達も大勢いる中で再稼働すすめるのは不安だというのは当然の反応だけど
    疑問を投げかける体で不安を煽る方が安心するかのような考えが蔓延するのも問題だと思う。

  14. 新所長が就任してからの3号機の審査では150カ所も不適切な記載があったことが分かりましたし、
    去年の運転禁止命令以降に東電側が自分から課した課題も未だ解決出来ていませんが、
    本当に原発を運転していけるだけの技量・意識があるんでしょうか?

  15. 何十年も前から、「安全第一、信頼回復、変わらなきゃ、コミュニケーションには挨拶が大事」が常套句の会社。挨拶が大事と言う奴ほど偉そうで自分から挨拶など決してしない。 口の上手い営業出の社長に、人の良さそうな風貌の所長、12年も止まっていたプラントがまともに動く筈もないのに。今が発送電分離、東電解体の良いタイミングかもしれない。

  16. 再稼働前に放射性廃棄物仮保管所にあるものをすべてを国会、議員会館、東電本社前と責任取るべき人が毎日直接見れる位置に移すのが先じゃない?

  17. 原発を海の真ん中に作ったら?
    海水あるから,もしもの時は海水で冷やせるし
    津波が海のどこから発生するのかは知らんけど,

  18. その自信は、もっとしっかり自社の社員の目で監理してから放つべきです。
    足りない現場管理者をキチンと理解していない派遣社員で埋めているようでは信用できません。
    それが工事に関わるプラントメーカー側の意見です。

  19. 廃炉決定!!
    柏崎刈羽原発 東電社員が書類38枚を紛失(2023年5月23日)

  20. 所長の発言が全て。
    運転するからには安全性・力量・信頼関係が必要。
    福島第一では原子炉の土台のコンクリートがボロボロで、地震等でいつ倒壊してもおかしくない。
    この番組の後にも、所員の書類の持ち出し・紛失が発生。
    自民党の地元の県連にも再稼働を反対される状況で再稼働なんかできるはずがない

  21. 「原発の最大限の活用」に賛成が多数派なのは良いが、「柏崎刈羽原発を今の状況で再稼働するべき」という考えの人がどれだけいるかが気になる。問題が多いとは言え、技術的には安全性が認められているのだから、再稼働しながら厳しい目を入れ続ければ良い。と考える人がどれくらいかというのは本当に読めない。

  22. 原子炉は堅牢ですが最も危ないと思う箇所は原子炉建屋とタービン建屋を往復する主蒸気配管
    これが破損すると大気中に出てしまいますね。