2018年全日本選手権(SP:12-21/FS:12-23)の際の紀平梨花選手のトリプルアクセルについての検証
SP冒頭失敗した3Aは「高さが僅かに足りず」「回転しきれず」「右足着氷時に左足が残って両足着氷となり」「ランディング姿勢をとれず」「ブレードエッジが氷に引っ掛かり転倒」しています。
原因はシューズのテーピングに問題があったかのように本人はインタビューに答えていましたが、そうではないように思います。
今季、3Aの失敗した場面の主な理由は、どれも、「高さ不足」にあります。GPFのフリー演技冒頭の両手を付いた3A失敗も同じ原因です。
踏み切りから着氷までの幅は十分跳んでいますが、「高さ」が必要な分だけ僅かに確保されていません。
つまり、体を回りきらせるだけの必要な高さまで体を浮かせる「踏み切りの力」が小さかったという事です。
3A失敗の原因は、「踏み切りの際の力不足」です。
もし、必要な「高さ」の確保が難しいなら、「体の回転速度を上げる」しかありません。
もっと、膝、腰、足首のバネ(筋力)を鍛え、瞬発力を高めなければなりません。
そうしなければ今後も3Aで失敗が頻発しますし、3Aどころか、4回転ジャンプも同じ理由で跳ぶのが困難になるだろうと思われます。
紀平選手はまだ16歳。今季連戦連勝でGPファイナルを制したとはいえ大きな試合への不安が無いと言えば嘘になるだろう。
失敗の理由をシューズのテーピィングの所為にもしたくなるかもしれない。
しかし、失敗の本当の理由は体を回転させきるだけの「ジャンプの高さの不十分さ」だと思われる。
高さが出ない理由はその直前の初動である「左足の踏み切りの弱さ」である。
瞬発力が僅かに足りなかったという事だ。
また、ショートプログラムで使用した曲『月の光』が柔らかな優雅な曲であり、演技全体を優雅に滑るあまり瞬発力を必要とするトリプルアクセルの場面でそれを発揮できなかった可能性もある。昨季、昨々季、紀平がトリプルアクセルを失敗したケースもおおよそスローテンポの曲の時であるというのも事実で、そのあたりの改善も望まれるところだ。
2022年の北京オリンピックまでには、まだ3年以上もあり、その間の、紀平の肉体的変化がトリプルアクセルを跳ぶのを困難にする悪条件が加わってくるかもしれない。
着氷時の負担も大きいので、怪我のリスクも高いだろう。
瞬発力を養い、それらの困難にも負けないような強靭な腰と膝と足首を作り上げていってほしいものです。
9 Comments
すごくわかりやすい
なるほどと思いました
【2019世界選手権における紀平選手の3A失敗について(その1)】
2019年の3月、2019世界選手権がさいたまスーパーアリーナで開催され、女子シングルのSPが20日、FSが22日に行われ、男子シングルはSPが21日、FSが23日に行われました。
21日の男子のSPで昨年のGPロシア大会(2018年11月)での右足の故障から4ヶ月ぶりに実戦に復帰した羽生結弦選手でしたが、演技冒頭の4回転サルコウを2回転としてしまい規定によりこのエレメンツには得点が付かず、全体の3位で試合を折り返しました。この時、演技を終えてキッス&クライに戻ってきた羽生選手はオーサー・コーチに「(4回転フリップが)思ったよりスピードが遅くて失敗した」と話すのをマイクが拾っていました。
体を回転させるのに十分なジャンプの高さを出すためには踏み切りの瞬発力が大事なのですが、瞬発力が男子に比べて弱い女子の場合には、このジャンプに向かう助走のスピード、いわゆる「入りのスピード」が重要になってきます。
同20日に行われた女子SPでは、紀平梨花選手は冒頭の最大の得点源であるトリプルアクセルがシングルとなってこの要素無得点となりました。
この動画はUPしましたが日本ではブロックされるという事なので非公開としましたが、そこでの私の説明文の一部をここに引用します。
【前略・・世界選手権でも「ショートの悪夢」が繰り返される。使用曲にドビュッシーの『月の光』。ゆったりとした優雅な曲だ。その曲の流れに引きずられるように紀平の動きは緩慢に見えて始まった。大舞台で緊張があったろうし、慎重になり過ぎたのかもしれない・・。・・中略・・
最初のジャンプで紀平の演技の最大の見せ所となるトリプルアクセルへ向かうのだが、私の目にはそれはとてもスローで踏み切る数メートル手前の時点で「これは無理だ、跳べない!」と確信してしまうほどの遅さで、案の定、3Aは1Aとなり、規定によりこのエレメンツは無得点となった。
フィギュアスケート競技におけるジャンプ適応性で、体の筋肉の付き方や脂肪の付き方で男子に劣る女子の場合、3Aのような高難度なジャンプを成功させるためには、「入りの初速のスピード」がカギになる。
このスピードが充分になければ、踏み切りに勢いを付けられず、その結果、3Aを回りきるのに十分な「滞空時間」(「十分な高さ」+「十分な距離」の和)を得られないからだ。
男子の場合なら、(これは特別に上達した選手に限定して言えることだが)羽生結弦選手やハビエル・フェルナンデス選手のように、直前の入りのスピードが足りていないように見えても、男子特有の強力な筋力で踏み切りと同時に強力な回転加速を体に加えられるのだが、筋肉と脂肪の付き方が違う女子にはそれができないのだ。
紀平選手は羽生選手のような力の入っていないかのような状態から軽々と跳ぶかのように見せる3Aを習得したいようだが、成熟した女子の肉体では無理なのである(※ロシアの12~14歳の肉体がまだ女性的特徴へと成長していない男の子のような体のジュニア選手が軽々と4回転を習得できるのはこの所為である)。
では、どうしたら良いのか?
メリハリを付けることである。エレメンツから次のエレメンツへ移る際の力の入れ方、スイッチのオン・オフを明確に意識することが大事である。
紀平が優雅な曲調のプログラムで3Aを失敗するか成功するかの分岐点は、ここである。
フリープログラムで3Aの失敗が相対的に少ないのは、フリーで使用する曲が比較的、闘争的躍動的である為、意識的にジャンプの「入りのスピード」が充分に速く確保されるからである。
・・後略・・】
【2019世界選手権における紀平選手の3A失敗について(その2)】
同22日に行われた女子FSでは、最初の3A+3ToLoを成功するものの、二つ目の単独で跳ぶトリプルアクセルで転倒する失敗を犯します。
この動画もUPしましたが日本ではブロックされるという事なのでこれも非公開としましたが、そこでの私の説明文の一部をここに引用します。
【20日に行われたSPの試合で最大の得点源であるトリプルアクセルが進入速度が足りずシングルに終わってこの要素が無得点となり、このエレメンツだけで持ち点から約10点を失った紀平梨花選手。ほぼその差がSPの順位に反映されて7位。トップのアリーナ・ザギトワ選手との得点差は11点となり、ザギトワ選手がFSで大崩れしない限りとても逆転はできないという絶望的得点差が開いてしまっていた。
この日行われたFSに臨んだ紀平は、勿論その得点差は意識上にあり、それが演技にどう影響するか心配されたが、冒頭の最高難度の合わせ技トリプルアクセル+トリプルトゥループは観衆も手に汗握る中で見事に成功したが、2本目のジャンプである単独のトリプルアクセルに罠が待っていた。
進入速度も出ていて素早く跳べた3Aに見えたが、体の回転軸の角度が斜め前に傾き過ぎて着氷時の体が前傾となって氷を捉えられずに転倒。回転はしたものの転倒の減点とGOEのマイナスで都合5点ぐらい減じたものと思われる。
その後は平静を取り戻して最後までミスを出さずに演技し終えたが、FSの得点は152.59点(技術点82.63演技構成点70.96減点-1.00)でSPの得点70.90点と合わせたTotalは223.49点となった。
SPでザギトワに11点離され、このFSでもザギトワが演技失敗しないと仮定するなら3Aの失敗分である5点が差に表われ、合わせて16点くらい引き離されることになるだろう。
最終組最後から2番目滑走の演技者ザギトワは、オリンピック女王の貫禄で落ち着いて演技しミスを出さず今シーズンベストのFS155.60点を叩き出してTotalを237.50点まで伸ばして圧勝した。
223.49点まで伸ばした紀平であるが、試合が終わってみると全体の第4位。メダルにも届かなかった。
ザギトワが237.50点で優勝し、2位には今大会FSで女子としては世界選手権では初めて4回転サルコウを着氷し伸長著しいカザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエヤが224.76点で滑り込み、3位にはオーサー・コーチに下で表現一辺倒の演技から脱却して復活したエフゲニア・メドベデワが滑り込んだ。
紀平がミスをしなければ、ザギトワとの優勝争いであったはずなのであるが・・。
紀平とザギトワの得点差を見れば、ミスが出ないと仮定すれば両者が実力伯仲する関係にあるかが実によく分かる。
SPでは紀平が落とした3A失敗のマイナス約10点分相当が両者のSP得点差11点となって顕われており、FSでは紀平の単独3A転倒のマイナス約5点相当が両者のFS得点差3.01点となって顕われている。
それは当然Totalの得点にもそのまま反映される。紀平のSPとFSでの二つの3A失敗分約15点分が、ザギトワとのTotalの得点差14.01点となって顕われているのだ。
二人の関係は、ミスが無い限りにおいて、実力的には全く伯仲していると言ってよい。
しかし、ミスが出てしまったらどうしようもない。
ザギトワとて3Lz+3Loのような難度の高い合わせ技を組み込んではいるが、難度という点で観れば紀平が演技に入れてくる3A及び3A+3TLの方がはるかに高難度であり、その分失敗するリスクを抱えてもいるということになる。
しかし、日本人が欧米の選手に勝つには3Aのようなより高度な技を演技に組み込まなければ西洋的審美観で採点するISUの演技審判達を黙らせることができないのだ。
それが証拠に、SPとFSをともに自己ベストを出して日本の視聴者にはザギトワの次くらいに付けたのではと思わせた坂本香織選手でさえTotal222.83点で失敗した紀平に続く第5位と、トゥルシンバエヤ選手やメドベデワ選手に届かないのである。
紀平選手はまだメンタル面で弱いところがありそれが演技にも表れてもいるのだが、3Aは跳ぶ以上、必ず成功させて失敗させてはいけないと肝に銘じなければならない。
3Aを科学的に分析し、何が失敗の原因になるのか、どこが失敗の要因となるのか、明確に意識していなければならない。
●転倒したのは体が理想的な傾き軸になかったという事。
●回転数が足りなかったのは体が回転しきるのに必要な滞空時間(十分な高さと十分な幅の和)がなかったという事。
●必要な滞空時間を作れなかったのは踏み切り時の瞬発力が足りなかったという事。
●踏み切り時の瞬発力を作れなかったのは進入速度が遅かったという事。
失敗成功を決定づけるこれらの要因は、個別独立した要因ではなく一連の繋がった要因なのであり、これらのどれか一つでも上手く出来なければ「成功」とはならないのだ。
フジテレビがこの大会から採用したIce Scope(略記/I-Scope、愛称/アイスコープ)はジャンプの「飛距離」「高さ」「着氷速度」を計測して映像化する優れたものであるが、できればこれに「進入速度」も加えていただきたい。
最初の失敗成功の要因である「進入速度」が計測できれば、3Aや4回転の各種ジャンプの失敗要因の分析に大いに役に立つであろう。
失敗を、糧としてこそ成功がある。
がんばれ、紀平梨花! 】
ほとんどの男子選手がミスが少なく3Aをやっている
体脂肪率も男子アスリート並みの体なのに、紀平が男子選手と比べそれほど負けているとは思えない
失敗の原因が高さ不足とするならこれから紀平は何を習得しなければいけない?
大変よく分かりました。しかし、シーズンを振り返ると、ザギトワ、トゥクタミシェワ、紀平の世界の得点トップ3のうち、2人は3Aを跳び、8トリプル構成、ザギトワ選手は7トリプル構成なのに、両者に匹敵する得点は不思議です。技術点では劣るのに、演技構成点の加点が多すぎるように思います。やや不自然に感じてしまいます。(^_^;)
3Aと言えば、今シーズンのジュニアの米国のアリサ・リウは凄いですね。JGPアメリカ大会FSで、女子史上初の同一演技で四回転(4Lz)と3Aを決めました。さらに、先日のポーランド大会では、SPで冒頭 3A+3T を決めました。ジュニアは単独の2Aが必須なのでコンビネーションで使うとはビックリです。ただ、最後の3Loが二回転になるミスがありましたので、SP四位でした。まあ、FSで4Lzと3Aを2本決めて逆転優勝しました。FSジャンプ構成は、
3A+2T 4Lz 3A 3Lo 3Lz+3T 3Lz+1Eu+3S 3F
かなり強力です。なんでも、シニア仕様にすると、4Lzを2本構成にするそうです。北京五輪シーズンにはどんな構成に進化してくるのか、楽しみでもあります。(^▽^)
今、シニアのチャレンジャーシリーズやジュニアGPシリーズが開催中ですが、3Aを入れている選手のSPジャンプ構成を紹介します。
紀平梨花 3A 3F+3T 3Lo
ユ・ヨン(韓国) 3A 3Lz+3T 3F
トゥクタミシェワ(ロシア) 3A 3F+3T 3Lz
アリサ・リウ(米国) 3A+3T 2A 3Lo
アリサはジュニアですので、2A必須のためコンビネーションジャンプでの使用になります。ジャンプ失敗しなかった場合の予定構成ですが、皆さん、それぞれ個性がありますね。上記の選手以外にも、今シーズン中には、3Aを投入してくる予定の選手もおられるみたいですので楽しみですね。!(^^)!
他チャンネルの動画コメント欄にも書いていたけど、女子シングルの大会結果(国名のみ)と思うことを気の向くままに書いてみたいと思います。やはり、日本の女子ジュニアが心配なので、主にジュニアに触れたいと思います。興味の対象はやはり女の子ちゃん達だから、女子優先、男子は興味なし。結論からひと言。韓国に比べ日本の方がヤバい。
2018-2019シーズンを例に挙げると、2018年ジュニアGPFは、ロシア5人、韓国1人でした。日本のジュニアは誰もファイナルに出場できませんでした。
JGPシリーズでも日本選手で獲得ポイントが一番高い選手の上に韓国選手が二人いる。全体の中での上位の選手五人の順位だけ紹介します。20位以上のみ。
⑤韓 ⑧韓 ⑨日 ⑩韓 ⑪韓 ⑫日 ⑬日 ⑭日 ⑮日 ⑳韓
雰囲気として韓国の後塵を拝していると言えるね。
次は、<2019ジュニアワールド>の主な順位と国名だけ紹介しよう。
①ロシア ②ロシア ③米国 ④ロシア ⑤日本 ⑥韓国 ⑦米国 ⑧韓国 ⑨日本 ⑩カナダ ⑪ジョージア ⑫日本
この5位はシニアの白岩選手です。次のシーズンの出場2枠が確保できました。もし、ジュニア勢だけだったら、ヤバかったよ。
シニアの白岩選手の派遣に、ジュニア選手の出場機会を奪ったなどという現実を知らないファンの声を見かけました。今まで出場枠3枠をタダでもらっていたと思っていたのでしょうかね。それとも、日本の実力を過信し現実を見ていなかったのでしょう。今シーズンもシニアの力を借りなければ太刀打ちできないでしょう。
さて、これまでの<女子ジュニアGPF>の出場選手の推移を国別で紹介すると、
2015年ロシア3人 日本3人
2016年ロシア3人 日本3人
2017年ロシア5人 日本1人(紀平梨花)
2018年ロシア5人 韓国1人(キム・イェリム)
現在までのJGPシリーズの推移を見ると、今年も日本選手のファイナル出場はダメみたいな雰囲気です。(^▽^;)
シニアのチャレンジャーシリーズ五戦が終了しました。女子シングルのみ各大会ごとの国別の順位を紹介しましょう。上位10位まで。日時は日本時間。
<オータムクラシック(9月12日~14日)>
①日本 ②ロシア ③韓国 ④米国 ⑤オーストラリア ⑥スイス ⑦フランス ⑧カナダ ⑨英国 ⑩メキシコ
<ロンバルディア杯(9月13日~15日)>
①ロシア ②ロシア ③韓国 ④韓国 ⑤米国 ⑥ロシア ⑦イタリア ⑧日本 ⑨フィンランド ⑩スペイン
<USインターナショナル(9月19日~22日)>
①日本 ②韓国 ③米国 ④米国 ⑤メキシコ ⑥カナダ ⑦カナダ ⑧イスラエル ⑨台湾 ⑩香港
<ネペラメモリアル(9月20日~22日)>
①ロシア ②日本 ③韓国 ④イタリア ⑤アゼルバイジャン ⑥日本 ⑦ロシア ⑧ハンガリー ⑨ロシア ⑩イタリア
<ネーベルホルン杯(9月25日~28日)>
①米国 ②韓国 ③ドイツ ④ブルガリア ⑤日本 ⑥エストニア ⑦韓国 ⑧スウェーデン ⑨オーストリア ⑩ ドイツ
以上ですが、まだ本番に向けて調整中で本調子ではない選手もあると思いますし、有力選手が必ずしも出場しているわけではありません。ロシアは出場すれば確実に表彰台に立ちますし、韓国は優勝こそありませんが、五試合すべて表彰台に立ちました。日本は優勝者はありますが、出場者がいながら表彰台に立つことが出来ない試合もありました。
韓国はユ・ヨンのように一人で二試合の表彰台に立つ選手もありましたが、4人の選手が表彰台に立ったことは驚くべきことです。選手層の厚みが増しつつあるように思います。
日本はトップ三人だけが突出しており、それに続くレベルの選手が不足しているような感じを受けます。ジュニアを見ていると有力選手のシニアデビューは期待できません。(^▽^;)