現行のオメガ『スピードマスター プロフェッショナル』は、手巻き、ステンレススティールケース、42mm径で111万1000円。もっとも信頼性の高い高級時計のひとつである
さまざまな分野で活躍するオメガウォッチ
多くの感動を呼び、先日閉幕したミラノ・コルティナ冬季オリンピック。大会を通じてオフィシャルタイムキーパーであるオメガのロゴは目についたのだが、もはやオリンピックにおいては欠かせない存在。1932年のロサンゼルスオリンピックから、ほとんどの大会でその役割を担ってきたので、当然のことではあるが。
他にも映画007シリーズの『シーマスター』など、さまざまな分野で活躍を見せるオメガだが、その実力を決定づけたのは、やはりNASAによる有人宇宙飛行計画で『スピードマスター』が正式採用されたことだろう。
1962年、人類初の地球周回軌道飛行という歴史的偉業を成し遂げたマーキュリー計画 を機に、NASAは宇宙飛行士用の腕時計の正式な選定プロセスを開始した。1964年、NASAは有人宇宙飛行計画に使用する腕時計の厳格な選定テストを実施することを決定。オメガを含む4社がNASAのリクエストに応じ、各社のクロノグラフが過酷なテストに挑んだのである。
これらの時計には、宇宙空間で遭遇する極限状況を想定した一連の過酷な試験にかけられ、高温、低温、湿度、気圧、耐衝撃性、加速度、振動など、11項目にわたる厳しいテストが実施された。それは過酷なもので、温度テストでは華氏0度(摂氏マイナス18度)から200度(約93度)までの激しい温度変化 の中に置かれ、衝撃テストでは40Gというとてつもない負荷をかけられている。
すべての有人宇宙飛行計画での使用
そのテストで唯一生き残ったのが、オメガ『スピードマスター』だったのだ。 つまり、当時、世界で1番強い腕時計ということになる。そして1965年3月1日、NASAは『スピードマスター』を公式に認定し、「操作性に優れ、高い信頼性を持つ唯一の腕時計」として、すべての有人宇宙飛行計画での使用を承認したのである。
そして4年後の1969年7月21日、アポロ11号に乗船したニール・アームストロングとバズ・オルドリンが、『スピードマスター』を着用して月面に降り立つという歴史的瞬間に立ち会うことになる。その後この腕時計は、「ムーンウォッチ」という唯一無二の称号を得ることになったのだ。
NASAが過酷なテストを課してまで選んだ『スピードマスター』が本領を発揮したのが、1970年4月11日にケネディ宇宙センターから打ち上げられたNASAによる3回目の月面着陸計画、アポロ13号のときである。その模様は 1995年公開の大ヒット映画『アポロ13』に描かれている。
ジェームズ・ラヴェル船長以下3名の乗務員の腕には『スピードマスター』が装着されていた
月面着陸を目指し打ち上げられたアポロ13号だが、地球から約33万km離れた地点で、支援船の第2酸素タンクが爆発し、支援船の外壁や内部機器が損傷。これにより2つあった酸素タンクが両方とも使用不能、燃料電池や電力供給ラインも損傷したことで、司令船の生命維持システムが使えなくなったため、月面着陸を断念した。しかも、狭く寒い船内で、限られた酸素と水、そして二酸化炭素濃度の上昇という困難な状況に直面したのだ。
生還を決めた正確な14秒
無事に地球へ帰還するにはアポロ13号船体のロケット・エンジンを再度噴射させ、軌道修正を行う必要があった。地上のNASA管制官と宇宙飛行士らがシミュレーターを駆使して得られた大気圏へ再突入のために不可欠な制御燃焼は“14秒”。しかも決められたタイミングで、正確な方向で行われなければならないということだった。
電力をセーブするためシャットダウンしたシステムには、ナビゲーションシステムやクロックシステムも含まれていた。さらに船外に浮遊する機体の粉塵に視界を遮られたことで、視認しやすい地球と太陽の位置を頼りに噴射を行わざるを得なくなっていた。乗組員3名は役割りを分担。ケビン・ベーコン扮するスワイガートが腕元のスピードマスターのクロノグラフを使って時間を計り、船長ラベル(トム・ハンクス)とヘイズ(ビル・パクストン)が操縦やエンジンの噴射にあたることになった。
アポロ13号は飛び立って7日目の1970年4月17日に、無事南太平洋に着水。生還した。
『スピードマスター』が、NASAの過酷なテストに耐え抜いた威力を発揮し、その14秒を正確に計り切ることで帰還への道筋をつかんだのである。その後、乗組員全員が帰還したことから、アポロ13号は「成功した失敗」と言われている。
この宇宙飛行に携行されたムーンウォッチは、手巻きの『スピードマスター プロフェッショナル』であり、現在も高い人気を誇っている。
『スピードマスター プロフェッショナル』の裏蓋には「FLIGHT-QUALIFIED BY NASA IN 1965 FOR ALL MANNED SPACE MISSIONS」「THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON」という文字が刻まれている
