©『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)登壇者:岩崎裕介監督
2022年に設立され、設立からわずか数年で、ロッテルダム国際映画祭やクレルモン=フェラン国際短編映画祭、サンフランシスコ国際映画祭をはじめ、10以上の国際映画祭に選出される作品を次々と生み出してきた国内外で高い評価を受ける映画レーベル「NOTHING NEW」。その実写長編第1作となる映画『チルド』が、第76回ベルリン国際映画祭フォーラム部門への正式出品された。本作はコンビニを舞台としたホラー作品で、主演には『寄生獣』や『爆弾』など数々の話題作に出演し、高い演技力が評価される染谷将太。さらに『寝ても覚めても』や「極悪女王」などに出演し、国内外で注目を集める唐田えりか、そして『古畑任三郎』シリーズをはじめ幅広い作品で活躍する西村まさ彦をキャストに迎え、2026年に劇場公開することも決定している。
監督は、63rd ACC CREATIVITY AWARDS フィルム部門にて、自身が監督を務めたCMがグランプリを受賞するなど、作家・演出家としても高い評価を受ける岩崎裕介。会話劇を軸に、静的で異物感のある演出を持ち味とし、2024年に発表した脚本・監督作である短編『VOID』はロッテルダム国際映画祭、サンフランシスコ国際映画祭など数々の映画祭に入選し、注目を集めた。
この度、日本時間2月14日(土)、第76回ベルリン国際映画祭にて本作のワールドプレミアが行われ、舞台挨拶には監督の岩崎裕介が登壇。イベントでは創作の原点や演出方法などについて語った。

映画『チルド』(英題:AnyMart)がベルリン映画祭で上映され、日常会話への笑いと恐怖演出への驚きのリアクションが頻発していた。そして満席の観客を前に上映後の舞台挨拶が行われた。エンドロールが終わった瞬間、会場には大きな拍手が沸き起こり、その余韻がしばらく鳴り止まぬ中で監督が登壇。まずはドイツ語で観客に向けて感謝の言葉を述べ、続けて英語でも「この作品について皆さんの前で話せる機会を得られてとても嬉しい」と挨拶した。

本作は、コンビニエンスストアという極めて日常的な空間を舞台に、秩序と暴力、生と死、そして人間の内面に潜む矛盾を描き出す意欲作。まず最初に物語の中心にいるコンビニのオーナー像について問われると、監督は「実際に父がコンビニのオーナーで、ファッションや口癖などは、ほとんど自分の父そのものでいろんなところをインスピレーションとして取り入れました」と明かし、一方で「物語はあくまでフィクションで、実際に劇中のようなことはしていません」とユーモアを交えて付け加え、会場からは笑いが起こった。
また本作に色濃く漂う“幽霊”のモチーフについても質問が及んだ。監督は「もともとは純粋なホラー映画として構想していた」と明かし、「生きているのか死んでいるのか分からない人間がひしめいている場所、それがコンビニだと思った」と語った。また肉体は生きていても精神は死んでいる、あるいは生者と死者の境界が曖昧になっていく世界観を出発点にしていたという。コンビニという24時間営業の空間を“生と死が交錯するクロスロード”と捉え、制作過程でコンビニという空間や人間のディテールを掘り下げるうちに、当初は前面に出ていたゴースト要素を抑え、よりヒューマンな物語へと変化していったという。主人公・堺という名前についても、「境(さかい)=生と死の境界を意味する存在」と説明し、生きながらに死んでいる意思を剥奪された現代の若者を比喩する意味も込めたと語った。

そして脚本段階では、登場人物たちの日常会話のディテールを徹底的に詰めていく中で、「いらっしゃいませ、ありがとうございました」といったコンビニ特有の定型文の反復そのものが、どこか滑稽に感じ、そのズレが恐怖と笑いを同時に生む独特のトーンを形成した。編集段階では、恐怖として設計した場面が思いがけずユーモラスに見えたり、その逆が起きたりもしたが、「ホラーとコメディが混ざり合っている状態そのものが、この映画のオリジナリティだと気づいた」と振り返った。
演出面では、基本的にフィックスの引き画を多用するスタイルを採用したと話す。無機質で感情の起伏が見えにくいコンビニ空間を強調するため、冒頭ではあえて冗長ともいえる長回しを配置し、観客に堺の単調な日常を伝える構造にしたという。一方で物語が進み、人物同士の関係性に変化が生まれるにつれてカメラは徐々に寄りへと移行する。「人と人の心が通い始めるタイミングで、カメラと対象の距離も近づいていく」と語り、視覚的な距離の変化によって心理の揺らぎを表現したことを明かした。
ホラー演出についても「映画館を出た後にも残る恐怖」を目指したという。静かな空気の中に、あえて不釣り合いな暴力的イメージをノイズとして差し込むことで、観客の感覚を揺さぶる。そんな演出意図についても丁寧に説明された。現在はCMディレクターとしても活躍する監督だが、「映画ではCMで描けないものを描きたかった」と語り、怪談収集が趣味であることも明かした。「やるならやはりホラー。でもなぜかコメディに蛇行してしまう。それはカルマかもしれない」と笑顔で締めくくり、会場には再び大きな拍手が響いた。観客からのQ&Aは途切れず、関係者からも「上映からQ&Aまで異様な熱量だった」と語られた。

コンビニという誰もが知る日常の空間に潜む不穏さと滑稽さ、人間の矛盾と境界の揺らぎを描いた『チルド』(英題:AnyMart)は、言語や文化を越えて強い印象を残し、鳴り止まぬ拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。


<ベルリン国際映画祭 フォーラム部門について>
ベルリン国際映画祭(Berlinale)は、カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭のひとつとして知られ、世界中の新作が集まる国際的な映画の最前線。批評家や映画関係者だけでなく、多くの観客が参加する“観客に開かれた映画祭”としても高い注目を集めている。
その中でもフォーラム部門は、世界中の新作の中でも作家性と挑戦性を重視し、「映画表現の最前線」を提示するセクションとして知られている。近年も日本からの選出が続き、三宅 唱監督『夜明けのすべて』、想田和弘監督『五香宮の猫』といった作品がフォーラム部門に正式出品されるなど、国際映画界の審美眼の中で日本映画が紹介される重要な舞台となっている。またフォーラム部門では、革新的な作品を讃えるカリガリ賞(Caligari Film Award)など、独自の評価軸による賞も設けられている。
©『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)キャスト&スタッフ
出演:染谷将太 唐田えりか 西村まさ彦
監督・脚本:岩崎裕介
プロデューサー:林健太郎 下條友里 井上 淳
企画・プロデュース:NOTHING NEW
制作プロダクション:東北新社
公開表記
配給:NOTHING NEW
2026年公開
(オフィシャル素材提供)
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