多層的なテーマをなめらかに描く、カンヌグランプリ受賞作
姉ノーラとはタイプの異なる妹アグネス役に抜擢されたノルウェーの女優、インガ・イブスドッテル・リッレオースの名演にも、大きな注目が集まっている。また劇中にはNetflixが実名で登場。アート映画が直面している業界事情も生々しく反映した内容だ。
北欧の俊英、ヨアキム・トリアー監督の卓越したバランス感覚が研ぎ澄まされた傑作。俳優の娘・ノーラの前に、家族を捨てて長らく音信不通だった映画監督の父・グスタヴが現れ、新作映画への主演を依頼するが……。
133分の上映時間に多層的な主題が見事に編み込まれ、我々は複数のストーリーラインを自然に受け取ることができる。まず本作は「家族の物語」だ。家は生き物のように家族の歴史を記憶し、それを人生や芸術の問題へと巧みに接続していく。
配役のアンサンブルも素晴らしい。『わたしは最悪。』に続いてトリアー作品の主演を務めるレナーテ・レインスヴェ演じるノーラは、イプセンの戯曲『人形の家』を想起させる名を持ち、女性の回復を描く物語の中心に立つ。彼女の傷は父との関係に根ざし、家族と芸術の課題が重なる。配信時代の映画産業を背景に、芸術が人生を救うのかというテーマが物語を貫く。
ステラン・スカルスガルドが演じる父親の人物像は、北欧映画の巨匠イングマール・ベルイマンを想起させる。『仮面/ペルソナ』を思わせる演出が随所に見られ、顔が重なり合うショットなどベルイマン的なモチーフを援用。そこに和解や融和へと向かう現代的な視点を導入し、優しく昇華した点が興味深い。
物語の核には「父と娘」の関係があるが、妹アグネスは戦争体験を負った祖母の人生に接続する役割を担う。エル・ファニング演じるスター俳優レイチェルは、ノーラの物語を外側から映す鏡として二重性を強調する。
家族、芸術、ジェンダー、歴史への眼差しがなめらかに統合し、ラビ・シフレの名曲「Cannock Chase」など選曲も含め、細部に至るまで洗練された仕上がりだ。第78回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞ほか、今後の賞レースの目玉の一本でもある。
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『センチメンタル・バリュー』
監督/ヨアキム・トリアー
出演/レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルドほか
2025年 ノルウェー映画 2時間13分 2/20よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画②『ブゴニア』
韓国発カルト映画をリメイク!エマ・ストーン主演の異色ミステリー
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『哀れなるものたち』や『憐れみの3章』のヨルゴス・ランティモス監督が、エマ・ストーン、ジェシー・プレモンスらと再び組んだ最新作。極端な陰謀論に取り憑かれた若者たちが、巨大企業の女性CEOを“地球を滅ぼす宇宙人”だと信じ込んで誘拐する。韓国のカルト映画『地球を守れ!』を大胆に再構築。現代社会の偏執を鋭く風刺しつつ、観客をブラックな笑いと不安の狭間へと誘う挑発的な異色ミステリーだ。アリ・アスターが製作で参加。
『ブゴニア』
監督/ヨルゴス・ランティモス
出演/エマ・ストーン、ジェシー・プレモンスほか
2025年 アイルランド・イギリス・カナダ・韓国・アメリカ合作映画 1時間58分 2/13よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画③『レンタル・ファミリー』
オスカー俳優が東京を舞台に、“レンタル父親”を熱演!
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日米合作の話題作。『37セカンズ』のHIKARI監督が、『ザ・ホエール』でオスカーに輝いたハリウッド俳優、ブレンダン・フレイザーを主演に迎えたヒューマンドラマ。物語の舞台は東京。役者として行き詰まったアメリカ人のフィリップが、依頼者の家族役を演じる“レンタル家族”の仕事を通して自らを見つめ直す。日本語もこなすフレイザーのキュートな姿は癒やされ度満点。平岳大や柄本明をはじめ、日本の人気俳優も多数出演している。
『レンタル・ファミリー』
監督/HIKARI
出演/ブレンダン・フレイザー、平 岳大ほか
2025年 アメリカ・日本合作映画 1時間50 分 2/27より全国の劇場で公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります

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