御神渡り—かつて真冬の諏訪湖に毎年現れた神の渡り道。
約六百年、八剱神社で書き継がれてきた御神渡りの記録「御渡帳」が
今を生きる私たちに語り掛けるメッセージとは?
 

 


 
かつて、冬の諏訪湖には神が通った。
 
零下十度の静寂を切り裂く、氷の爆裂音。せりあがる巨大な氷の山脈。人びとはそれを「御神渡り(おみわたり)」と呼び、畏怖と共に迎えてきた。
 
しかし今、湖は沈黙を続けている。

 

※正式には御渡り(みわたり)ですが、地域の人びとは親しみを込めて御神渡りと呼ぶことが多いです。  

 

 

大正2年(1913年)2月の御神渡り。氷の隆起は成人男性の背丈ほど。地域の人によれば2メートルに達したものもあるそう。(写真 八剱神社収蔵)

 

 

 


 
諏訪湖近くの八剱神社に代々伝わる「御渡帳(みわたりちょう)」。
そこには、室町時代から現在まで、約六世紀にわたる冬の記憶が書き継がれている。
 
これは、人類が手にした「世界でも稀な気候の長期記録※」として、今や世界中の科学者から注目される至宝である。
このドキュメンタリーでは、知られざる「御渡帳」を徹底的に分析する。

 

帳面を繰れば(諏訪地域で暮らした)我々の先祖たちの息遣いが聞こえる。湖面に走った御神渡りの亀裂から吉凶を占い、豊作を祈る。そしてその傍らには、干ばつや洪水による凄惨な飢餓や死者たちの記録が、逃れられない現実として克明に刻まれている。
 
それは、苦難に翻弄されながらも気候に適応し、生き抜こうとした日本人の祈りと願いの記憶そのものだ。だからこそ、どんなに世が乱れようとも、人びとは冬の夜明けに湖畔に立ち、筆を執り続けてきた。
 
明治維新の混乱の中で、この記録は一度途絶えかけた。これを繋ぎとめたのは世界的な気象学者・藤原咲平博士だった。
 
博士はこの記録を「世界に比類なき貴重な文書」とみとめ、みずから欠損データを収集して御渡帳の記録を継続させた。この科学者の情熱が今の氏子らに引き継がれ、現在は世界の気候変動研究に貢献している。

 

※石黒直子. (2001). 諏訪湖の御神渡り記録に関する気候復元資料としての均質性. 地理学評論 Ser. A, 74(7), 415–423. https://doi.org/10.4157/grj1984a.74.7_415

明治24年(1891年)の御渡帳。写真の前半には、諏訪湖の氷が盛り上がる「御神渡り」の走った方角が記録されています。後半には、江戸時代からの慣習を引き継ぎ、その年の世相が詳しく記されています。明治24年の4月から5月にかけては深刻な干ばつに見舞われ、川に見張り番を置くほど水不足が続きました。しかし、6月4日にようやく雨が降り、田んぼに水が満ちたことで、ようやく人々は飢饉による死の恐怖から解放されました。 また、同年10月28日に発生した「濃尾地震(美濃尾張の大地震)」についても触れられています。他地域の情報ではあるものの、そこでは家屋の倒壊や多くの死者が出た惨状とともに、周辺地域から義援金が集まったことなどが克明に書き残されています。(写真 八剱神社収蔵)  

 

 

 

 

 

しかし、近年の気候変動は無常だ。
八剱神社の宮司、宮坂清氏の調査によれば、この30年で「明けの海(御神渡りがない年)」が激増した。
かつての冬を知る世代にとって、それは耐え難い喪失かもしれない。

 

宮坂宮司による明けの海の回数調査の結果。1900年代後半からの急増を顕著に示す。

 

 

 

だが、現在の氏子たちはなおも温度計を手に湖へと向かう。
連綿と続く歴史を未来へ繋ぐという決意を胸に・・・

まだ明けやらぬ諏訪湖畔で氷の観察を続ける宮司と氏子が厚さを測るために氷を割る。この氷斧(こおりよき)は先代から受け継がれてきた(写真:依光隆明)。

 

 

 

御神渡りが見られる冬だけが歴史ではない。氷なき冬の沈黙を書き残す、これが新たな伝統になりつつある。

 

「私たちの生きる今は長い歴史の一点でしかない」 宮坂宮司は言う。

 

それを今、記録することこそが「気候変動」という怪物に立ち向かう現代のわたしたちの「戦い」であり、未来に残せる文化遺産そのものだ。
 

  明けの海の年は、氷上神事で使うはずだった注連縄を境内で燃やす。注連縄は氏子衆が自ら作る。燃えさかる炎を前に、氏子衆は何を思うのか。(撮影 福村佳美)

 

 

私たちは、「御渡帳」が持つ膨大な記憶を紐解き、変わりゆく地球と、それでも変わらない日本人の心を捉え・伝えるドキュメンタリーを制作します。

 

今この日本の片隅で起きている大きな変化とそこに刻まれた記憶を映像にし、諏訪地域の人びとはもとより、日本の、そして世界の人びとに対して発信することは、我々の暮らす地球が直面する最大の危機、気候変動への確かな警鐘になるはずです。
 
歴史の証人として、あなたの志をこの映像に刻んでください。

 

長野県諏訪湖の氷の神事「御神渡り」を伝承する八剱神社の宮坂清宮司。 日本の文化は気候によってつくられたと語ります。  

 

 

【御神渡りについてさらに詳しく知りたい方はこちら】

依光隆明 「気候変動の影響か? 諏訪湖の「御神渡り」 7年連続で現れず」  

 

野村知秀 「578年続く宮司の日課「君の名は。」聖地に世界が注目する理由  

 

 


 本企画は、地域の伝承や記憶を記録する調査活動を続けてきた気候と風土研究教育機構と地元有志、メディア経験者で結成した「雪氷文化ネットワーク」が実施します。  
 
雪氷文化ネットワークのメンバーとその決意 
雪氷文化ネットワークは冬の諏訪で結成されました。夜が明けないうちから湖畔に集まって湖を観察し続ける八剱神社の宮司と氏子衆、そして地域の人びと。氷が張っていないと誰の目にも明らかな暖かい朝も、雨が降る日も、彼らは欠かさず湖にやってきます。そこまでして何を伝承しようとしているのか。それが584年ものあいだ世代を超えて受け継がれた地域の歴史だと知った時、私たちは今の伝承者の姿を将来世代に伝えなければならないと強く確信しました。
 

 

雪氷文化ネットワークメンバー

雪氷文化ネットワーク メンバー(左から)

依光 隆明(新聞記者 News Kochi 編集長) 

元朝日新聞諏訪支局長。高知新聞時代の2001年と朝日新聞に移籍後の2012年に新聞協会賞を受賞。2023年末に地元高知でNews Kochiを立ち上げる。

福村佳美(在野研究者、通訳・翻訳業、防災士、)

一般社団法人気候と風土教育研究機構代表理事、地エネと環境の地域デザイン協議会監査。2024年筑波大学大学院博士課程修了、テーマは雪氷文化の気候変動適応の経路。兵庫県環境審議会市民委員。

野村知秀(長野日報記者) 

長野日報本社報道部で御神渡りを含む諏訪湖をテーマに連載多数。地域の人びとに寄り添った取材がモットー。現在は駒ケ根支局勤務。

 

 

(左)宮坂恒太郎・ちとせ(酒ぬのや本金酒造株式会社) 

山と湖、自然に囲まれた、長野県諏訪市。その地で創業270年を迎える酒ぬのや本金酒造(株)の9代目。恒太朗が難病ALSになり、身体が不自由ですが、夫婦で本金の理念である『地域と共に』を胸に諏訪の自然と文化を酒を通じて、次世代に伝えるため日々一緒に走り続けています。

 

(右)宮坂 平馬(丸高蔵の土地建物の活用と管理が主な仕事)八劔神社の古役、諏訪湖クラブ信州ネットSUWA、その他いくつかの任意団体に所属。地域を思い人をつなぐ活動に精力的に取り組む。

 

 

“All-or-Nothing”での挑戦
私たちはこのドキュメンタリー映画を「今を生きるひとりひとりの物語」と捉えています。そのため、十分なご支援が得られない場合はこのドキュメンタリーの計画が未完成だと捉え、プロジェクトを実施しません。私たちがこのドキュメンタリーの意義を確認するためにも、みなさまのご支援をどうかよろしくお願いいたします。    
 
より多くの雪氷文化の記録を目指して 
このプロジェクトでは、長野県諏訪湖の御神渡りを対象に計画しています。 プロジェクト達成後、さらに他県の雪氷文化を記録するために、ネクストゴールを設定する予定です。  
 

 

 

 STAFF  

 

監督 土井康一

1978年、神奈川県横浜市生まれ。自由学園、多摩美術大学卒業。在学中より写真家、映画監督の本橋成一に師事。2009年より桜映画社にディレクターとして勤務。小栗康平監督/オダギリジョー主演『FOUJITA』(2015)の監督助手を経て、伝統工芸、伝統芸能の記録映画を中心にテレビ東京『ガイアの夜明け』『カンブリア宮殿』などのテレビ番組やCM、プロモーションなど、多くの作品を手がける。長編デビュー作となった『よあけの焚き火』では長野県諏訪地方を舞台に実際の狂言師親子を起用し「受け継ぐこと」を宿命として背負った親子の姿から「伝えるとは何か?」という普遍的なテーマを描いた。そのドキュメンタリーとフィクションの間を行き来する演出は国内外で高く評価された。 

 

 
スケジュール 

 

・クラファン実施 2026年2月6日から3月5日まで

・撮影・編集完了 2027年8月

・試写会  2027年12月 

 ※自然現象を相手にするため、スケジュールが前後する可能性がございます。予めご了承ください。

 

 

資金の使途

 

皆様からのご支援は、本ドキュメンタリー映画の制作にかかる費用に活用させていただきます。

1.人件費

2.現場費

3.機材費

4.ロケーションにかかる費用

5.専門家への謝礼  

6.編集などのポストプロダクション費

7.クラウドファンディング手数料など

 

 リターン 

 

ご支援いただいた皆様には感謝を込めて、次のリターンをご用意しました。

■エンドロールにお名前・ロゴを記載します 気候変動で伝承が難しくなりつつある冬の伝統を一緒に未来に残しましょう!

 

このリターンに関する条件の詳細については「リターンに関するご留意事項」(https://readyfor.jp/terms_of_service#appendix)をご確認ください。お名前について、公序良俗に反するもの、政治性・宗教性のあるものその他不適切な表現を含む場合は、ご希望に添えない場合がございます。

 

■オンライン試写 お礼のメールに添えて、期間限定のオンライン試写をご案内します。ご家庭でお楽しみください。

 

■プレミア試写会 作品の完成をみなさまと共有するプレミア試写会を開催します。

 会場は<長野県諏訪市周辺>を予定、交通費・宿泊費は自己負担。開催場所と日時は2027年秋にご案内します。

 

 

   Gallery  

 

写真は昭和53年の御渡り神事の様子。 神事を司る八剱神社では神事の前に3日間精進潔斎を行います。現在の宮司を務める宮坂清氏によると、結氷したばかりの湖の氷はまだ不安定なため、しばらく日数をおいてから氷の上に立つことで安全を守ってきたそうです。(写真 八剱神社収蔵)

 

 

小寒から立春までの毎朝6時。湖畔には八剱神社の宮司と氏子、それを取材するメディアが集まってきます。暖かい日や雨の降る日のように氷が張っていないことが明らかにわかる朝も、彼らは欠かさず諏訪湖の観察を続けるのです(撮影 依光隆明)

 

 

冬の諏訪湖の美しさは浮世絵に描かれるほど。図:渓斎英泉《木曽街道六十九次 塩尻峠より諏訪湖を望む》(1835年頃、パブリックドメイン)

 

 

 

※雪氷文化ネットワークの全メンバー及び八剱神社宮司宮坂清様からプロジェクト実施と名称・画像掲載の許諾を取得しております。また、御渡り神事の伝承を担う八剱神社さまには本プロジェクトをご説明の上ご承認、実施の暁には撮影に応じていただけることになっています。

 

 

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