Interview & Text:黒田隆憲
Photo:Yuma Totsuka
ビルボードジャパンが、2025年11月6日に総合書籍チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチした。このチャートは、紙の書籍(書店/EC)と電子書籍の売上、サブスクリプション、図書館での貸し出しやSNSでのリアクションなどを合算した日本初の総合ブックチャートだ。
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回は、パフォーマーとしてステージに立ち続ける一方で、書き手としても確かな言葉を積み重ねてきたTHE RAMPAGEの岩谷翔吾が登場。初の書き下ろし小説『選択』では、同級生であり盟友でもある横浜流星とともに「物語を紡ぐ」という新たな表現に挑んだ。読書体験が創作へとつながり、やがてダンスや社会との関わりへと広がっていく。本を読み、言葉を選び、身体で表現する。そのすべてを地続きのものとして捉える岩谷翔吾の現在地に迫る。
以前よりも、言葉に対して真摯に向き合うようになった
――まずは、初の書き下ろし小説『選択』について伺いたいです。本作は横浜流星さんが原案を考え、執筆を岩谷さんが担当されたそうですが、お二人はどのような経緯で交流を深め、一緒に小説を作ることになったのでしょうか。
岩谷:流星とは高校の同級生で、もう15年近い付き合いになります。出会った当時、僕はまだTHE RAMPAGEの一員ではなかったですし、彼も役者として今ほど注目されていたわけではありません。そういう時期から一緒に過ごしてきた親友なんですよね。お互いにまったく違うジャンルの世界へ進みましたが、だからこそ刺激を受け合うことも多くて。「こういうことができたら面白いよね」とか、「将来こんなことをやってみたいね」といった話を昔からよくしていました。そんな中、あるとき流星から小説の構想を聞いたんです。ちょうどその頃、僕自身も創作やクリエイティブに対して意欲が高まっていた時期だったこともあり、「じゃあ一緒にやってみようか」と。それが、この『選択』でした。
――横浜さんは俳優、岩谷さんはアーティストという立場で「小説」というジャンルに挑戦しているのが興味深いです。
岩谷:自分の中では、そこまでかけ離れた感覚は正直なかったんですよ。ダンサーという、言葉を直接扱う表現ではない分、外から見るとギャップは大きいと思いますが、一貫して「自分自身がワクワクするかどうか」を大事にしてきました。この小説も、流星と友人として喋っている延長線上にあったものが、たまたま「文字」という形になった、という感覚に近くて。もちろん昔から文字を書くことは好きで、「書いてみたい」という気持ちはずっとありました。一方で流星も、これは彼自身がよくインタビューで話していますが、「プロデュース業に挑戦してみたい」「自分がやってきたことを後輩たちに還元したい」という思いを持っていました。
こんなふうに二人で手を組んで生み出した作品だからこそ、きっと荒削りな部分もあると思います。でも、その“粗さ”が削ぎ落とされなかったからこそ、型にもはまらず、自分たちの感覚を信じ切ったことで、むしろ研ぎ澄まされた“尖り”として結実しました。結果として、唯一無二の作品になったと胸を張って言える気がします。
――ひとつの作品を書き上げるのは、やはり大変だったのではないでしょうか。
岩谷:いちばん大変だったのは、最後に「丸」をつける作業でした。書き出し自体は勢いでいけたとしても、それを「人の手に渡るクオリティ」で最後まできちんと完結させるのは、想像以上に難しかったです。正直かなり時間もかかりましたね。もしダンスやアーティストの話だったら、自分が見てきたこと、感じてきたことを書けばいいので、もう少しスムーズだったと思います。でも、いわゆる「アイドル本」として見られたくないという思いもあって、ジャンルや表現的にあえて踏み込んだ、攻めた部分もありました。これまで読んできた本の影響も大きいですし、小説を書くにあたって下調べや取材を重ねたことも確実に反映されています。僕も流星も、好きな映画や惹かれる世界観が少しずつ似てきていて、「あの映画のあの感じ」「あの俳優のあの芝居のニュアンス」などとリファレンスを共有できていたことも、大きかったですね。

――小説を書き上げたことで、ご自身のダンスや表現方法に何か影響はありましたか?
岩谷:以前よりも、言葉に対して真摯に向き合うようになったと思います。言葉は誰でも使えるものですが、一つ間違えれば人を傷つけてしまうこともあるし、使い方ひとつでその人の品格のようなものも滲み出る。そのことを、あらためて強く意識するようになりました。だからこそ、ファンの皆さんに向けて使う言葉や投げかける言葉一つひとつに、以前よりも責任を感じています。自分がどう表現するか、どう伝えるかという意識は、ダンスやステージ上での表現にも確実に影響していると思います。
――読書情報誌『青春と読書』(集英社)で、ブックレビュー連載「岩谷文庫」を担当されていたこともあります。
岩谷:連載をしたことで、編集部の方々からおすすめの本を教えていただく機会が増えました。自分で選ぶと、どうしても好みが偏ってしまいがち。短期の企画であれば、自分の色を前面に出すのもいいと思うのですが、連載となると、やっぱり幅広くいろいろな作品を紹介したいという気持ちがあって。スタッフの皆さんが勧めてくださる本は、できるだけ読むようにしました。
そのおかげで、自分の読書体験の基盤が少しずつ整ってきた感覚がありますね。自分だけで選んでいると、どうしても暗めというか鬱々とした作品に寄りがちで(笑)。読む側のことを考えると、そればかりではきついですよね。自分の世界を広げてくれたという意味でも、「岩谷文庫」を一緒に作ってきた集英社のスタッフの皆さんには、本当に感謝しています。
――子どもの頃から本はよく読んでいたのですか?
岩谷:幼少期から本は身近にありましたが、今のようにがっつり読むタイプではなかったですね。でも大人になるにつれて世の中がどんどん便利になり、情報も過剰なくらい溢れる中、かえってそこから少し距離を取りたくなったというか。SNSに流れてくる言葉を大量に摂取するより、きちんと選ばれた「品のある言葉」を自分の中に入れたいという意識が強くなりました。それが、読書に向かう大きなきっかけのひとつです。
それに、子どもの頃から勉強が好きだったんですよ。文字を読むことや、机に座ってじっと考えることがあまり苦じゃなかった。だからこそ、小説を書くこともできたんだと思います。
――川村壱馬さんに勧められた小説『ルビンの壺が割れた』(著:宿野かほる)を読んで、本格的に読書にハマったそうですね。
岩谷:はい。『ルビンの壺が割れた』は、確かメールのやり取りのような形式で物語が進んでいく作品で、それがすごく新鮮だったんです。本って、どうしても少し構えてしまうイメージがあったので、「こんなに今っぽいというか、自分たちの世代の日常に近い感覚で読めるものなんだ」と感じられたことが、大きなきっかけでした。
次に読んだのが、吉田修一さんの『怒り』。上下巻の作品なんですけど、それを最後まで読み切れたことで、「あ、意外といけるな」と自信がついて。そこから一気に、いろいろな本を読むようになりました。
――これまでの読書体験の中で、特にお気に入りの一冊を挙げるとしたら、どの作品になりますか。
岩谷:『汝、星のごとく』(著:凪良ゆう)ですね。近年読んだ中でも、特に大切な一冊になりました。凪良さんの作品なので、大人の恋愛を描いた物語なのかなと思って手に取ったのですが、もちろん恋愛が軸にありつつ、それ以上に人生がしっかり描かれている作品だと感じました。「大人の女性って、きっとこういう心情なんだろうな」と学ぶことも多かったですし、同時に男性の描かれ方にも強く共感する部分があって。作中では漫画家として成功していく男性像が描かれているのですが、表現者として自分と重なるところが多く、悩み方や葛藤のニュアンスがとても近く感じられました。
――岩谷さんの人生観や価値観に、より大きな影響を与えた作家や作品というと?
岩谷:三浦しをんさんの作品は、ほぼ全部読んでいます。彼女が描く世界そのものが、ずっと自分のなかに残っている感覚がありますね。どれだけハードな状況や厳しい言葉が描かれていても、三浦さんの文章には必ずどこかに優しさがある。そうした文章に触れ続けてきたこと自体が、気づかないうちに自分の価値観や、言葉の感覚に影響を与えている気がします。
――今回、岩谷さんおすすめの本を何冊かお持ちいただきました。
岩谷:まずは石井哲代さんの『102歳、ひとり暮らし。』というエッセイ集。シリーズになっていて、もう一冊も買いましたし、そちらはメンバーにあげたくらい気に入っています。内容としては、102歳のおばあちゃんがひとり暮らしをしながら、その日々を日記のように綴っているだけなんですよ。「今日は草むしりをした」とか、「この具材でお味噌汁を作りました」とか、本当に淡々としている。でも、それがものすごく可愛らしくて、読んでいると不思議と心が軽くなるんですよね。いわゆる格言が書いてあるわけでもないし、「いい言葉を言おう」として書かれているわけでもない。でも、その自然体な文章と、おばあちゃん自身の可愛らしさに触れていると、読後に「ちょっと頑張ろうかな」と思える。写真も載っていて、絵日記のような感覚で読めるのも魅力ですね。
それから、韓国の詩人・ナ・テジュさんの『花を見るように君を見る』もおすすめです。悲しいときにはそっと寄り添ってくれるし、楽しいときには「そうだよな」と背中を押してくれる、不思議な読書体験でした。一つひとつの言葉に色気があるというか、「この人はどんな人生を生きてきたんだろう」と自然と興味が湧いてくるんですよね。3行くらいで完結する詩も多いので、本が苦手な人でも読みやすいと思います。

――『傲慢と善良』(著:辻村深月)は、100万部を突破したベストセラー小説です。
岩谷:実はずっと積読していたのですが、最近ようやく読んで、すごく面白かったです。というか、「自分も、こういう内容が刺さる年齢になったんだな」というのが、ひとつの発見でした。たぶん20代前半で読んでいたら、ここまで感じ方は違わなかったと思いますし、これから年齢を重ねたら、また別の受け取り方をするんだろうな、とも思いました。
――『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』は、他とはまた雰囲気の違う一冊ですね。
岩谷:吉田松陰の言葉を、現代向けに編集・編纂した本です。Netflixシリーズ『イクサガミ』を観たことをきっかけに、明治維新前後の時代に興味が湧いて、「どんな時代だったんだろう」と調べていくなかで、たどり着いたのが吉田松陰でした。吉田松陰は、松下村塾の塾長として伊藤博文など多くの人物を育てていますよね。30歳手前という若さで亡くなっていますが、その短い人生の中で、なぜこれほど多くの弟子を育てることができたのか。その理由が、言葉を通して伝わってくるんです。100年以上前の言葉なのに、令和の時代に生きる自分が読んでも響く。その事実自体が、とても考えさせられました。

