ついに実現!ヤープ・ヴァン・ズウェーデンが“勝負曲”を携えN響初登場[Aプログラム]には、ヤープ・ヴァン・ズウェーデンが初登場。最近まで名門ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を務めていた注目の指揮者である。香港やソウル、台湾のオーケストラでポストを持つなど、以前からアジアへの関心も強く、その流れから、N響との共演が実現することになった。
今回のプログラムは、彼が各地のオーケストラと繰り返し演奏してきた、得意中の得意と言ってよいものばかりで、初共演にかける気合いが読み取れる。
中でもバルトーク《管弦楽のための協奏曲》は、ベルリン・フィルへのデビュー公演をはじめ、シカゴやニューヨークなどでも取り上げた“勝負曲”である。
ニューヨーク・フィルとの演奏が少し前にNHKで放送されたが、民俗音楽的な土臭さとは逆の、クリアで精緻な作りが印象に残った。このような方向性は、N響が得意とするところでもある。
元々、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターなので、オーケストラ・プレイヤーの心理はよくわかっている。各セクションのソロの持ち味も、スムーズに引き出してくれることだろう。

モーツァルト《ピアノ協奏曲第17番》を弾くコンラッド・タオは、1994年生まれの若手。3歳でピアノと作曲を始め、8歳でオーケストラと共演したという早熟の天才である。ヴァン・ズヴェーデンは、彼を「真の独立精神を持つアーティスト」と絶賛し、たびたびソリストに起用している。確かに、軽快な指使いで、音楽を前へ前へと進めるタオの演奏スタイルは、マエストロの美学に共鳴するところがありそうだ。
聴きどころの1つは、作曲家でもあるタオのカデンツァである。「モーツァルトが現代に生きていたら」と思わせるような、遊び心に満ちた即興が繰り広げられるのではないか。
 
香港フィルと《リング》全曲を録音するなど、ワーグナーもヴァン・ズヴェーデンの重要なレパートリーである。《「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲》は、ちょうど100年前、N響の前身である新交響楽団が「第1回研究発表演奏会」で演奏した。100周年を飾るという意味合いも込めて、この壮麗な音楽を冒頭に奏でる。

指揮 : ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ピアノ : コンラッド・タオ

ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 前奏曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第17番 ト長調 K. 453
バルトーク/管弦楽のための協奏曲

フランス音楽のスペシャリスト ドゥネーヴが贈る、夏と海にちなんだプログラム[Bプログラム]の指揮は、セントルイス交響楽団の音楽監督を務めるステファヌ・ドゥネーヴ。フランス音楽のスペシャリストとして知られ、N響には4年ぶりの登場となる。夏と海にちなんだ、季節感のあるプログラムをお届けする。

《夏の牧歌》は、スイスで夏の休暇を取っていたオネゲルが、アルプスの夜明けの情景に感興を覚えて書いた作品。山並みを染め上げる薄明の光のように、ホルンの旋律がゆったりと姿を現し、それに弦や木管が呼応する。まるで自然界の万物が、少しずつ目覚めていくかのようだ。各楽器は互いに呼び交わし、次第に高まりながら、深い余韻を残して虚空へと消えていく。短いながらもイマジネーションに富んだ1曲である。

《夏の夜》は、ベルリオーズが同時代の詩人、ゴーティエの詩につけた連作歌曲集。「夏」というキーワードで前の曲と繋がるが、このタイトルは由来がはっきりせず、歌曲の内容とも直接の関係がない。
ただ、曲集に含まれる6曲は、生の喜び、喪失の悲しみ、そこからの再生という一連のサイクルに沿って配列されていて、“移りゆく時間”が、オネゲルとの共通項になっている。
愛と孤独、夢と現実が交錯するロマン主義のエッセンスを聴かせるのは、世界各地のオペラハウスで活躍するメゾ・ソプラノ、ガエル・アルケーズ。

《夏の夜》の第3曲〈入り江のほとり〉は、恋人を失って海に漕ぎ行かねばならない運命への嘆き、そして第6曲〈未知の島〉は、愛する人を船旅に誘う歌である。
続く《寄港地》で、私たちは本格的な航海に出発する。この曲は、海軍士官だったイベールが、新婚の妻を伴い、地中海沿岸を旅した際の印象を音楽化したものだ。シチリアやチュニジア、バレンシアの、陽光きらめく光景が鮮やかに浮かぶが、イベールが意図したのは、単なる情景描写ではなく、旅を通して生まれる感覚的な喜び、感情の移り変わりを伝えることだった。

音楽家でなければ、船乗りになっていたというドビュッシーにとって、海はインスピレーションの源であり、知らない世界に通じる媒介であった。20世紀初頭に書かれた《交響詩「海」》によって、それ以降の西洋音楽もまた、未開の航路を進むべく、運命づけられることになる。
時間の経過とともに異なる相貌を見せる海、絶えず形を変え続ける波、風のエネルギーが巻き起こす大きなうねり・・・。とどまることなく移りゆく自然の姿は、1曲目の《夏の牧歌》のイメージへと循環していく。

Bプログラム(サントリーホール)
2026年6月4日(木)7:00pm
2026年6月5日(金)7:00pm
指揮 : ステファヌ・ドゥネーヴ
メゾ・ソプラノ : ガエル・アルケーズ

オネゲル/交響詩「夏の牧歌」
ベルリオーズ/歌曲集「夏の夜」 作品7
イベール/寄港地
ドビュッシー/交響詩「海」

若きトップ・アーティストHIMARIによるシベリウス《ヴァイオリン協奏曲》[Cプログラム]には、話題沸騰のHIMARIが登場。N響との初共演は2023年3月、当時わずか11歳だった。それから3年もしないうちにベルリン・フィル、シカゴ響、ロンドン・フィルなどの一流オーケストラに次々デビューし、各地でチケットが即完売する人気ぶりを示している。
シベリウス《ヴァイオリン協奏曲》は、2025年夏にスイス・ロマンド管弦楽団の来日ツアーでも披露し、聴衆の圧倒的な反響を得た。まだ10代半ばという年齢を考えれば、日進月歩で成長を続けているだろうから、彼女のファンには1年前との違いを聴き比べるという楽しみもある。N響にも、天才少女を迎える物珍しさがあった前回とは異なり、若きトップ・アーティストと本格的に渡りあう気概が求められよう。

後半は、正指揮者・尾高忠明が得意とするラフマニノフの交響曲。若者の野心みなぎる《第1番》、情感豊かな《第2番》を、尾高はしばしば取り上げるが、《交響曲第3番》はそれほどでもなく、N響と演奏するのも初めての経験になる。
オーケストラ音楽からしばらく遠ざかっていたラフマニノフが、晩年近くになって手がけたこの曲は、洗練された書法でまとめられ、それだけに淡泊な演奏にも陥りかねないが、ほどよい気品の中に抒情性を際立たせる尾高の音楽性には、とても合っているように思われる。
こうした個性は、長年にわたるBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団との関係で培われたものだろうか。同楽団との録音では、第1楽章の有名なチェロの主題の最後の3音(ラ-ド#-シ)が、たっぷりのテヌートで強調される。ほどよく抑制が効いた全体にあって、この部分へのこだわりはとても印象的だ。

冒頭のシベリウス《アンダンテ・フェスティーヴォ》は、尾高が愛してやまない、名刺代わりとも言える1曲。弦楽合奏による澄み切ったメロディーが、初夏のNHKホールに清涼な空気を届けてくれることだろう。

Cプログラム(NHKホール)
2026年6月19日(金)7:00pm
2026年6月20日(土)2:00pm
指揮 : 尾高忠明
ヴァイオリン : HIMARI

シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
ラフマニノフ/交響曲 第3番 イ短調 作品44

[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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