街の本屋さんの前に立ちはだかる「ネット書店」や「電子書籍」は、世界共通の大問題だ。はたして諸外国では、どのように対応しているのだろうか。出版社、出版取次会社、書店などでつくる出版文化産業振興財団(JPIC)は2025年にフランス、23年に韓国に視察に赴き、両国の書店振興の取り組みを調査した。JPICの調査報告から見えてきた考え方とは――。

軽減税率適用や助成金 総額2000億円の政府支援

「フランスが行っている出版業界への支援、法整備や仕組みを学び、フランスも一朝一夕にこれができたのではなく、出版業界の各プレーヤーと国が議論を積み重ね、時間をかけて出来たのだとわかりました」

東京都港区のフランス大使公邸で25年11月、同年夏に行われたJPICのフランス視察の結果報告が行われ、視察に参加した大手出版取次会社トーハンの竹中康子さんは、税制や出版社、書店への支援、若者の読書離れ対策と多岐にわたるフランスでの諸策をこのように評した。

視察結果を発表するトーハンの竹中さん

竹中さんがまず紹介したのは、書籍に対する付加価値税(VAT)だ。日本における消費税にあたるフランスのVATは20%だが、書籍は5.5%しかかからない。書籍に軽減税率が適用されていない日本とは対照的だ。書籍の税率を下げることによるフランスの税収減は6億ユーロ(約1090億円)。竹中さんは「パンや果物と同じく、書籍は生きていく上で欠かせない生活必需品として考えられているのかなと感じました」と語った。

フランスは、本の無料配送を禁止し、リアル書店に対するネット書店の優位性を小さくする目的で2014年に成立した「反アマゾン法」が有名だ。21年には、若者に書籍などの購入費を支給する「カルチャー・パス」(支給額は25年現在で年間150ユーロ)の制度が導入された。

2024年に読書振興・出版業界支援にフランス政府がかけた費用は約11億ユーロ(約2010億円)。VATの軽減税率による減収分(6億ユーロ)を算入しているものの、支援金は巨額だ。1368年の設立で「世界三大図書館」の一つに挙げられるフランス国立図書館運営費に約2億4300万ユーロ(440億円)を支出している。フランス文化省監督下の「国立図書センター」は、出版社、書店、著者、翻訳者、図書館、文学的行事開催者への助成や支援を行っているが、この活動には、「本の経済政策」に向けた予算のうち約2850万ユーロ(約50億円)が充てられた。

図書館vs著者・出版社の対立解消 SOFIA制度

これらに加え、「日本にない仕組みで大変勉強になった」と竹中さんが紹介したのが、国や地方自治体などの図書館が書籍購入費の6%を「フランス文筆著作権管理団体(SOFIA)」に拠出し、この資金が著者や出版社に分配される仕組み。無料で本を貸し出す図書館と、「著作権者に報酬を払うべきだ」と考える著者や出版社の長年の対立に対し、考え出された工夫だ。手の込んだこうした施策は、まさに竹中さんが指摘する「各プレーヤーが時間をかけた」成果だ。

<図書館貸出時の著者・出版社への分配金について法整備+出資>

図書館貸出時の著者・出版社への分配金について法整備+出資

SOFIAを通じた出版社、著作者支援(竹中さんの発表資料から)

「書籍=文化財」 フランス国民全体で価値共有

報告会では、出版を中心とするメディア文化を研究している上智大学の柴野京子教授も登壇。JPICのフランス視察に同行した柴野さんは、フランスでは国全体で書籍を「文化財」としてとらえているとの認識を示した。

「日本では書店の振興をするにしても、施策を進める以前に『なぜ書店が保護されなければならないか』について、人々が納得できる根拠を事業者自身が示すことから始めなければならない」のに対し、「フランスでは(書籍は文化財だという)価値を制作者、事業者が共有し、国民もそれを前提としている」と柴野さんは解説。訪問したフランス文化省や国立図書館でも「書籍を文化財とする流れの中で説明を受けた」といい、日仏の活字文化の基盤の違いを強調した。

多岐にわたるフランスの振興策の基礎にあるのは著者、出版社だけでなく国民全体の文化に対する共通理解だ。柴野さんは「日本では出版事業に関して、カルチャー・パスなどがよい施策として話題になります。むろん、そうしたアイデアも大事だと思いますが、出版という事業の価値を共有できる世論を形成していくことが最も重要であるということを改めて考えました」と自身の報告を結んだ。

フランスでは「書籍は文化財」との意識があることを紹介した上智大の柴野教授

韓国 出版産業を「国家知識競争力」と位置づけ

書籍に関連する業界で、フランスやドイツなど欧州先進国と並んでしばしば取り上げられるのが、お隣の韓国の取り組みだ。2024年に作家、ハン・ガン(韓江)さんがアジアの女性として初めてノーベル文学賞を受賞したことでさらに韓国の活字文化への関心は高まっている。

JPICは2023年4月に現地で官民連携の取り組みを視察した。視察先に韓国を選んだことについてJPICでは、「地域の書店減少が社会問題になったことに対し、官民連携でさまざまな取り組み実施し、その結果、現在は独立系書店を中心に数が増加する傾向にあるとの情報をキャッチしたのがきっかけ」としている。視察では、政府機関、公共図書館、書店組合、各種の書店を訪れた。

ソウル近郊の書店で説明をきくJPICの視察チーム(2023年)

視察の中でJPICが注目したのは、「韓国出版文化産業振興院」という機関と、「出版文化産業振興法」という法律だ。

「韓国出版文化産業振興院」は文化体育観光部(日本では「省」にあたる機関)傘下の公共機関で、出版文化産業の支援のために設けられた。日本では出版に絞った機関はないが、韓国では出版産業の育成が「国家知識競争力の強化」という目標の中に位置づけられている。

「出版文化産業振興法」の中でも特筆すべきなのは、2021年に設けられた「地域書店活性化条項」だ。書店を「地域文化拠点の役割を果たす」ものと位置づけ、地域の書店を支援するための自治体の条例に、制度的な根拠を与えてこれを促すという仕組みになっている。

書店と行政が緊密 地方のブックイベント大盛況

こうした法的な仕組みや政府の支援により、韓国の活字文化は活況を見せている。

韓国南西部にある全北特別自治道(旧・全羅北道)の地方都市、群山(クンサン)市は人口約25万人の小さな市だ。このクンサン市で2025年8月、大型イベント「群山ブックフェア」が開催された。小さな出版社や書店がブースを出して本を販売するイベントだが、開催にかかる経費は市が負担し、全国から120団体が参加した。2日間の開催期間に約1万人が来場した。イベントの仕掛け人で、出版社「Propaganda(プロパガンダ)」の金廣哲(キム・グァンチョル)さんによると、群山市では、市立図書館は地元の書店から書籍を購入するなど、普段から書店と行政は緊密な関係にあるといい、大成功に終わった催しについて「民間と市が結びついた理想的なケースだった」と振り返る。

全北特別自治道では、道庁が置かれている全州市も書店支援に熱心で、市民へのクーポン配布などを実施。金さんは「地元の書店には相当の支援になり、廃業を考えた書店が事業を続けるようになったケースもある」と語る。書店支援について金さんは「書店支援はそこに住む人々のためになるほか、市のイメージをよくすることにもつながる」と話す。「韓国ではすべてがソウルに集中しているが、地方にも人が住んでいる。だから、地方で成功することには意味がある」

2025年11月に大阪市で開かれたイベント「KITAKAGAYA FLEA 2025 AUTUMN & ASIA BOOK MARKET(北加賀屋2025秋&アジアブックマーケット)」にも参加した金さん

フランス、韓国で奏功する書店振興だが、いずれも独立系書店が元気であるという共通点もある。日本の書店振興をどう進めるべきか――。両国の施策や活字文化への考え方から学ぶべきものはたくさんあるはずだ。

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