若い世代の「活字離れ」や「本離れ」は、書店振興を考える上で大きな課題となっている。ただ、一方で、高校生を対象とした創作コンテストは応募作品を増やし、本や雑誌を自主制作する意欲的な若者もいる。未来の活字文化や書店を支える次世代は、どのように「本」と向き合っているのか。
「文学フリマ」 文芸部員による短編集が完売
東京ビッグサイト(東京都)で2025年11月23日、ZINE(※)をはじめとする自費出版物の即売会「文学フリマ東京41」が開かれた。3000組を超える売り手が出店し、思い思いに作った「本」を販売。広さ2万平方メートルの会場は、過去最高の1万8000人超の来場者でにぎわった。
※ZINE 雑誌を意味する英語の「マガジン(magazine)」が語源とされる自主制作の冊子。「同人誌」や「リトルプレス」と呼ばれることもある。個人や少人数のグループで、伝えたい内容を自由に書き、販売まで行う。専用の書棚を設ける大手書店も出てきている。
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多数の来場者で盛り上がる「文学フリマ東京41」
会場で、本を販売しているセーラー服の女の子たちの姿があった。
大妻多摩中学高校(東京都)の文芸部創作部門の6人が出店したブースだった。販売するのは、自分たちで書いた創作小説11編を収めた部誌「色彩」だ。
ひときわ目立つ高校生のブースに、来場客が絶え間なく集まってくる。「これからも書き続けてね」と声をかける人も。60部の色彩を完売した部長の飯田理央さんは、「地味と思われがちな文芸部を変えたくて、一丁やってやろう!と出店に挑戦しました。創作を通じて多くの人とつながることができた」と笑顔を見せた。
部誌「色彩」約60部を完売した、部員の(左から)金田千恵子さん、安藤ゆりあさん、桜井未怜さん
同部顧問の小笠原佑志教諭は「中高生の活字に対する興味が薄れたとは思わないけれど、本や文学に触れるきっかけがないために、他のモノへ関心が向いてしまっているのでは」と話す。初挑戦となった文学フリマについては、「いまどきの中高生の、文学への興味関心を育ててくれるイベントだと実感した」と歓迎した。
文学フリマは、「プロアマ問わず、自分が『文学』と信じるもの」を自ら販売するという趣旨で2002年東京で始まったイベントだ。現在は毎年、大阪や福岡、広島など全国8都市で開かれている。参加者は2018年頃から急激に伸びており、東京会場では2024年以降、入場料を取る方式に変わった。
ただ、その東京会場でも18歳以下は入場無料のままになっている。文学フリマの事務局は「若い世代に、たくさんの作品に触れてもらうことが、豊かな文化を築く礎になると考えている。大勢の若者に訪れてほしい」と、その狙いを明かす。
高校生対象の小説コンテスト 応募2000作!
「このコンテストを通じて、次世代の書き手、読み手双方を育てたい」と力説するのは、高校生を対象にした「カクヨム甲子園」(KADOKAWA主催)を担当する、WEB小説サイト「カクヨム」企画室の河野葉月さんだ。
小説やエッセイ、詩や童話などジャンルを問わず、ショート部門(400~4999字)、ロング部門(5000~2万字)で、高校生から文学作品を募集するカクヨム甲子園の募集ページ
カクヨム甲子園は2017年、自作の作品を投稿して多くの人に読んでもらったり、他の人が作った作品を読んだりできるWEB小説サイト「カクヨム」の高校生向け文学コンテストとしてスタートした。ショート部門とロング部門の2ジャンルがあり、応募数は年々増加。25年の総応募数は2044作品で、スタート時の17年(1090作品)から倍増した。受賞者の中から作家デビューした人もいる。
2025年の大賞に選ばれたのは、ロング部門は「ハヤブサ」(松葉あずれん 東京科学大学附属科学技術高等学校3年)、ショート部門は「辻・ツマ合わせ」(梶田向省 長野県長野西高等学校2年)。いずれも高校生らしいみずみずしい筆致でありながら、力強さを感じる内容が評価された。
河野さんは、カクヨム甲子園の盛り上がりの一因に、教育現場で導入された「1人1台端末」もあるのではないかと分析する。普段から友だちとスマホのチャットで会話する若者にとって、デジタルデバイスでの入力が文章を書くというハードルを下げているというのだ。
本好きの若者が気軽に創作をするようになることで、他の作品にも目が向くようになって、読書量がさらに増える。同世代が描く物語を読んでみようかと新規読者も増える……。河野さんはこんな好循環を目指す。
文学賞へ投票 受け身でない読書の機会に
子どもたちの投票で選ぶ文学賞も始まった。
2025年夏にスタートした「10代がえらぶ海外文学大賞」は、前年に日本で刊行された10代が主人公の海外作品の中から7作品をノミネート。作品を読んだ子どもたちから投票を受け付けて大賞を決める。約200人の小中高校生らが票を投じ、第1回の大賞には、ベトナム人作家が描いたグラフィックノベル「ソリアを森へ」が選ばれた。
事務局の三辺律子さんは「子どもたちが『選ぶ』当事者になることが重要と考えた。学校で課題図書を提示され、受け身で読むのとは違った読書になったはず」と語る。
10代がえらぶ海外文学大賞で大賞に選出されたグラフィックノベル「ソリアを森へ」(チャン・グエン作、ジート・ズーン絵、杉田七重訳・鈴木出版)
大人がおすすめ本をプレゼントする書店
書店も、若い世代を応援しようと、工夫を凝らす。
「イケてる大人から 中高生への本のプレゼント」
売り場面積約10坪の小さな「高久書店」(静岡県掛川市)に、そんなメッセージを記した棚がある。
店主の高木久直さんが「次の読者を育てるために行動しなければ」と考える中で生まれた「ペイフォワード文庫」だ。
所狭しと本が並ぶ店内に置かれた「ペイフォワード文庫」の小さな棚。店主の高木さんは「中高生にぜひ、『読書』と出会ってほしい」と願う
ペイフォワードとは英語で「恩送り」(受けた恩を、別の人に送る)の意味。高木さんが作ったペイフォワード文庫は、書店を利用する大人(フォワーダー)に本を購入してもらい、店を訪れる中高生にプレゼントするという棚だ。
実際の流れを説明すると、高久書店でまずフォワーダーとなる大人1人を募集し、中高生に贈りたい本を10冊購入してもらう。この10冊を月初めに棚に並べ、訪れた中高生が「この本が読みたい」と高木さんに申し出ると、本がもらえる。
フォワーダーは毎月入れ替わる。地元企業の経営者や主婦、教師……。匿名を希望する人も含め、2021年6月の開始以来50か月以上、フォワーダーが途切れたことはない。
一方で、10冊の本も次々ともらい手が現れ、余ったことはない。棚に並べられるのは、話題となったベストセラーだけでなく、古典文学や地元静岡が舞台の歴史書まで、中高生が手に取りにくいような本もあるのにも関わらずだ。これまで何冊か本を持ち帰った男子高校生は「高校生にとって本は高価。ちょっと興味がある、というだけでは、なかなか買えない。本をもらえたおかげで、知らなかった作家やジャンルに出会えた」と話す。
2025年11月、54人目の「イケてる大人」としてフォワーダーになった岡田真理さんがおすすめした本の一部。本は1週間あまりで全てなくなった
2025年11月にフォワーダーとなった脚本家・小説家の岡田真理さんは、普段本を読まない中高生を意識して映画やドラマの原作を中心に選んだ。「大人が読書の入り口を用意する大切さを感じた」と話す。
同様の取り組みは、他地域にも広がっている。
鳥取市の「SHEEPSHEEP BOOKS」は2024年11月からペイフォワード文庫をスタート。同店ではフォワーダーに5冊購入してもらうルールだが、やはりフォワーダーは途切れることがない。店主の高木善祥さんは「中高生の顔を見ながら本を手渡せる。町の小さな書店だからできる取り組み」と話す。
SHEEPSHEEP BOOKS のペイフォワード文庫。店主の高木さんは「中高生と話すきっかけになった」と喜ぶ
学校図書館に納める選書イベント 意外な人気
一方、大規模書店は「多種多様の書籍を陳列」という強みを生かして若者を惹きつける。
8階まである国内最大級の売り場で約30万タイトルの書籍を並べている紀伊國屋書店新宿本店(東京)は2022年11月、3階にアカデミック・ラウンジをオープンした。広さ約20坪。小さな書店なら店ごとすっぽり入ってしまうほどのスペースをぜいたくに使って、様々なイベントを行っている。
イベントの中でも人気なのが、学生・生徒が店内を巡って、学校図書館に納入する本を選ぶ「選書ツアー」だ。参加者一人ひとりにバーコードリーダーを持たせ、店内を自由に巡ってもらい、参加者は読んでみたい本をタッチ。選んだ本はリスト化され、実際に図書館に納入されるという内容になっている。
当初は大学生を想定していたが、中高生の利用希望が予想外に伸びている。2022年11月から2025年11月末までの利用数は大学・短大(※高専含む)206校、2208人、中高生は124校1144人に上っている。

紀伊國屋書店新宿本店6階の理学書コーナーで、本を選ぶ都内の男子中学生(上)。バーコードリーダーを使用すると、気になった本の情報を読み取ることができる(下)
人気の秘密は、豊富な選書経験をもつ担当者が、書店の楽しみ方を伝授する点にある。「あのベストセラーを」「こんな内容の本を」といった目的買いに慣れ、自分が好きな本があるフロアに直行しようとする若者に対して、担当の伊藤淳さんは「8階から1階まで、ぶらぶらするよう」アドバイスしている。
伊藤さんは「ネットでの注文や、電子書籍で本を読む人が増え、リアル書店の楽しみ方を『学ぶ』時代になった。30万タイトルを有するこの店で『偶然の出会い』を実感してもらい、書店の存在価値を知ってもらうことも今の書店の役割です」と話す。
選書体験の後は、書店員からPOP作りの指導も受けることができる。アカデミック・ラウンジの周囲には、中高生や大学生が選書した本を紹介するコーナーもあり、来店客の注目を集めている
読書量、小学生が大幅増 課題は中高生
子どもたちが1か月間に読んだ本の冊数を調べている「学校読書調査」(全国学校図書館協議会が実施、毎年5月の読書冊数を調査)によると、子どもたちの読書量はこの30年間増加傾向を維持している。特に小学生(4~6年生)は1995年の5.4冊から2025年の12.1冊へと倍増している。ただ、中学・高校と年齢が上がるにつれ伸び幅は小さくなる。書店振興の観点からも、中高生への対策が今後の課題となっている。

