本好きの著名人が読書の魅力や書店への思いを語る特別企画「書店応援団」。今回は、17歳でデビューして以来、独自の感性と豊かな表現力で幅広い楽曲を歌い上げる家入レオさんが、全国ツアーの合間を縫って、本への深い愛と読書のチカラ、書店の魅力をたっぷりと語りました。

「人は価値観が違う」 子どもの頃の書店経験

故郷は福岡です。幼少期に一時期両親と離れて暮らしていました。当時預けられていた家が小さな図書館を持っていた関係で、自然と本が好きになっていきました。

よく足を運んでいたのが、西鉄・天神大牟田線の春日原駅近くにある「エルマー」という子どもの本専門店です。店内の壁面、棚に絵本や児童文学などがぎっしりと並んでいました。本を探すだけの場所ではなく、近所の子どもたちと、自分の好きな本についておしゃべりする場所でした。あまり親しくない相手でも本を通して仲が良くなることがあったし、逆に自分が面白いと感じた本のことをわかってもらえなかったりして、人は価値観が違うことを教えてもらった空間でした。

今、愛読書を語り合って一番読みたい本を決める書評ゲームのビブリオバトルが広がりを見せているそうですが、それに近いことをやっていたのかもしれませんね(笑)。エルマーは2025年末で閉店になります。大切な場所がなくなってしまうのは残念です。

福岡の児童書店への思いを語る家入さん

本は「買う」でなく「迎え入れる」という感覚

時間が出来ると書店に足を運びます。ネットで本を注文すると、本との出会いは家に届いてからの記憶しか残りません。でも、書店だと棚から取り出した時の最初の手ざわり、バッグに入れて本の重さを感じながら自宅に迎え入れるまでのこと、すべてが記憶に残ります。

本を「迎え入れる」って言ってしまうのは、本には作者の心の一部が宿っていると思うからです。少し変なこだわりかもしれませんが、「買う」とか「購入する」という言い方が、自分にとってはしっくりこないんです。20歳の秋、都内の書店で出会った江國香織さんの「神様のボート」。帰る途中に公園のベンチに座り、本を開きました。その時の甘い落ち葉の香り、サクサクと落ち葉を踏みしめた感覚をはっきりと覚えています。今でも秋になると、神様のボートを読みたくなってしまうのは、その時の記憶が残っているからだと思います。

灰谷さんの本に教わった、人を受け入れる大切さ

好きな作家の一人に灰谷健次郎さんがいます。10代のころ、読んだのが「太陽の子」。舞台は兵庫県神戸市で、沖縄の出身者を両親に持つ少女ふうちゃんが主人公です。父親が精神を患ったことをきっかけに悲惨だった沖縄戦や沖縄出身者の置かれた厳しい境遇などが明らかになっていきます。太平洋戦争の末期に多くの県民が犠牲になった沖縄戦のこと、戦後長い間、アメリカに統治されていたこと…。

最初に読んだときは分からなかったり、当時の自分では受け入れられなかったりしたことも多かったです。でも、何度も何度も読み返していくうちに「こわくても知らなければいけないことが世の中にはたくさんあるんだよ」「人を受け入れることの深さ」を灰谷さんが伝えようとしていたことがわかってきました。読書は1回読んで終わりじゃないことを教えてもらったし、灰谷さんの言葉や思想は、私の中でずっと息づいています。

「太陽の子」(灰谷健次郎 KADOKAWA)

自分にしかわからない気持ちを言語化できる

心に迷いが出たときは、大人になった今でも絵本を開くことがあります。やなせたかしさんの絵本「チリンのすず」も大切な一冊です。生まれたばかりの子羊チリンが、狼のウォーに母羊を殺されてしまう。チリンは強くなるために、お母さんのかたきであるウォーに弟子入りし、獣となったチリンが復讐を果たす話です。いつ読んでも涙が止まりません。「壊し合って救い合ってた、心をなくしてなかったならあなたを傷つけずにいれたの」という詞が頭に浮かび、「Winter」という曲をつくりました。

「チリンのすず」(やなせたかし フレーベル館)

自分にしか分からない喜び、苦しみ、悲しみは人の数だけあると思っています。いろんな人に会って、そういう気持ちを相手に分かってほしい時に言葉は必要です。本を読んでいると、モヤモヤした気持ちを言語化できるようになり、伝えることに行き違いが少なくなる。本を読めば、自分のこと、自分にとって大切な人を大切にすることができるようになるのではないでしょうか。

街の書店には人を思いやる雰囲気が漂う

ツアーに出る時はバッグに何冊も文庫本をしのばせていきます。移動する飛行機や新幹線の車内は貴重な読書タイムです。コンサートが終わって“ライブ脳”になっている精神の昂ぶりをクールダウンさせてくれるのが読書です。親しい人とは本の貸し借りもします。ドッグイヤー(目印に本の角を折ること)を付けたまま本を貸した相手から「この言葉が心に残ったんだね!」という言葉が返ってきて、コミュニケーションが生まれることもあります。電子書籍だとこういう展開にはなりにくいですよね。

お目当ての本が欲しいときは大型書店に行きます。偶然の出会いを求めたいとき、今の自分に彩りが欲しいと感じたときは街の本屋さんに足が向きます。どうしても人は便利な方を選択しがち。気軽に注文できるネット書店が勢いを増しているのはわかります。「あなたにはこの本をおすすめします」みたいな案内が表示されることもあります。でも、リアル書店に足を踏み入れると、次から次に気になるタイトルが目に飛び込んでくる。大げさかもしれませんが、1冊を探しているうちに100の出会いが待っているんです。

書店に入ると、作家の色紙が飾られていたり、書店員の方の手書きのメッセージが本のそばに添えられていたりします。街の書店には人を思いやる雰囲気が漂っています。人はひとりでは生きていけない。だから、街の書店は無くならないような選択をしたいです。

【プロフィール】
家入レオ(いえいり・れお)
1994年福岡県出身。高校在学中の2012年シングルの『サブリナ』でメジャーデビュー、同年末に日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。幅広い音楽性、力強い歌唱力で幅広い年代の支持を集めている。数々のドラマ主題歌も担当、今年、日本テレビ系列で放送された水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』もその一つ。『雨風空虹』など企業とのタイアップソングも多い。2025年には全国5都市で「TOUR2025~bulb~」を行った。

Write A Comment

Pin