2人が足を踏み入れる兄の家の汚れ具合も実に生々しく(床に吐血した跡などもきちんと見せる)、人情劇に傾きすぎることがない。あくまでベースは生活者たちの現実的なドラマにあり、そこに微笑ましさや柔らかさを持ち込んでいるがゆえに、本作は映画的な“嘘”が嘘くさく映らない。
その特徴が最大限に輝くのが、クライマックス。理子・加奈子・良一がそれぞれに思い描く兄と“再会”し、お別れをするシーンだ。現実的な目線に終始すれば「ありえない」と一蹴される展開かもしれないが、不思議な説得力を持って胸に迫ってくる。
序盤から積み上げてきた「現実を描く話である」という世界観を観客に納得させたうえでの展開であること、さらに「愛する人は死後もそばにいるもの」という日本人の死生観を利用していること等がその理由だろうが、最も大きなものは「死者ともう一度会いたい」という極めて現実的な遺族の願いを、映画ならではの技法で叶えている点だろう。
ある出演者は、こう語っていた。「亡くなった家族の存在を感じること自体は、日常的にあることですから」と。確かに本作は、死者が蘇るのではなく生者が想像するだけであり、「家族を失った遺族の再生」をライフワークに掲げてきた中野監督によるリアリティラインの手綱の握り方が絶妙だ。
彼は「涙と笑いは隣り合わせの感情」「笑わせる/泣かせるのではなく、自然と笑ってしまう/泣いてしまう瞬間を構築する」と自身の哲学を語っている。いわば悲喜こもごもの名手である中野監督が、ゼロ年代以降の日本映画をけん引してきた柴咲コウ×オダギリジョーに満島ひかりを加えた盤石のキャスティングで送る本作は、メイド・イン・ジャパンの名作として国内映画史に刻まれることだろう。
映画『兄を持ち運べるサイズに』
公開日:2025年11月28日(金)
原作:「兄の終い」村井理子(CEメディアハウス刊)
脚本・監督:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
文・SYO
編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA(GQ)

