どうすれば、書店を訪れる人を増やせるか。これは、書店活性化のために絶対に避けられない課題だ。もちろん、書店で魅力あるフェアを開催するのも一案だが、書店の外でイベントを開いて人と本の接点を増やそうとする試みも盛んになっている。2025年秋に行われた2つのイベントの模様を紹介する。

梅田のファッションビルに「独立系」が勢ぞろい

大阪を代表する繁華街、梅田にある大型複合ビル「ハービスPLAZA  ENT(プラザエント)」。グッチやティファニーなどのブランド店や有名ファッションブランドが入居し、高級感あふれるこの商業施設で、2025年10月18日と19日の2日間、「本のマルシェ」が開かれた。

マルシェとは、フランス語で「市場」という意味。フランスでは、さまざまな街でマルシェが立ち、農作物や雑貨の直販が行われるのが有名だ。

本のマルシェでは、主に関西で店舗を構える「独立系書店」が集まった。独立系書店とは、選書にこだわる小規模書店のこと。出版取次大手トーハンの調査では、国内で書店が減少する中、独立系書店は増えており、24年現在で全国に341店舗が営業をしている。

リトルプレスと呼ばれる自主制作出版物を扱う「1003(センサン)」(神戸市中央区)、手作り小冊子のZINE(ジン)をそろえる「シカク」(大阪市此花区)、ジェンダーに関する書籍を集める「シスターフッド書店Kanin」(京都市左京区)など、マルシェに集ったのは21の独立系書店。それぞれの個性的なブースでは、普通の書店では見かけない本に目をひかれた買い物客が訪れ、店主との会話を楽しむ人の姿が見られた。2日間のイベントは大盛況で、約1700人がブースに並べられた本を買い求めた。

10月に行われた本のマルシェ

おしゃれなデザインのチラシ(阪急阪神ビルマネジメント提供)

普段より客層が多様 書店、客ともに好評のイベント

洗練された商業施設で、なぜ「本」のイベントを開いたのか。

異色の組み合わせを企画した施設の運営会社「阪急阪神ビルマネジメント」の山口智久さんは、「ハービスPLAZA ENTは、文化的なにぎわいをつくっていくという街づくりのコンセプトで作られた施設。文化的な感度の高いお客様に満足していただけるには、『本』がぴったりだと思いました」と語る。施設には、音楽と食事が楽しめる「ビルボードライブ大阪」や、劇団四季の専用シアター「大阪四季劇場」も入居する。ここに「本」が加わることでさらに魅力が増すというのだ。

ハービスENTに新しい顧客を集めるという狙いもある。高級ブランド店に敷居が高いと感じる人たちに、マルシェという親しみやすいイベントを仕掛けることで、性別や年齢に関係なく、幅広く来訪してもらおうというわけだ。

HERBIS ENT 外観

JR大阪駅に隣接するオオサカガーデンシティに立地する「ハービスPLAZA ENT」(阪急阪神ビルマネジメント提供)

普段の店舗を離れ、繁華街の中心でブースを置いたことに、書店側も手応えを感じたようだ。

アート系の新書、古書を扱う「クローディア書店」(大阪市中央区)の近藤美樹さんは、「普段、ファッションに興味のある目の肥えた方がじっくり本を見てくれた。若い人も多かった。ぜひイベントを続けてほしい」と話す。「MoMoBooks(モモブックス)」(大阪市西区)の松井良太さんは、「いろんな人が行き交う場所にブースを設置できた。お客さんの年齢、世代もばらばら。いつもの店舗での営業とはひと味違う」と語った。

MoMoBooks(モモブックス)のブース

利用客の評判も上々だ。

アパレル店に寄るためにハービスPLAZA ENTを訪れたという大阪府摂津市の女性は、「絵本が好きなので、目に留まるブースがありました」と思わぬ本との出会いを楽しんでいた。京都市の男性会社員は「関西の有名な独立系書店が集まっていて、普段は行けない店を訪ね、店主さんと話すことも出来た」と満足そうな様子。「スマホでお勧めをみるのもいいけれど、選ぶ楽しさがあってほしいなと思います」と話した。

コロナ前から人気徐々に 多彩な本に出会える魅力

「本のマルシェ」のアドバイザーを務めているのが、本屋ライターの和氣(わき)正幸さんだ。各地の独立系書店の情報を取材し、ウェブサイトなどで積極的に発信している和氣さんは、「関係者の中で本のイベントは人が集まるという感覚がだんだん定着してきたところにコロナ禍があった。コロナ後、その間に増えた独立系書店のイベントとして人気が再燃している」と話す。

古本市とはまた違った「本のマルシェ」の魅力。和氣さんは「お客さんから見れば、いろいろな本に出会えることが最大の魅力です」と言う。

本の出版点数は膨大だ。出版されても気がつかないことも多い。「でも、書店が本を選ぶことで、お客さんの目に入るようになるんです」と和氣さん。各ブースでは、お客さんが店主に「なぜこの本を選んだのか」という問いかけまでできる。ネット書店では得られない楽しさがそこにある。

和氣さんは「書店側にとっても、いちばん大切なのは店に来てくれる顧客を開拓すること。店舗を続けるためにも、こうしたイベントに出て、自分の店に足を運んでくれるファンをつくることが大切なのでは」と語る。

和氣正幸さん

本屋ライターの和氣正幸さん。著書に「改訂新版 東京 わざわざ行きたい街の本屋さん」(G.B.)など=和氣さんが経営する書店「BOOKSHOP TRAVELLER(東京都世田谷区)で

文豪の名作を現代風に 若手俳優の朗読劇が盛況

東京では、文学の世界に若手俳優や声優らが挑む「朗読劇」を通じて、書店の利用客を増やそうという企画が人気だ。

9月21~23日、東京都千代田区にあるTOKYO FMホールで開かれた「朗読劇 おとなの国語 其の弐」。俳優でモデルの島村雄大さんや、作家でタレントの宮田愛萌(まなも)さんらが出演し、計約760人の観客を魅了した。

舞台で朗読劇を演じる島村さん(左)と宮田さん

演じられたのは、いずれも文豪の名作を、脚本家の塩田泰造氏が場面を現代に移して書き上げた作品だ。

江戸川乱歩の「人間椅子」は、深夜まで残業が続く日々から脱しようとした女性が、AI機能を駆使した快適な暮らしを始めたものの、その生活には秘密が隠されていた、とアレンジ。夏目漱石の「こころ」は、原作に登場する「先生」の手紙が、誰に向けて書かれたものかについて、男女3人が議論する、という話になった。

22日の舞台では、時に耳をつんざくような宮田さんの悲鳴や、冷淡なまでに表情を変えずに告知する島村さんの口調が観客の心に響いた。

大学で日本文学を専攻した宮田さんは「活字の世界観を、お客さんと共有できるところが、朗読劇の魅力」。島村さんも「難しいイメージのある日本文学が、朗読劇で現代風にアレンジされた面白さを伝えたかった」と振り返った。

本の魅力について語る島村さん

朗読劇の意義を話す宮田さん

2人に共通するのは、朗読劇の元となった文学と人をつなぐ書店への思いだ。

島村さんは「活字からは、力強さを感じる。小説や漫画も含めて、わくわく感が本の魅力。書店の減少は寂しい」と残念がる。宮田さんは「書店がないと、子どもが本にアクセスする機会が減ってしまう。朗読劇が、書店に足を運ぶきっかけになってほしい」と語った。

上演に合わせ書店に「オススメ本」 観客が続々購入

今回の朗読劇に先立ち、8月下旬には、都内の4書店で特設のコーナーが設けられ、朗読劇の原案となった作品をはじめ、宮田さんや島村さんが選んだ「オススメ本」を陳列するフェアが開催された。企画した広告制作会社「電通ライブ」によると、各店舗で50~100冊が売れたという。

ブックファースト新宿店に設けられた特設コーナー

企画に参加した書店には今も追い風が吹く。

独立系書店「双子のライオン堂」(港区)は、赤坂のオフィスビルから少し外れた閑静な通り沿いにたたずむ。5坪ほどの売り場の一角には、今も今回のフェアで扱われた本が棚に並べられている。

店主の竹田信弥さんは「『朗読劇を見た』と言って、これまで来店したことのないお客さんもたくさん来てくれた。朗読劇の原案になった本をまとめて買ってくれた人もいた」と笑顔。自身も朗読劇を観に行ったといい、「演者も人気のある人たち。あの舞台を見れば、きっと原作のことが気になると思う」と話してくれた。

現在も朗読劇関連本のコーナー(右)を設けている竹田さん

双子のライオン堂では、朗読劇に関連する本が100冊以上も売れたという。日々の書店営業の中で、本離れがどんどん進んでいると実感しているだけに、竹田さんはこうした企画に光明を見出したいと考えている。

「書店という場所で、朗読劇をみることができれば、書店をファンが集う『聖地』に出来るのではないか。動画を活用してもいいかもしれません。書店に人を引き寄せるためにいろいろとやってみたいですね」。竹田さんは力を込めた。

書店に足を運ぶ人をどうやって増やすのか。関係者の試行錯誤は続いている。

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