2025年10月からスタートする秋ドラマ。ベテラン脚本家が数十年ぶりに連ドラを担当するなど、安定感間違いなしの話題作が多い中で、新たな潮流が息づき始めている。それは若手脚本家の大抜擢や、“ライターズルーム”で開発されたオリジナルストーリーが複数登場していることだ。

 “ライターズルーム”は、海外ドラマにおける脚本制作の仕組みの一つ。複数の脚本家が集ってストーリー構成、各話の展開などを徹底的に作り込むため、各話の脚本家が違っても、その世界観がかっちりとキープされている。たいていはチームを統括するポジションとなるショーランナーが配置されることが多い。

 1人の脚本家が担当する場合、個人の才能こそ最大の魅力となるが、ライターズルームの魅力は“チーム戦での強さ”だ。それぞれの得意領域が増幅され、ステーク(緊迫感などの続きを観たいと思わせる惹き)が高められた、骨太で高品質な作品を継続的に生み出すことが可能となる。

 日本でも、この“ライターズルーム”を採用した動きが近年活性化し始めている。その端緒となったのは、2024年にNHK土曜ドラマで放送された『3000万』だ。

『3000万』は“夢”を巡るドラマだった 決して他人事ではないすぐそばに広がる闇

ドラマ『3000万』(NHK総合)の最終話は、信号が2度赤から青になるまで逡巡していた主人公・祐子(安達祐実)が、一度だけ大きく…

 このドラマはWDRプロジェクトで選ばれた4人の脚本家によって制作された。WDRプロジェクトとは「Writers’ Development Room=脚本開発室」の略。2022年に「世界を席巻するドラマをNHKで一緒に作りましょう」と広く脚本家を募集するプロジェクトが発足したのだが、その応募総数はなんと2025件。脚本家クラスターが大注目する中で選ばれた4人によって開発されたドラマが『3000万』というクライムサスペンスだった。

 練りに練られた毎話の周到な仕掛けは素晴らしく、ハラハラドキドキの息を呑む展開に次ぐ展開で、SNSでも当時大きな話題になっていた。現在WDRプロジェクト2期が進行中。再び没入度の深い作品を期待したいところだ。

 そして、この流れを受けて地上波各局も “チームによる脚本開発”へと乗り出しており、この秋、いくつかがお披露目される。それぞれの背景と期待ポイントをご紹介したい。

『フェイクマミー』

 10月10日スタートの『フェイクマミー』(TBS系)は、TBSが展開するライターズルームから生まれた初の作品だ。

 TBSは2023年に “TBS NEXT WRITERS CHALLENGE”というコンテストを始動。次世代を担う脚本家の発掘・育成を目的とし、完成度そのものよりも企画案や全体構成を通して脚本家の哲学や発想力を重視。そして受賞者は”ライターズルーム“のメンバーとして脚本開発に参加するというもの。

 本作は、その第1回大賞受賞作(脚本・園村三)なのだが、なんと園村にとって初めて書いた60分サイズの脚本らしい。番組概要欄に「脚本:園村三ほか」と記載されており、ルーム発足後、チームでブラッシュアップしていったと思われる。

 波瑠&川栄李奈のダブル主演で、 “母親なりすまし(フェイクマミー)”という母親業のアウトソーシングから始まるファミリークライム・エンターテインメントの本作、家族の物語でもあるとともに、シスターフッド(女性同士の友情)の描かれ方にも注目したい。

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