情報B0X:司会者の言論の自由は侵害されたか、米人気トーク番組休止を巡る論点

 9月17日、米ウォルト・ディズニー(DIS.N)傘下の大手放送局ABCは、人気深夜トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ」の放送を無期限で休止すると発表した。写真はアカデミー賞授与式で司会を務めるジミー・キンメル氏。2024年3月、ロサンゼルスで撮影(2025年 ロイター/Mike Blake)

[ウィルミントン(米デラウェア州) 18日 ロイター] – 米ウォルト・ディズニー(DIS.N)傘下の大手放送局ABCは17日、人気深夜トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ」の放送を無期限で休止すると発表した。保守系政治活動家チャーリー・カーク氏射殺事件に関する司会者の発言を連邦通信委員会(FCC)トップが批判したことを受けた。以下、米国における言論の自由と、司会者のジミー・キンメル氏の権利侵害の有無に関する論点を整理する。

<キンメル氏が語ったこと>

キンメル氏は15日の番組で、カーク氏暗殺について、カーク氏を撃った人物はトランプ大統領の支持者だと示唆し、「MAGA(米国を再び偉大に)派」は「カーク氏暗殺から政治的得点を上げようとあらゆることをしている」と述べた。また、記者からカーク氏の死についての感想を問われたトランプ氏が、ホワイトハウスの新しいボールルームの建設について語ったことを嘲笑した。

<トランプ政権の反応>

放送局を規制するFCCのブレンダン・カー委員長は17日、保守系のコメンテーターのベニー・ジョンソン氏が司会を務めるポッドキャストで、キンメル氏の発言はアメリカ国民に嘘をつくための試みの一環であり、何らかの「救済措置」を検討していると述べ、「穏便にやることも、厳しくやることもできる」と語った。

カー氏の発言直後にキンメル氏の番組休止が決定されると、カー氏は、放送事業者が地域社会の利益を守る姿勢を示したことを歓迎すると述べた。トランプ氏は18日の記者会見で、キンメル氏は低視聴率が理由で解雇されたと主張し、「言論の自由と呼ぶかどうかはともかく、才能が無いからクビになった」と述べた。

<保護される言論>

米合衆国憲法修正第1条は、政府による干渉から言論の自由などの権利を保護するものだ。裁判所は、政府が第三者に検閲を行うよう圧力をかける行為からの保護も含まれる、と判断してきた。

この問題に関する重要な判決では、米連邦最高裁は1963年、政府が私的主体に圧力をかけることで「非公式な検閲制度」を作り出すことは許されないとした。

この事件では、ロードアイランド州の行政機関が、彼らが不適切と判断した出版物の販売をやめないと、書籍や雑誌の流通業者を起訴すると脅していた。

最高裁は昨年、この種の訴えでは、政府の行為が許容される説得の域を超え、しかも原告に直接の損害を与えたことを示す必要があると示した。

この裁判で最高裁は、選挙や新型コロナに関する「誤情報」とされた投稿の削除をソーシャルメディア各社に促したバイデン政権の対応について、制限を設けることを認めなかった。

<当局者がキンメル氏を批判する自由>

トランプ氏は自身の政策に異議を唱えるコメディアンや芸能人をしばしばこき下ろしており、これは許容される。

しかし、当局はその権限を用いて言論を抑圧することはできない。

法的な争点は、カー氏がABCの放送免許を脅かしたかどうかにかかる。カー氏の発言後、メディア企業ネクスター・メディア・グループ<NXST.O> は、傘下のABC系列32局でキンメル氏の番組の放送を取りやめると表明した。

ネクスターは、より小規模な競合のテグナ を総額62億ドル(約9114億円)で買収する計画について、FCCの承認を必要としている。カー氏はネクスターに「正しい判断だった」と謝意を示した。ネクスターの発表直後、ABCは番組の休止を明らかにした。

<キンメル氏は訴えることができるか>

キンメル氏は、言論の自由の侵害でFCCを提訴することはできるが、勝訴は容易ではない。

修正第1条は政府の行為にのみ適用される。キンメル氏は、ABCが、カー氏およびFCCに強制されて彼を降板させたと立証する必要がある。ABCが判断はカー氏の発言とは無関係だと否定すれば、勝訴のハードルは非常に高い。

契約違反や雇用法違反でABCを提訴する可能性もある。ただし、エンターテイメント業界を含む多くの分野で一般的な、法的紛争を民事での仲裁に委ねる合意に署名している場合、裁判所で争う能力は制限され得る。

<ABCが番組を打ち切る自由>

ABC自身にも言論の自由があり、経営陣が会社に不利益と判断した番組の放送を強制されることはない。

キンメル氏は、政府当局者であるカー氏の発言とABCの休止決定の間に因果関係があることを示す必要がある。ABCがネクスターの動きが直接の理由で休止を決めたとする場合は、キンメル氏の主張は通りにくい。

仮にキンメル氏が提訴して勝訴しても、ABCの言論の自由が、裁判所による番組復活の命令を妨げる可能性が高い。FCCからどのような救済が得られるかも不透明だ。

<視聴者は訴えることができるか>

極めて難しい。視聴者は、カー氏が放送事業者に言論の抑圧を強いたと立証し、その結果として自分が損害を受けたことも示さねばならない。法学者によれば、この種の訴訟を起こせる原告の範囲について、裁判所の解釈は厳格で狭い。

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Dan Wiessner (@danwiessner) reports on labor and employment and immigration law, including litigation and policy making. He can be reached at daniel.wiessner@thomsonreuters.com.

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