5th Street|音響設備ファイル【Vol.96】

大阪・南堀江の5th Street。中川イサト、住出勝則、岸部眞明、押尾コータローなどの著名ギタリストも出演してきたライブ・スペースで、ソロ・ギター音楽の発展に貢献し続けている。今年、同店にBOSE PROFESSIONALのPA用ポータブル・ラインアレイ・システムL1 Proシリーズが導入された。2021年の発売以来、根強い人気を誇るL1 Pro。その魅力について、スタッフの方々に聞く。

Text:辻太一 Photo:井上嘉和

“どこで聴いても同じ音がする”水平指向性180°のラインアレイ

 5th Streetは1つのビルの中に3つの会場を持つライブ・スペースで、2階がバー・スタイル、3階がホール・スタイル、屋上がルーフトップ・スタイルの会場となっている。2階は20〜30席を収容でき、2インチ・ドライバー×16個のラインアレイと15インチ相当の楕円形サブウーファーから成るL1 Pro16を導入(上のメインカット)。3階は約50席で、2インチ・ドライバー×32個のラインアレイL1 Pro32、15インチ相当の楕円形サブウーファーSub2を常設している。

 同店は2003年にオープンし、2017年に現在の地へ移るまで大阪府吹田市で営業していた。シッティングで100人ほど入る店で、15インチのポイント・ソース・スピーカーに18インチのサブウーファーを合わせて外音を賄っていたそう。「それらの機材を今の3階に持ってきて使っていたのですが、50人の空間に対してはオーバースペックでした」と話すのは、創業者の前田法利氏。PAエンジニアの川口英治氏も「筐体が大きく存在感が強すぎましたし、出音のバランス調整には設置角やEQなどの試行錯誤が必要でした。リスニング・ポイントによって、どうしても聴こえ方に差が出ていたんです」と、長年の悩みを振り返る。

 それをたちどころに解決したのがL1 Proだ。「3階でBOSE PROFESSIONALさんが試聴会を開いてくださったときに、どこで聴いても同じ音がする!と衝撃を受けました」とは前田氏の弁。3階への導入を決め、今年3月の押尾コータローのファン・クラブ限定ライブでお披露目することとなった。

 「以前は、ステージの真ん前にいるお客さんに向けて中抜け防止用のスピーカーを設置していたのですが、L1 Proを導入してからは使う必要がなくなりました。ステージの手前がアーティストを間近で見られて、なおかつメイン・スピーカーの音をきちんと聴ける特等席になったんです」

 それもそのはず。L1 Proの水平指向性は180°なので、ステージのすぐ手前、つまりメイン・スピーカーとほぼ水平の位置もカバー・エリアとなる。前田氏いわく「なじみのお客さんから“音が去年と全然、違いました。すごく良いですね”と言ってもらえたんです」。一方、川口氏は「卓の前で作った音が、そのまま客席で鳴ってくれる。だから、あちこちでチェックしたり、スピーカーの角度を変えたりする必要がないんです。アコースティック・ギターの演者がよく使うコーラス・エフェクトも、あらゆる場所で同じように聴こえます」と語る。

3階は50席のキャパシティ。ステージの両側にL1 Pro32とSub2を配置している。これらを導入して以降、ステージの高さを上げたという

3階は50席のキャパシティ。ステージの両側にL1 Pro32とSub2を配置している。これらを導入して以降、ステージの高さを上げたという

3階の会場にインストールされたL1 Pro32(写真中央)とSub2(同左下)。L1 Pro32は2インチ径ドライバー×32個を縦に連ねたラインアレイ・システムで、Sub2は10インチ×18インチの楕円形サブウーファーだ。Sub2は通常のサブウーファーで言うと、15インチ・モデル相当の性能を有する

3階の会場にインストールされたL1 Pro32(写真中央)とSub2(同左下)。L1 Pro32は2インチ径ドライバー×32個を縦に連ねたラインアレイ・システムで、Sub2は10インチ×18インチの楕円形サブウーファーだ。Sub2は通常のサブウーファーで言うと、15インチ・モデル相当の性能を有する

L1 Pro32のパネル。2系統のマイク/ライン/楽器入力と1系統のBluetoothレシーバー/AUX入力は、それぞれ音量/EQ/リバーブのコントロールやミュート・ボタンなどを備える。システムEQとして、LIVE/MUSIC/SPEECHを搭載。ライン出力の右に見えるのは、同社T4S/T8S ToneMatchミキサーに接続するための端子

L1 Pro32のパネル。2系統のマイク/ライン/楽器入力と1系統のBluetoothレシーバー/AUX入力は、それぞれ音量/EQ/リバーブのコントロールやミュート・ボタンなどを備える。システムEQとして、LIVE/MUSIC/SPEECHを搭載。ライン出力の右に見えるのは、同社T4S/T8S ToneMatchミキサーに接続するための端子

Sub2の背面には、2系統のライン入出力やライン入力用EQ(L1 Proに最適化された設定および多目的LPF)、ライン出力用のEQ(多目的HPF)、極性切り替えボタンなどが認められる

Sub2の背面には、2系統のライン入出力やライン入力用EQ(L1 Proに最適化された設定および多目的LPF)、ライン出力用のEQ(多目的HPF)、極性切り替えボタンなどが認められる

近づいてもうるさくなく遠ざかっても明瞭に聴こえる

 3階に続いて、2階にもL1 Proが導入された。2階のフロアはL字型で、縦の辺の先端部にステージを構える。観客が横の辺のバー・カウンターに来ることもあれば満員になることもあり、そうした場合に従来のポイント・ソース・スピーカーでは均一に聴かせることが難しかったという。

 「ステージ手前だと音がキツく聴こえて、バー・カウンターの付近では聴こえづらいという状況でした」と前田氏は振り返るが、やはりL1 Pro導入後は“どこで聴いても変わらない音”になった。L1 Proのラインアレイは複数の2インチ・ドライバーを縦に並べた構造なので、本体に近い位置ではドライバー数個分の音量、遠ざかるとより多くのドライバーを合わせた音量となる。ゆえに近づいてもうるさくなく、遠くでも明瞭に聴こえるのだ。こういったラインアレイならではの美点に先述の水平指向性180°が合わさることで、L1 Pro特有の広大なカバレージが実現される。店長の髙橋このみ氏は“お客さんファーストなスピーカー”だと言う。

 「どこにいても変わらない音で聴けるので、10~20席だったキャパシティを20~30席と謳えるようになりました。我々は、お客さん1人1人から同じ入場料をいただいて運営しているので、皆さんに等しく聴こえるようにすることが理想です。その理想を叶えてくれるL1 Proは、ある程度のコストをかけてでも2階と3階の両方に導入すべきだと思いました」

 導入コストに関して、ラインアレイ・システムとしては比較的リーズナブルであることも出色だ。

2階の会場は20〜30席のキャパシティ。写真はL字型フロアの縦辺部で、ステージの両側にL1 Pro16が置かれている。写真では見えないが、右側にL字の短辺部が位置している

2階の会場は20〜30席のキャパシティ。写真はL字型フロアの縦辺部で、ステージの両側にL1 Pro16が置かれている。写真では見えないが、右側にL字の短辺部が位置している

L1 Pro16の背面。L1 Pro32のパネルと同様の構成で、全3系統の音声入力やそれぞれの各種コントロール(音量、EQ、リバーブ)、システムEQ、外部連携のための端子類を装備する

L1 Pro16の背面。L1 Pro32のパネルと同様の構成で、全3系統の音声入力やそれぞれの各種コントロール(音量、EQ、リバーブ)、システムEQ、外部連携のための端子類を装備する

L1 Proラインアレイの接写。2インチのドライバーは左右に角度を付けて配置されており、広大なカバレージを実現している

L1 Proラインアレイの接写。2インチのドライバーは左右に角度を付けて配置されており、広大なカバレージを実現している

ルーフトップ・スタイルの会場にBOSE PROFESSIONALのワイヤレス・ポータブルPAシステムのS1 Pro+とマイクを設置したところ。このように開放的な環境でライブが行われることもあるそう

ルーフトップ・スタイルの会場にBOSE PROFESSIONALのワイヤレス・ポータブルPAシステムのS1 Pro+とマイクを設置したところ。このように開放的な環境でライブが行われることもあるそう

S1 Pro+は、239(W)×333(H)×279(D)mmのコンパクトな筐体に6インチ・ウーファーと3つの2.25インチ・ドライバーを搭載し、内蔵の充電式リチウム・イオン・バッテリーで最大11時間の連続再生を実現する

S1 Pro+は、239(W)×333(H)×279(D)mmのコンパクトな筐体に6インチ・ウーファーと3つの2.25インチ・ドライバーを搭載し、内蔵の充電式リチウム・イオン・バッテリーで最大11時間の連続再生を実現する

S1 Pro+の側面〜背面には、2系統のマイク/ライン/楽器入力や1系統のBluetoothレシーバー/AUX入力、それぞれのコントロールがスタンバイ。別売りのトランスミッターを併用すれば、マイクや楽器もワイヤレス接続可能だ

S1 Pro+の側面〜背面には、2系統のマイク/ライン/楽器入力や1系統のBluetoothレシーバー/AUX入力、それぞれのコントロールがスタンバイ。別売りのトランスミッターを併用すれば、マイクや楽器もワイヤレス接続可能だ

ラインアレイやサブウーファーを分離できるので出張PA時の可搬性が高い

 L1 Proの音色は、いかなるものなのか? 川口氏が語る。

 「ラインアレイとサブウーファーが、クロスオーバー周波数の200Hz辺りで奇麗に混ざっています。その帯域は、男女を問わずボーカルの柔らかさを担うところで、人の気持ちを伝える上でも重要だと思うので、“声の中身の部分”と言えそうです。ハイやローの過度な強調に走らず、その中身の部分をきちんと出しているのがL1 Proではないでしょうか。もちろん、ギターにとっても大事な帯域です」

 37Hz(L1 Pro32+Sub2)や42Hz(L1 Pro16)といった低域特性は、ソロ・ギター音楽にも理想的だと前田氏は言う。

 「アコースティック・ギターのボディをたたいて“ドン”って鳴らしたり、箱鳴りを聴かせたりしたいときに深い低音が必要です。ギタリストはボディ・ヒッティングの余韻まで聴かせたいと言うんですよ。それがアコースティックらしい音なんだと。だから我々はローカット前提での音作りはしないし、二十数年来、ギタリストが望む低音を意識してきました。L1 Proを手に入れたことで、その意識をうまく具現化できるようになったと思います」

 出張PA業務もこなす5th Streetの音響チーム。L1 Proはラインアレイ、エクステンション(ラインアレイ部に高さを持たせる柱材)、サブウーファーを分離させることができるため「持ち出しや運搬が楽なんです」と前田氏は話す。

 「スピーカーを何台も持ち出していたころには戻れません。出張業務でも普段のライブ・スペース業務でも、本当にいろいろな負担を減らしてくれたのがL1 Proです」

写真左から、5th StreetのPAエンジニア川口英治氏、店長の髙橋このみ氏、創業者でPAも手掛ける前田法利氏。5th Streetは前田氏が1998年に立ち上げた同名のWebサイトが起源で、当時はそのサイトにギタリストやギター好きが集まっていたそう

写真左から、5th StreetのPAエンジニア川口英治氏、店長の髙橋このみ氏、創業者でPAも手掛ける前田法利氏。5th Streetは前田氏が1998年に立ち上げた同名のWebサイトが起源で、当時はそのサイトにギタリストやギター好きが集まっていたそう

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